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終壊

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「幽。……あいつはあんたに、俺の事を喋ったのか?」
「はい。小さい時に。それで昨日、羽島さんに何年ぶりかでお兄さんに会ったって聞いたんです。でも、でも、別人みたいだったって……」

幽が引き取った先はひょっとして彼女の関係者だったのだろうか。だから、役者になった。養父養母が金持ちだったのは芸能関係の職だったから、だろうか?
俺が過程を推測している間、聖辺は落ち着かないように携帯をちらちら見ていた。通報する様子は無さそうだ、むしろ突き出すならさっき絶好の機会があったのだから。知人の兄だからって助けるなんて、あれ?

「なんで俺の事……顔を知っているのか?」
「え?」

聖辺はかなり動揺したように携帯を取り落としそうになった。映っていたのは待ち受けでもメールでもなかったが遠いのでよく判らない。俺が眉を顰めたのを見た彼女は見る見るうちに青ざめたので何か失言でも言ったかと不安になったが、今の俺には一分一秒が惜しいのでもう一度聞いた。

「幽は何処に居る? あんたには迷惑かけないから教えてくれ」
「あ……えっと……。この時間だともう撮影も終わるだろうから控え室だと思うよ。……っ、って!」

そこでまた携帯を見つめる。まるで台本でも読むような口調に首を傾げたが、立ち上がった俺は場所を聞いて扉を開ける。慎重に人の気配が無いかどうか探ると、そのまま部屋を出た。

「あ、あの!」
「……?」
「お名前は……?」
「……平和島、静雄。すげえ世話になった。落ち着いたら礼をさせてくれ」
「い、いえお礼なんて! 気をつけてくださいね」

半分聞き流して俺は走り出した。すぐに聖辺がぎゅっと握り締めていた携帯を開いてボタンを何個か慌てたように押した。

「あの……これで、良かったですか?」

何処かに通話しているのをなんとなく感じながら俺には関係ないと幽の元へ急ぐ。ひょっとしたら、幽が目当てだと既に言ってしまったから、もう保護されているかもしれない。そうなったらかなり厄介だ。焦燥感に駆られていた俺は背後から近づいて来た気配に気付けず、首に後ろから腕を回されてやっと捕まった事を理解した。

「見つけました! 見つけましたよ!」

耳元で若い男の声が叫ぶ。俺は不法侵入者だからか、相手も容赦してこない。ぎりりと締め上げられて声も出せず苦しくなる。そのまま何人もの警備員に取り押さえられ手錠がちらついた時には全力で暴れた。本気を出せば恐らく全員を蹴散らせる。でも、怪我をさせずに、出来るだろうか。人を傷付けるのは、特に喧嘩を吹っかけてきた訳でもない善良な人に手を上げる事は、……。
迷いが仇となり警察まで現れてしまった。がやがやと役者や関係者が遠巻きに見ている中を必死に探すと、その中に、ずっと探し続けた幽が居るのに気がついた。眼を見開く。やっと、やっと見つけた。

「か、……かす、か」

大声が出せない。なんとか幽に気付かせないと。俺は首に腕を回している男の腕を強引に引っぺがし、一瞬呼吸出来た隙をついて、まるでお祭り騒ぎみたいに騒がしい中心ではっきりと叫ぶ。

「っすか、幽! 幽ぁ!」

不意に自分の本名を呼ばれてぎくっとした幽は、恐る恐るといった体で近付いて来た。すぐに婦警と思われる女性が牽制していたが力強く振り払っている。信じられないものを見ているような眼を覚まさせる為に、もう一度。

「幽!!」
「にい、さん」

幽の口が確かにそう綴った。はっとした弟は騒ぎの中心に向かって走り出し、怒声に負けない大声で「やめてください!」と叫んだ。何時も無口な幽の叫び声なんて聞いた事が無い。俺は驚いて動きを止めたが周りはそうじゃない。すると幽は天井の低い廊下に反響するぐらいの、さっきの比じゃない大声を放った。

「やめろ! やめて!」

一体何処からそんな声を出したのか、周りが驚いて幽に視線を向けると、幽はすぐさま俺に駆け寄って拘束を解かせようとしている。混乱している周りに事態を収拾させようとしたのか、

「この人は僕の身内です、僕に用があって来たんです。悪い人じゃありません」

と叫んだ。そんな幽に慌てて近付いて来たのは、あのハゲだった。こいつマネージャーだったのか?

「羽島君何を言ってるんだ」
「チーフ、僕に面会したがっていた人を追い払ったって、僕の兄に向かって、どうして!」

本当は「よくもそんな事を」と言いたかったのだろう。なんとなくそう思った。幽の言葉で、また周りが騒ぎ出し始める。俺の周りから警備員が退くと、幽は俺をじっと見つめた。昨日あんな別れ方をしたのに。ばつが悪くなって、逸らしたかったが、俺も見つめ続けた。幽は激情が少しずつ収まってきたのか、俺の手を取ると役者がたくさん居る方へ歩き出した。

「か、幽?」
「俺の部屋に行こう」

周りが道を開けていく。その中には聖辺も居て、俺を見てほっと胸を撫で下ろしたような顔をしてくれたので軽く会釈する。暫く歩くと楽屋らしき場所に連れられたので、中に入るとパイプ椅子と机が並んだ質素な部屋が出迎えた。
ぱたんと扉を閉めた弟に名前を呼びかける前にいきなり抱き付かれた。まだトラウマが残っているし、正直怖い。だけど昨日電話口に声を沢山聞いたお陰か、昨日ほど拒絶反応は出なかった。慣れだろうか、すっかり固まった俺に幽は暫く何も言わなかったが、ようやく顔を上げるとぽそりと呟く。昨日初めて羽島幽平としての幽を見た時、まるで機械みたいな奴だと思った。だけど今は、本当に、単なる人間だ。

「帰ってきてくれたの」
「……?」
「そうでしょ? だって、此処に居る。あの人に俺、言ったんだ。俺に兄貴を返してくださいって」

幽からすれば、そういう事になるのだろうか? うっかり流されそうになった俺は慌てて首を横に振った。

「い、いや、そうじゃなくて。俺は……お前と、ただ、話がしたくて」
「話? 話だけ? こんな、俺が見つけなかったら今頃犯罪者になっていたかもしれない危険を冒して俺にお話する為だけに来たの?」

棘のある言い方に理解が追いつかない。こいつは何を怒っているんだろう。とりあえずさっきのハ……マネージャーの時の二の舞にならないよう俺は先手を打つ事にした。

「お前との事は、俺がなんとかしないとと思ったんだ。だって、俺は、その、……お前の兄貴、なんだし」
「……なんとか、って。帰ってきて、くれたんじゃないの? 違うの?」

俺の服をぎゅうと握って、まるで縋るような目線を向けてくる。訳が判らなくなり、そして臨也に植えつけられた幽への恐怖心も手伝って一歩後ずさっていた。

「帰るって……。お前には住んでいる所があるだろ? 俺にだって」
「俺は兄さんと一緒に暮らしたいんだ!」

握られていただけの服が思い切り引かれる。混乱の中、俺が幽の立場だったら、……いや考えられない。じゃあ、俺と臨也との関係に置き換えたら? 俺は、臨也と、一緒に暮らしたい。……そういう事か。

「な、なんでだ?」
「なんでって……兄さんは俺と暮らしたくないの?」
「だって俺は臨也と……」

おろおろしながら言った言葉が、幽の逆鱗に触れたのか。昨日の電話で臨也と言い合いをしていた事をすっかり忘れていた俺は幽の眼光に動けなくなる。
作品名:終壊 作家名:青永秋