二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

終壊

INDEX|6ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 


自宅に戻ってソファに腰掛ける。慣れ親しんだ場所に来ると人は安心感で忘れていた疲労感に襲われる。俺も例外ではなく、何時に無く疲弊した身体をソファに預け、キッチンに消えた臨也が炭酸飲料のプルトップを押し開く音を意識の外で聞いていた。やがて戻ってきた臨也の手には、半分予想通り飲み物の缶が握られていたが、半分予想が外れ、それは炭酸ではなく酒だった。

「シズちゃんも飲む?」
「……俺、未成年……」
「固いなあ、今時小学生でも舐めてるよ」

発泡を喉に押し込む臨也の感情が読めない。絶望的なまでに読めない。
付き合いが長いから、怒っている臨也が何をどう考えているのかは大筋だけでも判るもの。なのに、今、眼の前に居る男が怒っているのかそうでないのかすら判らない。だから、投げかけられた言葉にもかなり消極的に応える。

「いざ、や」
「なに?」

本当に臨也は知っているんだろうか。知っているなら何故怒らない? 知らないなら何故聞かない?
色んな感情がぐるぐると回る俺に近付いてきた臨也は顔を覗き込む。何時もの笑顔。しかし何処か無機質な気がして、俺は唇を噛む。黙っていたら報復が恐ろしい。此処まで来たら印象の問題ではないが、俺から言った方が臨也の怒りは鎮まってくれる気がした。

「……っ、その……」

追及してくれた方が言いやすいのに、臨也は黙ったまま、片手にビールを持ったまま俺を見下ろす。これが俺のけじめ。大きく息を吸い込んだ俺はそれを言葉にして吐き出す。

「か……幽、に……会った」
「へえ」

大して興味も無さそうに臨也は缶を唇に当てる。なんなんだ、昔は俺が幽の名前を口にしただけで怒り狂ったのに。幽よりも臨也への恐怖の比重が高まってきた俺は、少しでも判って貰いたい想いで震える口を饒舌にする。

「俺、俺は……気付かなかった。でも、向こうは俺に気付いて……。いきなり連れ込まれて、なにするって言ったら、俺の名前を確認してきて……触られて、そこで幽だって思い出して……。そう、したら……す、凄く怖くなって……俺が壊れそうになって、頭が焼け落ちそうになった。それで、……それでっ」

拒絶されたくない。顔を見る勇気は無いけど、ぐっと臨也の服を掴んだ。昔は振り払われてしまったそれ。浮かぶ汗がフラッシュバックする過去を連想させるが頑なに離さない。臨也の手が動く気配にぎゅっと眼を閉じる。助けてくれ、臨也。お願いだ、嫌わないでくれ。そんな気持ちを溢れさせながらも臨也の感情を真正面から受け止められる程俺は強くない。震えが止まらない俺の顎に臨也が触れた。持ち上げられる間もなく、ばっと顔を上げた。

「言ったでしょ、シズちゃん。大丈夫だって」
「あ……あ、……臨也っ」

赦してくれた。思わず臨也が缶を落とすぐらいに勢いよく首に抱きつく。俺を救うのは、臨也のこの温もりだけだ。

「好きだ臨也……っ、ずっと一緒、そう、だろ?」

すぐ近くにある臨也の唇が醜悪な形で甘く歪んだ。

「そうだよ」

まるで酒のように紅に酔う。

「俺はね、幽くんよりも俺を選んでくれたのが嬉しいんだよ」

囁かれた言葉が嘘か本当かなんて考えずに素直に鵜呑みにする。堰を切った俺の理性が良い子を演じた。

「あ、あいつ、勝手に俺の世界に入ろうと、してきてっ、だから俺、俺に弟なんて居ない、って言った! 俺を兄なんて呼ぶな、って、言い返した! それなのにずっと言うから、どうしたのって、聞くから、居ないってずっと言って、あいつが俺を壊そうとするから! 俺が信じるもの全部全部、壊そうとするから!!」

嗚咽の混じった絶叫に臨也は笑みを絶やさず、俺の背を撫で続ける。縋りつく腕は益々力を増し、弟の幽を全否定する。だってそうしないと臨也に嫌われる。あいつを加害者にしないと俺が壊れる。臨也によってではなく、過去に起こった出来事ゆえに自主的に俺は幽を拒絶した。俺にとって幽は、一番最後の鍵であり、俺が作り上げた世界を最も壊しうる存在だった。ゆえに俺とあいつは呪われる。俺の中に流れる血が、細胞が、神経が、あいつを求めながら拒絶する。

「大丈夫だよシズちゃん。俺が傍に居るよ。一緒に俺たちの居場所、守っていこうね」
「っ臨也、いざやぁ、っう、ぅ……俺、あいつ要らない……俺は臨也だけ居れば良いっ! あんな奴見たくない、なんで俺の前に現れるんだ、臨也、あいつが俺の中で、俺を呼ぶっ……! 臨也……たすけて……」
「シズちゃん」

傷付いて血を、涙を流す俺の心を包むように、臨也はそっとキスをする。
俺にとっては臨也。臨也だけがすべてなんだ。

「大丈夫、大丈夫」

何度も何度もそう言いながら、俺を落ち着かせるようにキスを繰り返した。赤く腫れた目元に痛々しいとでも言うように苦笑して見つめてくれる。息の上がる俺は促されるままに深呼吸して呼吸を整える。
素直に言って良かった。臨也の言う通りにすれば臨也は優しくしてくれる。大事にしてくれるし、愛してもくれる。熱を逃がすようにほうと息を吐く。俺を撫でる臨也の手付きは温かかった。泣き疲れた俺が重心を預けると、肩を抱かれてソファに沈む。高校に入ってから一回もしていなかった懐かしい腕枕に重たい瞼を瞬かせる。微笑んだ臨也につられて笑みを返し、狭いソファに縮こまるように並んだ。

作品名:終壊 作家名:青永秋