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終壊

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幽の口元がフラッシュバックする。何時の事だ? しかもなんて言ったのか正確に聞き取れない。そう、俺の本当の親が亡くなった次の日くらいだ。葬儀を済ませた後、そう、あいつは俺に抱き付きながらそう言った。でも肝心な所が判らない。ノイズが奔るんだ。

「なんだ……」

幽は何に対して「大丈夫」と言ったんだ。その続きに何を言ったんだ。どうして俺は思い出せないのに、歯が震えるほどその言葉を恐れているんだ?
身体の寒気と震えを抑える為に肩を抱いても、むしろ震え方を自覚して更に怖気づくという悪循環だった。この震えは幽じゃなくて臨也によって起こされているんじゃないだろうか。暗い外を見ながら恐ろしい考えに蓋をしようとするが、溢れ出したそれはもう止まらない。このまま臨也の機嫌が悪いままだったら、俺はどうすれば良いんだ。
廊下で佇んでいた俺は扉が開く音で飛び上がる。臨也の声が「ご飯だよ」と告げてくるが、余りに素っ気ない。慌ててリビングまで戻ると、テーブルには一人分しか置いてない。臨也は休みなくキーボードに何かを打ち込んでいて俺を見ない。

「食べない、のか?」

人生で最も勇気を振り絞って訊ねたが、

「俺は良い」

と返されてもう何も言えなくなった。臨也が視界に入るのに、この余りにも孤独な食卓は無いんじゃないか。いっそ死にたくなって、縮こまって箸を握る。涙が零れそうになって、気付かれないように目元を拭った。何時も俺は、何かあったら臨也に相談していた。臨也が必ず答えをくれたし、十中八九それは正答だった。それに従えば俺に怖いものなんて何も無かった。なのに、今回のはなんだ。俺は何処を、何を間違えた? 何時もと同じくらいなのに恐ろしく固く感じる牛肉を無理矢理喉に流し込んで臨也を横目に見るが、相変わらずあからさまに俺を避けていた。全然噛んだ覚えが無いのに皿の上から消えた食べ物に食事を終えていた事に気がついて、皿をフォークでかちかちする音しかしないので、ゆっくり椅子を引いた。俺の中じゃ疑問しか浮かばない。色んな事に対してなんでと考える様は、さながら自我の芽生えたばかりの児童だ。

「……どうして」

その気持ちを、ぽつりと口にする。臨也には聞こえていないと思っていた。しょんぼりしながら食器を片付けて、まるで習慣のように臨也を見る。相変わらず俺を見てくれないが、作業の手は止まっていた。軽く首を傾げるが、何か言葉をかけて欲しいと同時に今は臨也の言葉が怖く、俺はその場を後にした。自分の部屋に入ってから、ずるずると扉伝いに腰を抜かす。膝を抱えて顔を埋めても、解決策なんて何も見つからなかった。だらだらと時間だけが過ぎる中、廊下の板を踏む音で、自分が泣いている事に気付いて慌てて涙を払う。背中の扉の向こうに臨也の気配を感じて身を強張らせる。臨也の近くに居るのがこんなに怖いと思った事は無い。普段だったらどれだけ臨也を怒らせたって、臨也に縋っていた。なのに今回だけは。

「俺だってなんでも出来る訳じゃないんだよ」

扉越しにそんな声が聞こえてきてぞっとした。すぐに臨也の気配が無くなった辺り、聞かせたくない独り言だったのだろうか。そこでふと、考えが浮かんで涙が引っ込んだ。
そうか、何で俺が臨也を頼らなかったのか。臨也にはどうしようもないと理解していたからだ。どうにか出来るのは俺だけなんだ。これは俺と幽の問題だ。今までは、必ず問題は臨也の方からだった。俺の人間関係は全部臨也関連だったから、臨也が対処出来たのは当然だ。でも今回だけは違う、臨也じゃなくて、俺の問題。幽の事は情報として知っていただろうけど、俺と臨也がどう過ごしたかは知っていても、何を話したのかは知りえない。臨也はどうにもならないと判っていたから苛立っていたのか?

「っ……」

扉を開けるのが怖くて、息も殺して押し黙った。既に臨也は傍に居ないと判りながら、離れた温もりを追えなかった。
俺は、俺で何かをするべきだ。俺は、……独りで幽に会いに行けるだろうか?
出来る、とは断言出来なかった。長年かけて、水面下で臨也に植えつけられた幽への恐怖心は、「なんとかしなきゃいけない」なんていう仮初の義務感で払拭出来る程安くない。事実、数年前に幽に会いたいと思った気持ちを俺は忘れかけていた。俺の左手に残る傷跡。薄らとしか残っていないそれ。

「……」

このままじゃ臨也に赦しては貰えないのだろう。何気なく、そう思った。
ベッドに充電したまま投げ出してあった携帯と財布をポケットに突っ込み、部屋を出る。ちらりと臨也の居る方を見てから、そっと玄関まで向かい、夜の池袋に踏み出す。

幽に会いに行こう。






03貴方を選ぶ為に、僕は一度別れを告げましょう
        (お前以外を視界に入れる、練習を)


作品名:終壊 作家名:青永秋