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北野ふゆ子
北野ふゆ子
novelistID. 17748
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【APH/海賊パラレル】海賊王と東洋の秘宝(2)【セカ菊・朝

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 戦利品を船へ運び込み、負傷者の手当てを済ませる。いつもの「戦後処理」を淡々と終えた後、今日は異例の会議が甲板で行われた。マストの支柱に凭れて立つアーサーの言葉を、乗組員達が待っている。
 両腕を組み、しばらく目を閉じていたアーサーが、口を開いた。
「アントーニョの野郎と「約束」しちまった」
 乗組員達は静かだ。アントーニョを仕留めたと聞いた時から、「約束」の事は予測していた。
「あいつんところにいた、東洋人のガキを」
 僅かに場がざわめく。
「クニに返してやって欲しいんだと」
 え、という声が複数から漏れた。
「「クニ」っていうと…やっぱ「東」ですよね」
 最前列にいた男が尋ねる。
「だろうな」
「東のどこなんですか」
「知らねぇよ。あいつ喋れねぇし」
「ええ!」
 今度こそ一同が一斉に驚きの声を上げた。あの東洋人の子供がどこから連れ去られてきたのかはアントーニョのクルー達も知らず、とりあえず東に向かい情報を収集しようと考えていたらしい。
「それはまた…エラい面倒な約束しましたね…」
「させられたんだ」
 ただ送り届ければ良いというのではなく、故郷の場所探しからしなければならない。それに「東洋の秘宝」とあの子供との関係性も謎のままで。
「どちらにしろ、東に向かう予定だったんだ」
 落ち着かない船員達を言い聞かせるように、アーサーは言葉を続けた。海は穏やかで、空は雲一つ無い青天。波音も少なく、声がよく通る。
「「東洋の秘宝」に一番近いヒントは手に入った。状況は悪くねぇ」
 船長の断言に船員達が表情を引き締める様子を、フランシスとアルフレッドは船橋から眺めていた。不思議とアーサーの言葉には、不思議な引力がある。どんなに強引でも、ついていこう、何かやってくれる、そういう期待を抱かせてくれた。
「それに俺は、東を見てみたい!全ての海を制してこその海賊だろ!?」
 応、と太い声が揃う。誰もが瞳を輝かせていた。
(天性の帝王気質なんだろうな)
 幼馴染二人はそう見ている。
 こうしてキャプテン・アーサー・カークランド一団は、東を目指すこととなった。
「最寄の港で一番デカいとこはどこだ?」
「エクライドだね」
 休息と物資補給を行う為に、まずは陸を目指す。エクライドは大陸を縦断する大河のほとりに拓けた港町。大河を運航する交通網が整っており、隣国との貿易が盛んだ。東に関する情報も何か得られるかもしれない。
「アーサー」
 航海士のアルフレッドとの打ち合わせを終えたアーサーの背中に、フランシスの声がかかる。振り返ると、彼は食事が盛られた皿を載せたトレイを持っていた。「これ」と差し出される。
「別に腹は減ってない」
「違うよおバカ。あの子にだよ」
「…ああ……」
 よく見れば、野菜のグラッセがそれぞれ星やハートの形に切られていて、デザートのプディングにはチョコレートソースで絵が描いてある。
「俺が持っていくのか?」
 トレイを突き出される。
「当然だろ。あの子はアーサーの戦利品なんだもの」
「人聞きの悪い言い方するなよ」
「他にどう言えばいいのさ」
「……」
 答えようがなくなって、渋々トレイを受け取った。あの東洋人の子供は、船長室に閉じ込めたままだ。あれから数時間が経つが、一度も様子を見に行っていない。
「おい、ガキ。メシだぞ」
 自分の部屋だから必要ないとばかりに、ノックをせずアーサーはドアを開けた。天蓋ベッドの上に、シーツが小丘を象っている。
「寝てんのか」
 ガキだからな、と納得しながらベッドに近づく。東洋人の子供は、小さな体を更に小さく折り曲げて、広いベッドの隅に丸くなって眠っていた。手にアントーニョのスカーフを握り締めて。
「……」
 クリーム色の頬に伝ういくつもの涙の跡を、新しい涙が伝う。夢を見ているのか、スカーフを握る手がときどき動く。
「起きろガキ!」
「っ!」
 頭上からの一喝に、黒い双眸が見開いた。ベッドに影を落とす正体を見上げれば、金髪の気難しそうな顔が仏頂面で見下ろしている。
「ぅ…」
「食え」
 驚く間もなく目の前にトレイを突き出される。
「??」
「食え」
 一度トレイの上の食べ物を見つめてから、黒い双眸がアーサーを見上げた。
「………」
 首が横に振られる。
「腹減ってんだろ」
「……」
 また首が横に振られる。
「片付かねぇんだよ。食え」
「……ぅー…」
 やはり首が横に振られる。突き出されるトレイから逃げようと、後ずさった。青白い面持ちは、恐怖に塗られている。毒が入っていると思っているのか。
「ちっ…」
 埒が明かない。サイドテーブルへ乱暴にトレイを置いて、アーサーは部屋を出た。それからさらに数時間後、船員達と打ち合わせと食事を終えたアーサーが自室に戻ると、やはり食べ物はそのままで、東洋人の子供はシーツに包まって部屋の隅―床の上で寝ていた。
「………はぁ……」
 大きく溜め息をつくと、声に気付いて子供が目を開けた。
「!」
 壁にぴったりと体を寄せて、シーツに顔を半分隠して震えている。
「そんなところで寝るな!」
 大股で歩み寄る。「ひっ」と喉の奥で息を詰まらせ、東洋人の子供は両手で顔を庇って縮こまった。何もしていないのに、こちらが罪悪感に苛まれそうになる。
「ぁあっ、あ!」
「大人しくしろ馬鹿!」
 抵抗を見せる手腕を無視して、アーサーは子供の襟足を掴みあげた。母犬にくわえられた子犬状態の体をベッドに放り投げる。スプリングでバウンドした際に漏らした声が「きゃんっ」と聞こえた。
「っぅ…」
 ベッドの上でも同じで、東洋人の子供はすぐさま起き上がってまた壁際に逃げる。どうしてもアーサーから可能な限りの距離をとりたいらしい。
「どう。食べた?」
「まったくだ」
 諦めて部屋から出てきたアーサーを、料理を作った本人、フランシスが廊下で待ち構えていた。
「ま、しょうがないね。今日の今日じゃ。明日は目の前で少し食べてみせてあげてよ。そしたら安心するかもしれない」
「また俺がやんのか」
 うんざりと肩を落とすアーサーを「当たり前でしょ」と軽く突き放し、フランシスは笑って厨房へと戻っていった。

「……ん…」
 三日目の朝。ソファで寝ていたアーサーが目を覚ますと、東洋人の子供はやはり部屋の隅で丸くなっていた。昨晩用意した夕飯は、やはり手付かずでサイドテーブルに置きっぱなし。コップの中の水さえ減った様子が無い。
「またかよ。いい加減に…」
 子供に近づき、思わず足を止めた。
「え…?」
 何か様子がおかしい。五歩以内に近づいても、目を覚まさないのだ。安心しているでも、深く眠っているでもない。
「…おい」
 嫌な予感がして駆け寄る。肩を揺すってみて、いよいよ異変に気がついた。触れた肩がやけに骨ばっている。瞳を閉じた面持ちは蒼白で、死体のようだ。唇が乾き、微かに開いてようやく空気を体内に取り入れているだけ。揺すっても身じろぎすらしない。呼吸で上下するはずの胸元も、ほとんど動いていなかった。
「クソ!」
 シーツごと小さな体を持ち上げる。抵抗は全く無い。まるで張りぼての人形のように軽い。
「強情にも程があるぞ!」