二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
さらんらっぷ
さらんらっぷ
novelistID. 17853
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

歓喜の歌は己が為に響かせる 前編

INDEX|3ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 



 音楽教師の部屋を後にした後、部活に参加した。サッカーに夢中になって、部活が終わる頃にはすっかりコンサートのことなんて忘れていた。鬼道さんに相談しようと思っていたのに、何もせず家に帰ってしまった。
 日本には年末になると「第九」をメインとするコンサートが各地で執り行われている。帝国学園はそれに倣い、また生徒たちの教養の高さをアピールするために、外部から観客を呼び、十二月に第九コンサートをすることが習わしになっていた。
 昨日、音楽教師から渡された紙を読み込むと、第九コンサートが行われる経緯と、練習日が詳細に書かれていた。どうみてもそれはすでにコンサートに参加することを承諾した生徒向けのプリントで、俺のような断る気満々の奴が持っていいものじゃなかった。しかし、総帥がコンサートの参加に許可をするだなんて……俺は要らないということを暗に言っているようにも感じられた。
 自室で、CDが適当に置いてある棚を探ると奥底に第九のCDが眠っていた。別に俺の趣味ではない。教材のようなもので、親が俺に与えただけ。白髪の、厳格そうな顔をしたおっさんがタクトを持って指揮をしていた。鬼道さんだったら似合うだろうなぁ、と頭の隅で余計な妄想が出てくる。あの人はサッカー部の司令塔、
おそらくオーケストラで言うなら指揮者とかコンサートマスターにあたる人なんだろう。
CDはまた棚の中にしまった。ただ、存在を確認したかっただけだった。
 「第九」と言っても、第九は何個も存在している。その正式名称は交響曲第九番のことをいい、
日本ではベートーヴェンの作曲した交響曲第九番を親しみを持って「第九」と呼んでいるのだ。
いわゆる喜びの歌とか、歓喜の歌と呼ばれる旋律を持つのがこの第九だった。
交響曲にして、合唱付きという当時としては規格外のシンフォニーだった。
何度か親に連れられて聴きに行ったことはあった。
 舞台にはオーケストラと合唱団、そして合唱団とは別に四人の男女――彼彼女たちはソリストと呼ばれ、ソロを歌う人たちだ。
演奏会なんて眠たいだけで、あまりいい思い出はない。全ての楽章を弾き終えた途端、周りは立ち上がり「ブラボー!」と声を上げる。
周りに合わせて立ち上がり惜しみない拍手を送る。
「いい演奏だったわね。」
隣にいた姉が興奮気味に俺に話しかける。帰りの車の中もどの楽器がこうで、あの指揮者のあの解釈の仕方がどうので
熱心に語っていた。母はそれを嬉しそうに聴いていた。姉はもともと音楽を志していて、夢を持つ彼女を家族は応援していた。
その姉も今や留学中のため家にはいない。
 持っていたプリントを放り出し、体をベッドの上で大の字にした。すると、コンコンと控えめにノックする音が聞こえた。
返事をすると現れたのは父だった。すぐに体を起こした。
「次郎、帝国学園から電話があったんだが――、」
「なんですか?」
「よかったな!演奏会のメンバーの召集を受けたそうじゃないか。」
嬉しそうな父に反し、俺は思わず体に力を入れてしまった。
「お姉さんもそうだったし、私はお前にも音楽の才能があると感じていたが――間違いじゃなかったようだ。」
部屋に入ってきた父親は、部屋の片隅にある俺のヴィオラを見ると満足そうに笑った。
「演奏会には私も出席しよう。各界の著名な方々もいらっしゃるそうだ。頑張れよ。」
俺の肩にポンとその大きな手を置いて、父は笑顔のまま部屋の出て行った。
「――お、俺は出ないつもりなのに……!」


 翌朝になると、母親も俺のことをもちろん知っていて電話で褒められた。母は姉と一緒に留学先で暮らしている。毎月、手紙が送られてくるが随分、あちらで楽しんでいるようだ。
「次郎が演奏会に出るなんてどれくらいぶりかしら。しかも、オーケストラだなんて初めてじゃない?
母さんも聴きにいきたかったわ。そういえば、サッカー部の方はどうなのかしら?」
「順調です。レギュラーもずっと維持しています。」
「でも、お母さん、あなたは音楽の才能の方があるように感じているのだけれど――こっちに来ない?」
「僕はサッカーの方が好きですし、向いています。それよりそっちの時間だと、夜中ではないのですか?身体に障りますから――。」
話をすり替えて、電話を終わらせた。母もそうだが、俺もこれから学校だ。長々と電話をしていては遅れてしまう。しかし、いつ演奏会は出るつもりがないということを伝えればいいのだろう。もう父親も母親も俺が出るつもりでいる。鬼道さんにも昨日、相談ができなかった。今日こそしよう。影山総帥にも言いに行かなければならない。
 家から車で帝国学園まで数十分。車で登校する生徒も多いため、専用のロータリーが帝国にはある。そこで下してもらい、真っ直ぐ部室へ向かう。サッカー部はほぼ毎日、朝練がある。
「おはようございます!」
「おはよう。」
サッカー部所属の出迎えの生徒たちの列を通り抜け、部室に入ると鬼道さんと源田がいた。
「おはようございます!」
今度は俺が出迎えの生徒並に元気よく挨拶をした。
「あ、佐久間。よろしくな!」
「は?」
源田がいきなり俺に向かって手を振ったかと思えば、今度は握手をされた。
「鬼道さん、何かあったのですか?」
「源田にも召集がかけられたそうだ。」
その召集が何なのかわからず、口をもたつかせていると源田が口を開いた。
「第九の演奏会、俺も出ることになった。今、鬼道に許可を貰ったところなんだ。」
「佐久間はオーケストラで参加するんだろう?サッカー部としても嬉しいことだ。是非、頑張って欲しい。」
俺は唖然として、口をぱくぱくとさせてしまった。なんということだ、両親のみならず鬼道さんまでそんなことを言うなんて。これは――頑張る他ないじゃないか……。
 「佐久間は何の楽器をやっているんだ?」
源田の声にハッとして、口を開けていたのに気付いた。気を抜かすだなんて、サッカー部員としてあるまじきことだ。
「俺はヴィオラだ。お前は?」
見た目からにして絶対、弦楽器じゃない。弦楽器だとしてもコントラバスだろう。でも、あの撫で肩の楽器に源田というイメージが俺にはわかなかった。
「ああ、授業ではトロンボーンだ。だけど、俺はオーケストラで参加するんじゃないんだ。」
「源田は合唱団の参加だ。声変わりもしているし、いいバスになるんじゃないか?」
鬼道さんがそう説明してくれた。そうか、こいつは一年生の中でも声変わりをさっさと済ませている。それで召集がかけられたのかもしれない。同じオーケストラでなくて少しホッとした。練習の度、こいつの姿を見なければならないというのは嫌だ。それにこいつはサッカー部ではゴールキーパー。俺のようなフォワードが自陣のゴールキーパーを見るときというのは、試合が敵に支配されているときだ。そのせいか、こいつの姿を見ることは許せなかった。
「さ、朝練も時間がない。練習に入ろう。」
鬼道さんの声に俺と源田が返事をした。


 行動は早い方がいい。昼休みに俺は早速、音楽教師のもとにわざわざ足を運んで返事をよこした。教師はありがとうと俺の手を硬く握った。
「もう音楽部はすでに第九の練習に入っている。よかったら、放課後好きなときでいいから来てほしい。