二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
さらんらっぷ
さらんらっぷ
novelistID. 17853
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

歓喜の歌は己が為に響かせる 後編

INDEX|3ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 



 憧れていたんだ。
 お前は何でもできるから。
 お前は信頼されているから。
 羨ましかったんだ。


 サッカーの練習は厳しいものだ。フィジカル、メンタル、テクニック――あらゆる力を個々の選手が手に入れ、選手たちが一つのチームを作ったとき、それがバランスよく合わさり、チームとして最高の力を発揮できるようにしなければならない。
 俺は鬼道の参謀であると同時に、帝国イレブンのメンバーとの連携プレイができるよう調整していた。その連携プレイで今、練習しているのが新しい必殺技であった。同輩の寺門と初等部から練習しに来ている来年の新一年生である洞面。彼らと俺はずっとその練習に明け暮れていた。強いチームというのは絶対的な強さを持つ。その一つとして開発していた。なかなか手強く、三人が一体となり繰り出す技故に、タイミングや蹴る角度など、様々な問題が障壁として立ち塞がっていた。
 息もすっかりあがり、休憩をとろうと寺門に言われベンチに下がりドリンクを飲む。口を拭い、タオルで汗をふき取りながら自分たちが使っているフィールドとは反対側のゴールを見る。鬼道とディフェンダーたちと源田でポジションの確認がされていた。
 「俺は佐久間に追いつきたい。」
あの演奏会の日に言った源田の言葉を反芻する。
 帰りは源田を車に乗せて自宅まで送っていった。そのとき改めて訊いた。俺に追いつきたいとはどういうことなのかと。俺に追いつくということは、俺の居場所であるはずの鬼道さんの隣を奪うことなのだろうか。正直に言う、俺はそれを恐れていた。俺にはまだ絶対的な自信がない。何故なら今こうして必殺技を完成できないような参謀だからだ。そして、必殺技が完成できないにも関わらずオーケストラを手伝えとまで言われ、あっちに厄介払いされている気分なのだ。
 それなら合唱で誘われた源田も同じだろう。いや、違うんだ。あいつはいつも鬼道さんの隣にいて、初等部の頃から一緒のはずの俺より鬼道さんと親しい。気のせいではないはずだ。そして源田は俺と違い、総帥の推挙があって今、ここにいる。俺はずっと鬼道さんの隣で支えられるよう努力してきた。だがこいつは簡単にその場所にいるように感じてならない。そして、そんな気に喰わない奴が俺に追いつきたいとは何事なのだろう。
「に、睨むなよ……。ただ、単純に佐久間はすごいから、俺もそうなれたらいいなって思っただけだ。」
「俺に追いついて何をするつもりだ。」
源田は窓から外を見る、時間稼ぎのつもりだろうか。
「キーパーやってると、みんなのことがよく見えるんだ。」
ようやくこちらを向く。車内は時折、街灯の光が差し込むくらいで大した明るさはない。いつしか見た表情を源田はしていた。
「その中でも、佐久間はなにかこう……オーラがあるんだ。こいつだったらやってくれる、みたいな。それに、鬼道をいつも支えている。いつも鬼道は佐久間を頼りにしている。それが……すごいと思うんだ。すまん……あんまり、上手く言えなくて。」
 「佐久間。」
背中が冷たくなって、まっすぐになる。現実に帰ってきて、焦点を合わせると鬼道さんがいた。
「佐久間、ボーッとしてるが大丈夫か?」
「すみません。」
「身体に支障ないならいい。さっきの練習のデータが出た。修正しよう。洞面も寺門も来てくれ。」


 俺は鬼道さんに頼られている――。
 源田に言わせればそうらしい。俺は実感したことがなかった。まだ大した活躍もできず、鬼道さんに貢献できているかどうかだなんて。俺が帝国イレブンのレギュラーメンバーとしてここに立っていることが何よりの証明。そんな風に自分を励ますときもあったし、それを誇りとして持つことも大切だと思っている。それでも、懐疑的になるのは性格のせいだろうか。
 練習を終えてロッカールームから部員が全員去るのを見送る。
「先輩、今度こそ成功させましょうね!」
「ああ。」
洞面と、拳骨を作ってコツンとぶつけ合う。可愛い後輩だ。
「データ上ではタイミングはほぼ完璧だ。後は蹴り方か。」
「また後で解析係に聴いておく。寺門もお疲れ様。」
寺門もロッカールームから去って、俺一人になった。
 簡単に点検をしてから、部屋から出る。あと数十分立てば勝手に鍵が閉じられる。急いでロータリーに向かって廊下を走る。ローファーと床がコツコツという音をたて、壁に反響する。
 施設から出て、一息つくと傍らに気配を感じた。植え込みに源田が突っ立っていた。
「どうした?忘れ物か。もう時間なら無いぞ。」
「佐久間を待ってたんだ。」
「……何の用だ。」
「実は……。」


 とうとう本番一週間前。演奏が行われる会場も開かれた。もともと明治時代から続く帝国学園には、この近代的且つ要塞のような壁の向こう側には明治の趣を残した建物が現存している。その中に、昔に使われていた講堂がある。二階まで吹き抜けになっている構造で、内装の白い壁と柱が印象的だ。そこで演奏会は執り行われる予定になっている。
 音楽部も合唱部も講堂の舞台裏に楽器や楽譜からその他諸々の道具が持ち運ばれ、音楽室はもぬけの殻となった。昼休み、誰もいないことを確認して音楽室に忍び込む、俺と源田でだ。
「本っ当にすまない!」
「だったらすぐに歌えるようにしろ。」
グランドピアノのカバー部分を開き、イスに座る。
 ――ドイツ語が読めない。
 合唱に採用されたはいいが、ずっと読めないまま参加してきたというのだ。
「よかったな。指揮者によっちゃ、読めるのは当然で意味も把握してないと怒られるっていうし。」
「俺、英語だってさっぱりなのに。」
 源田の用事、もとい頼み事とは歌が歌えるように練習に付き合って欲しいとのことだった。自分も人がよすぎると思いつつ、昼飯の恩があった。食わされているとは言え、食わせてもらっている身だった。いつまでもされっぱなしというのはこちらとしても、いい気分ではなかった。
 そこで、俺が直々にドイツ語の指導となったわけだが……、鬼道さんから俺が少しだけドイツ語を嗜んでいることを聞いたらしい。鬼道さんだけに、何も言えない。
 ピアノで旋律を弾いて、源田に歌わせる。稚拙なドイツ語の歌声が静かな音楽室に響く。時折、発音の仕方を指摘しつつ(歌い方は知らない)、歌わせる。
「……あー、その発音はもっと息を使うんだよ。」
「息を、使う?」
「息の量増やすの。」
俺の言いたい、歌わせたい発音が全く違うニュアンスで発音される。
「どう、発音すれば……。」
「俺が歌えってか?周りの奴らはできてるんだろ?ちゃんと聴けよ。」
正直、人前で歌うのは恥ずかしい。カラオケなら別だが。 それから、最後まで歌わせて気になる部分だけ修正させた。素人がここまで歌えれば十分だろう。
「ありがとう、佐久間。」
「いーよ。昼飯のこともあるし。鬼道さんからの推薦だったんだろ、俺は。」
正直、鬼道さんからの推薦という点では頼られているように感じて嬉しかった。エレベーターを下り、二階に出る。ここから渡り廊下を通って、教室のある棟まで歩く。
その渡り廊下の途中、源田は立ち止まった。
「本当――佐久間は何でもできるんだよな。」
「何、改まって言ってるんだよ。教室、帰らないと。」