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【ときメモGS】愛と友、その関係式【一話目】

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「いいから。しっかり、練習しなさい。女子バスケ部期待のエース、なんでしょ?」
 有沢は悪戯っぽく笑うと、美奈子の頬が赤くなる。
「もう、からかって。でも、ありがとう。お言葉に甘えるね?」
「いいのよ。それじゃあね、また明日」
 有沢はくるりと踵を返すと、背筋をぴんと伸ばして帰っていく。見送って、美奈子も手早く荷物をまとめると教室を後にした。
 
 夕暮れに染まる廊下、校舎と体育館をつなぐ渡り廊下。あっという間に駆け抜けて、美奈子は両開きの体育館の扉を勢いよくあけた。中からはゴム製のボールが弾む音。それがバスケットボールの音だということはバスケ部の美奈子にとって容易かった。そして、この時間に練習しているのは――。
「かっずまぁぁぁぁ!」
 叫ぶ。美奈子の声は体育館に木霊して、弾んでいたボールの音が止まる。
 美奈子の予想通り、弾んでいたのはバスケットボールで練習していたのは他ならない鈴鹿和馬本人であった。
 青みがかった短髪。力強い眼差しに似合う太い眉毛。ほっぺたにはトレードマークのように一枚、肌色の絆創膏が貼ってある。
 鈴鹿はバスケットボールを腰辺りに抱えこむと、ぎろりと美奈子を睨みつけた。
「でかい声だすじゃねぇよ。耳がいてぇ」
「はは、ごめん」
 美奈子は後頭部をかきつつ、手に持った荷物を降ろす。キョロキョロと辺りを見回した。
「……一人だよね?」
「みりゃわかんだろ。自信ねーのに俺の名前だけ呼んでんじゃねぇぜ、ばか」
 呆れた顔で吐き捨てる鈴鹿に、美奈子は確かにと苦笑い。
「そういえば、和馬も補習のはずだったよね? 何で今日いなかったの?」
「そりゃあ、お前。俺は朝に氷室のやろーにつかまっちまったからな。どうせ逃げるなら、先に済ましとくほうが合理的なんだとっ、よ!」
 鈴鹿は持っていたボールを数度床に弾ませると、まるで八つ当たりのようにボールを放る。なのにボールは綺麗な放物線を描くと静かにゴールネットを揺らした。得点にしたら3点。
 思わずパチパチと掌を数度叩いて、美奈子ははっとすると口を開いた。
「まだいるよね!?」
「あったりまえだろ」
 返ってきた言葉に、美奈子はニンマリと口の端を持ち上げる。
「私も自主トレここでするから!」
「ああ?」
「じゃあ着替えてくる」
 返事を待たずに踵をかえし、美奈子はひらひらと片手を後ろ背に振った。
 早足で体育館脇に備えてある更衣室に入ると、手早く体操服に着替える。更衣室から体育館へ戻ってくるまで約数分。体育館には当たり前に、また自主トレを開始していた鈴鹿がいた。
「お待たせ!」
 声をかけると、鈴鹿の持っていたボールが飛んでくる。
「待ってねぇ」
「意地悪」
 美奈子がむくれると、鈴鹿は意地悪そうに笑った。
「早く体あっためてこい。相手してやるぜ?」
 鈴鹿が上から目線で言い放ち、美奈子はむっと鼻の穴を膨らませる。
「上等ぉ!!」
 びっと中指を立ててはみるものの、バスケで美奈子が鈴鹿に勝てるはずなど無い。だから、本気の勝負ではない。言い方はアレだが、ようは鈴鹿は美奈子の練習相手になってやると言っているわけで。美奈子も美奈子で解っていて、遊びでやっているのだ。
 軽いストレッチを美奈子が済ませると、鈴鹿がセンターサークルでボールを弾ませ合図を送る。
 美奈子は深呼吸をしてから鈴鹿と向かい合った。鈴鹿はボールをバウンドさせて美奈子へ渡す。美奈子は受け取ったボールを弾ませ――……。
 
 三十分後――。
「――っん、はぁっ、はぁ」
 美奈子はゆっくりと走り止り、完全に止まると大きく肩で息をした。
 点差は見るも無残に鈴鹿の圧勝である。顔色も大粒の汗を顔中に張り付かせている美奈子に比べて、鈴鹿は涼しいものだ。そもそも性別の差異は小学なら無いものの、中学になる頃合には如実に差がつきはじめ高校ともなると歴然となる。特にスポーツを常日頃からしている男子とは努力では埋めようのない差ができてしまうのだ。当たり前といえば当たり前である。
 それでも、一瞬でも鈴鹿の疾走についていけたのだ。美奈子の運動能力は高い。
 それを含めて、鈴鹿は美奈子に賞賛を送った。
「いい線いってると思うぜ、お前」
「そう? ボロ負けしてるけど」
 美奈子ははぁっと息を吐くと、しゃんと背を伸ばす。
「素直に喜んどく。バスケのことだし、でも――もう一戦」
 美奈子は人差し指を一本だてて、にっと笑った。
「あぁ」
 鈴鹿も頷き、と――。不意に、体育館に携帯の着信音が響く。
「私の――」
 美奈子は隅に置いていた鞄へかけよると、携帯のディスプレイを見て通話ボタンを押す。
「もしもし? 店長?」
 受話口からは店長の声。美奈子が用件を促すと、どうやら急にバイトの欠員が出たらしい。代わりにシフトに入って欲しいとのことだ。美奈子は二つ返事で了解すると、電話を切る。
「どうした?」
 通話が終わった頃合を見計らって、鈴鹿が声をかけてくる。
「バイト先。急に欠員が出たんだって、代わりに出ることになっちゃった」
 鈴鹿が体育館に備え付けられた時計へ目をやって顔をしかめた。
「これからかよ?」
「ん、まね。でも、今日は」
 美奈子も鈴鹿と同じように時計を見上げる。美奈子の頬は上気していた。
「あぁ、そうか」
 察して、鈴鹿は目を逸らした。何となく気まずくて、鈴鹿は鼻頭を人差し指でかきながら口を開く。
「どうなんだ? ほら、アイツとはよ。うまくいってんのか?」
 鈴鹿の言葉にクスリと美奈子は笑う。
「何だかお父さんみたい」
「茶化すなよな。これでも、結構真面目に心配してやってんだぜ?」
 口を尖らせ、鈴鹿は乱暴にポッケへ両手を突っ込んだ。
 見かねて美奈子は両手を合わせた。 
「ごめん。……ま、そこそこ?」
「なんだよ。そこそこって」
「だから、そこそこ!あまり変わってない……かな。あ、でも、デートの約束はしたんだよ。今度の花火大会」
「あー。去年、俺と二人で行ったやつな」
「そういう言い方すると語弊があるよね……」
 美奈子は思わず半目で鈴鹿を見つめた。たまらず視線を鈴鹿は逸らしたが、去年の花火大会と今年の花火大会。付き合ってない男女が行くのに、何の誤解があるのかとも思った。傍から見れば、どのみち一緒なのだろうとも。
「何にしても良かったじゃねーか! ばっちり女扱いしてもらえよ。そうだ、帰るとき送ってもらえよ。安全だし、それがいいと思うぜ?」
 鈴鹿は饒舌に喋って誤魔化すと、そそくさと体育館の片付けを始めた。
「あれ? 帰るの?」
 美奈子が首を傾げる。いつもの鈴鹿ならもう一時間くらいは練習して帰るだろうからだ。
「ばーか。今日は本当なら部活動禁止の日で、俺たち二人しかいないんだぜ? 片付けは二人のほうが早いし楽だろ。ここまでコート使えたんだ、あとは家に帰って筋トレでもするってな」
「なるほど」
 ぽんと美奈子が手を打つ。
「つーわけで、きりきり片付けようぜ。お前はモップがけな」
「はーい」
 手を上げて、素直にモップがしまってある用具室へ向かう美奈子。