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【ときメモGS】愛と友、その関係式【一話目】

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 何だかんだで仲がいい二人はさくさくと手馴れた感じで体育館の片付けを済ますと、職員室に居た氷室教諭へ帰るむねと体育館の使用のお礼(朝錬を補習でつぶされた代わりらしい)を告げた。体育館の鍵を元の場所へ戻して、学園の校門を出る頃にはすっかり夜の帳が広がっていた。
 歩きながら、くんくんと自分の服の匂いを美奈子は嗅いでみた。
「一応、更衣室のシャワーで流したけど、汗の匂いって大丈夫だよね?」
 体臭は自分では意外と解らないものだ。美奈子は夏服からむき出しの腕を鈴鹿の顔面へ突き出す。
「どう? 匂う?」
 鈴鹿の鼻先をふんわりとしゃぼんの匂いがくすぐった。何故かグワングワンと脳内が揺さぶられた気がした。鈴鹿は慌てて半歩下がる。顔は真っ赤だ。
「ば、ばか! お前なぁ!」
「なに?」
 美奈子がきょとんと首を傾げる。
「何でもねぇ! くさくねぇよ」
 ふいと顔をそらして、鈴鹿は美奈子の横を通り抜けた。ずんずんと早足で歩いていく。
「あ、置いてかないでよ」
 慌てて追う美奈子。
「置いてってねぇじゃんよ」
 言いながら、追いつかれないよう鈴鹿がスピードをあげる。
「じゃあ、何でスピードあげるのー」
「あげてねぇ!」
「あげてる!」
 不毛な言い合いと追いかけっこが続き、あっという間に美奈子のバイト先のスタンリオン石油の前だ。
「おら、ついたぜ!」
「あ、本当。……て、もしかして送ってくれたの?」
 鈴鹿の自宅とスタンリオン石油、遠くはないが帰路でもない。ようやく気づいて美奈子が聞くと、わざとらしく鈴鹿は目線を逸らした。
「別に。一応お前も女だからな」
 冗談っぽく言ってはいるが鈴鹿に照れが入っているのは明らかで、少しだけ赤い耳を見て美奈子は胸がこそばやくて微笑んだ。
「そっか。ありがと」
 美奈子がお礼を言うと、やっぱり少しだけ赤い耳がピクピクと動く。
「おう。じゃあな」
 片手をあげ、鈴鹿は照れを誤魔化すためか足早で去っていった。
 美奈子はおかしくて、クスクスと嬉しそうに笑いながら遠ざかる背中を見送った。と、気づく。
「やば。タイムカード」
 美奈子はスタンリオン石油へ足を向けると、従業員用入り口へ入っていった。入り口付近に備え付けてあるタイムスタンプにカードを通すと、一分前ギリギリである。
「セーフ」
 胸を撫で下ろすと、美奈子は更衣室へ向かう。更衣室で手早く着替えをすませて、再びタイムカードの位置へ戻ると、そこには見慣れた男の姿があった。
「姫条くん!」
 呼ぶと、振り返る。
 浅黒い肌で長身、端正な顔立ちをした男だ。切れ長の目は冷たそうな印象を与えるはずなのに、不思議とこの男の顔は愛嬌がある。男の名は姫条まどか。美奈子の同級生であった。
「あほやなぁ、自分。断ればええものを、ほんま人がええっちゅーか」
 愛嬌のある笑顔を浮かべながら、話しかけてくる姫条。美奈子の頬が心なしか赤くなる。
「そ、そんなこといって姫条くんだって、頼まれたら断れないくせに」
 言葉に、姫条はきょとんと目を丸くして、それからカラカラと笑った。
「あっはっは。確かにそうかもなぁ。おれも頼まれたら断れへんねん」
 そして、悪戯っぽい目配せをする。
「ま、主に生活苦の理由ですけど」
 冗談めかして言うけれど、この姫条。実は親元を家出同然で出てきたため(しかも地元は関西である)、正真正銘の一人暮らしで生活苦というのもあながち嘘ではない。バイトで食費は稼いでいるし、趣味のバイクももちろん自前だ。
 半分生活費のためというのも本当だろうが、美奈子は姫条が人情に厚いことを知っている。真面目な自分、情に厚い自分、情熱的な自分。そういうものを表に出して主張するのが格好悪い、そういう風に思っている節が姫条には何処となくあった。なので、美奈子はあえてつっこまず、うんうんと頷いた。本当は姫条だって人のことがいえないお人よしで美奈子と同じ状況なら断らないはずなのだ。
 姫条は手を伸ばすと、ガシガシと無造作に美奈子の頭を撫でる。
「というわけでやなぁ、ずば抜けて良い子な美奈子ちゃんには俺が送迎というご褒美をあげよう」
「えっ、いいの?」
「ええの、ええの! 店長が送るいうても断らなあかんで? あのオッサン、おくりおおかみに――いてっ」
 調子よく喋っていた姫条の頭に、スタンリオン石油店長の大きなゲンコツが落ちてきた。
「店長!」
 美奈子と姫条の声がダブる。
 店長はくまのような風体で威圧感を四方に発しながら、姫条をギロリと睨む。
「だぁれが送り狼だ。どっちかてぇと狼はお前がだろうが」
「あぁ、バレました? て、ちゃうちゃう。何いわしますのん、店長」
 姫条はノリつっこみをして、店長の分厚い胸板をバシリと叩いた。
「あぁん? 違うのか? なぁ、小波。こいつは危ないからワシが送ってやろうか?」
「店長!」
 非難めいた姫条の声を無視して、店長がどうすると美奈子に詰め寄る。
 美奈子はしばらく視線を宙に泳がせてから、顔を真っ赤にさせた。
「あ、あの。すみません、店長。――わ、私、姫条くんに送ってもらいたい、っていうか。その」
 モジモジと両手の指先を交互に回しては、恥ずかしそうに美奈子が俯く。
 店長は目を丸くした。ややして、疑わしそうな目で姫条を見る。
「姫条に何か弱みでも握られてるのか?」
「人聞きの悪い」
 すかさず姫条が口を尖らせた。
「あ、あの。迷惑……かな?」
 美奈子が聞くと、姫条はぶんぶんと首を横にふった。
「まさか。ええにきまっとるやん。こんな熊おやじより若い俺のほうがええってことやね」
 姫条は店長へふふんと鼻を鳴らす。
「あ、そういうんじゃなくて」
 美奈子はすかさずフォローを入れたが、姫条の耳には届いていないようだった。店長の耳には届いていたらしく、見知ったようにニヤリと口端を持ち上げた。
「まあいい。姫条、間違っても変な気おこすんじゃねーぞ」
 店長はゴチリともう一度、姫条の頭にゲンコツを軽めに落とすと仕事場へ足を向ける。
「さぁ、仕事始めるぞ。下のやつと交代してやってくれ」
 言いながら店長は後ろ背に手を振った。
「はーい」
 その後を美奈子と姫条が追う。と――美奈子は不意に立ち止まり、溜め息を零した。
 姫条に送ってもらえる。嬉しい。なのに、何故だか晴れ晴れとしない。
(どうして、もっと気軽に話せないんだろう)
 そうなのだ。美奈子は何故か姫条と話すとき、極度の緊張のためか普段の性格とは逆の控えめで大人しい性格になってしまうのだ。こんなのは本当の自分じゃない。頭の片隅でたえず警鐘が鳴っている気がした。何故なら、もしこのまま上手くいって好きになってもらえたとしても、そのとき姫条が好きなのは偽りの美奈子でしかないからだ。こんなのは本当のゴールじゃない。
(たとえば、和馬と話すときみたいに――)
 もっと、フランクに。肩の力を抜いて、本当の自分に。
 考えれば、考えるほど美奈子にはよく解らなくなっていた。どうしてこうなってしまうのかを、どうして上手く喋れないのか。好きになった弱みといってしまえば、それだけの話なのかもしれないが……。
「だめだめ」
 美奈子はネガティブな考えを打ち消すために両頬を軽く打った。