雨 The rain and my foolish pain
どう返事をすればいいのか考えるのに時間がかかったが、受話器の向こうでマスターが息を顰めて待っていると思ったらくすり、と笑ってしまった。マスターにとってはとっても重大な決心なのだろう。それに身体がほんのりと温かくなるのを感じながら、祝福するようにゆっくりと返す。
「よかったです」
「いいのかな、わからないけど」
照れ隠しのような返事にまた頬が緩むのを堪えた。頑張って下さい、と言えば、ありがとうと言うマスターの声音が嬉しくなっているのを感じる。
お花。お花だこれは。マスターはやっぱりお花だ。
「じゃあね、ルカ。大好きだよ」
「はいはい」
最後は適当に流して電話を切る。あの子から? と、電話に気付いて起きてきたらしいマスターのお母さんに、ええ、と答えると、馬鹿ねえ初めての入院じゃないのに、と呆れた風に言って、また寝室へと踵を返す。
「おやすみなさい」
「おやすみなさい、マスターのお母さん」
背中にそう声を掛けて、今度こそ私も部屋へ戻った。
電源を落として意識がなくなる直前、もしかしたら今少しだけ寂しいかもしれない、と暗闇の中で一人思った。
作品名:雨 The rain and my foolish pain 作家名:つえり