Confetti candy Love(英米)
息を大きく深く吸って、気持ちを落ち着けてからチャイムを鳴らす。
ピンポンと聞き慣れた音が響いて、イギリスがドアを開けるまでのひと時を
俺はドキドキしながら待った。
最初に彼の顔を見たら何て言おう。
やはりメリークリスマス?それとも会えて嬉しかったよとか。
いや、それを口にするのは恥ずかしすぎる。
まるで俺がイギリスに会えて嬉しいみたいじゃないか。
や、会えて嬉しいけど、そんなことをイギリスに言ったら大変なことになる。
あの人が調子に乗ったらとんでもない目に遭うのは間違えなく俺だ。
せっかくのクリスマスをベッドの上で過ごすなんてごめんさ。
そうでなくてもこの前の休日だってあの人は・・・・・・って、ずいぶん遅い
じゃないか。
この俺をこんなに待たせるなんてひどいんだぞ。
あと10数えるうちに出てこなかったら無理やり開けてしまっても構わないよね。
10、9、と胸の内でカウントを始めると扉の向こうから慌ただしい足音が
聞こえてきた。
こんなに慌てて来るってことは、チャイムに気付かなかったか屋敷の奥の部屋に
居たってことかもしれない。
俺が0をカウントする前に扉はものすごい勢いで開いた。
「悪いアメリカ!あのクソ髭が邪魔で・・・っ」
「え?何の事だい?」
肩で息をしながら告げられた台詞に俺は首をかしげた。
邪魔ってことは電話でもしていたのだろうか。
この人とフランスは仲が悪いってわりには結構な頻度で電話したり、互いの家に
押し掛けたりするからなあ。
いくら隣の国だからって恋人である俺を差し置いてイギリスと連絡を取るなんて
ずるいんだぞ。
後でフランスにも抗議しなくてはいけないなと心の中で決意を固めていると
とっても美味しそうな匂いが奥から漂ってきた。
あれ?おかしいな。イギリスの家でこんな美味しそうな匂いがするはずないのに。
この人の家の匂いといったら薔薇と紅茶と焦げたスコーンの香りだ。
だからこんな美味しそうな匂いがするわけがない。
そう考えながらも俺は一つの可能性にたどり着いた。
もしかして、今年は自分の料理の腕を反省して出来合いの料理を
買ってきたんじゃないだろうか。
それを温めていたから美味しそうな匂いがしたんだ。そうに違いない。
いくらイギリスでも初めてのクリスマスで恋人を食中毒にするなんて躊躇ったんだ。
うん、そうだ。
ということは、少しは期待していいのかな。
イギリスの国にだって美味しいものはあるし、この匂いならかなり期待できそう
なんだぞ。
でも、何か引っかかるところがあるんだ。見過ごしちゃあいけない何かが・・・・・・
そして、そのもやもやは当たっていた。
イギリスははにかんだように笑いながらとんでもないことを言ったんだ。
「安心しろよ。アメリカ。メシ作らせ終わったら髭はすぐに追い返すから」
「え?」
べ、別にお前のためじゃないんだからな!俺のためなんだからな!とお決まりの台詞と
共に告げられた言葉に俺の思考は一瞬フリーズした。
ああそうなんだ。だからキミの家だというのに美味しそうな匂いがするんだねとか
フランスはキミの食事係かい?DDDDDとかいろいろな言葉が頭の中に浮かんだ。
けれど俺の口はその浮かんだ言葉の中でももっともシンプルでストレートな言葉を
発していた。
「何でフランスがいるんだい?」
その言葉を受けたイギリスは不機嫌そうにぶっとい眉毛を寄せ、俺を睨め付ける
かのように目を細めた。
ううん、不機嫌そうに、じゃない。これは本気で不機嫌な時のサインだ。
その証拠に目の色が濃く深くなっている。
イギリスは怒ると眼の色が鮮やかなグリーンから日本で見た苔みたいな色になる。
けれど、俺はどうしてイギリスが怒り出したのかわからなかった。
元々怒りっぽい人だけど、今の会話に彼を怒らせるような要素なんてなかった。
むしろ怒り出してもいいのは俺の方だと思う。
彼と二人きりで過ごせると思って来たのに、フランスがいるなんて。
キミの方がよっぽどひどいことをしているんだぞ。
そう思って俺も負けじと彼を睨み返すとため息とともにイギリスは一瞬視線を斜め下に
落として口を開いた。
「お前が言ったんだろうが。記念するクリスマスまでキミのクソまずい料理なんて
食べたくないねって」
だから神聖な日に見たくねえけど、髭を呼んだんだよ。
不機嫌そうに続けられた言葉
ジーザス。
本当にこの人は最強のフラグクラッシャーだ。
付き合ってから初めて迎えるクリスマスだってわかっているのだろうか?
そりゃあ言ったさ。
けど、いつものはそんなこと気にしないだろ。
なんで今回に限って気にするんだよ。
イギリスの馬鹿。本当にこの人はちっともわかっていない。
口を開くと際限なく、それこそこの日をぶち壊しにしてしまいそうなほど文句が
出てきそうで、俺は何も言うことができなかった。
ただ、イギリスは俺が思っているほど俺のことが好きなんじゃないんだとか
ドキドキしていた俺が馬鹿みたいだとかそういう気持ちで胸がいっぱいだった。
イギリスもすごく怒っていて、その怒りにますます気持ちが萎んでいった俺が
俯きそうになったとき奥からエプロンをつけて髪を一つに括っている
フランスがやってきた。
作品名:Confetti candy Love(英米) 作家名:ぽんたろう