Confetti candy Love(英米)
「Joyeux Noel.どうしたの二人して」
「―――――全部、テメエのせいだあ!!」
「ごふぅ」
にこやかなフランスにイギリスは渾身のストレートを叩き込んだ。
油断していたフランスは見事に決められて、叩き込まれた腹を押さえてしゃがみ込む。
この人、身長とか体格では俺やフランスに負けているけど、その分テクニックが
凄いというか、人の弱点に叩きこむのがうまい。
油断していて、イタリア並みのへたれぶりを誇ることがあるフランスだって
一応はヨーロッパの古豪なんだ。
そのフランスにいとも簡単に拳を決めて、地に静めるイギリスって相当な手練だ。
改めて彼の元ヤンっぷりを見せつけられけど、俺は別に引くこともなく
むしろちょっとカッコイイんじゃないかなんていう感想を抱いてしまった。
イギリスは凶悪な笑みを浮かべてしゃがみ込んだフランスを靴先で突っついている。
その姿すらも許せそうな気がして―――――いけない、それはないだろうと軽く頭を振って
俺はイギリスの服の裾を引いた。
「止めなよイギリス。キミが呼んだんだろ」
「・・・・・・アメリカ」
「Merci.アメリカ」
イギリスを止めた俺に対して、二人は全く正反対の声で俺の名を呼んだ。
イギリスは不機嫌そのものの声音で。
フランスは今にも抱きついてきそうな勢いで。
ちっと舌打ちをしたイギリスはとりあえずフランスを蹴るのを止めたみたいだ。
素早く復活したフランスがイギリスから距離をとる。
その動きをイギリスは今にも舌打ちしそうな顔で見つめていた。
「もういい加減中に入らせてくれよ。いくら暖房が効いていても玄関は寒いんだぞ」
このままでは争いが再開しかねないから、仕方なく俺は掴んだままの服の裾を
ぐいぐい引っ張って訴えた。
イギリスは不機嫌そうだったけど、そうだよなここに居たら風邪引いちまうなと
一応退いてくれた。
そのやり取りをしている間にフランスはキッチンにさっさと戻って行った。
フランスが逃げたことに気付いたイギリスはまたもや舌打ちしそうな表情を浮かべて
キッチンの方角を睨んでいたけど、軽くため息をついてこちらを振り向いたときには
いつものイギリスの表情に戻っていた。
「荷物貸せよ。仕舞ってくるから。お前は先にリビングに行ってろ」
「うん・・・・・・」
頷いて俺は荷物とマフラーとついでに手袋も手渡した。
付き合うまでは自分で仕舞いに行けよって言われていたけど、付き合い始めてからは
こうしてイギリスが仕舞ってくれるようになった。
最初は子供じゃないんだから、自分でも出来るよって反発していたんだけど
コートとか荷物を渡した時のイギリスの嬉しそうな、愛おしそうな表情を
うっかり見てしまった今ではその気持ちがくすぐったくて、別の意味で
反発したくなるけど、こんなお手軽に彼の柔らかい表情を見られるならって
今は彼の思うままに任せている。
俺の荷物を受け取ったイギリスはすぐにでも置きに行くかと思ったのに
その場に留まって、探るように俺の顔を見つめていた。
強い視線にどきりと胸が高鳴って、思わず視線を逸らすと彼の視線が
追ってくるのがわかった。
「お前、何隠しているんだよ」
「別に何も隠していないんだぞ」
我ながら下手な答えだと思ったけれどそれ以外の言葉が見つからなかった。
イギリスは探るように俺のことを見ていたけど、そうか、と小さくつぶやいて
先ほどの躊躇いがうそのようにあっさりとワードロープに俺の荷物を置きに行った。
その行動を望んでいたのは確かに俺なのに、何故か目頭が熱くなりそうで
自分の気持ちがぐちゃぐちゃで意味がわからなかった。
イギリスに言われた通り、リビングに行くとカウンター越しに料理を作っている
フランスが見えた。
イギリスの家はとても古いけれど、生物兵器を生み出すキッチンだけは最新式のものを
取り入れていて、勿体ことをとフランスがよく嘆いていた。
俺が近付くとフル回転していたフランスが少しだけ動きを緩めて、こちらを振り向く。
「もうすぐできるから待っていろよ」
「・・・・・・クリスマスなのに、いいのかい?」
子供をあやすような台詞を投げかけられたけど俺はそれに答えず
逆にフランスに問いかけた。
普段から愛の使者と名乗っていて、クリスマスなんてフランスにとって
一番盛り上がるイベントなのに何でイギリスの家にいるんだろう。
大量のエスカルゴの下ごしらえをしていたフランスはううんと唸った。
「それはお兄さんが愛の使者だからかな」
「だったら余計にイギリスの家に来ている場合じゃないんじゃないかい」
「まあそれはお兄さんにもいろいろあるんだよ。・・・にしても、お前ら普通に
付き合っているんだな」
「どういう意味だい?それは」
意味ありげに言われた言葉に俺は思わず言葉を荒げそうになった。
俺とイギリスが付き合い始めた時、周りの国は信じられないだとかエイプリルフールは
まだ遠いぞだとか勝手なことをさんざんに言っていた。
その中でも一番最初にからかってくるとイギリスが警戒していたフランスは
からかうことなく、おめでとうと少し複雑そうな顔で祝ってくれただけだった。
だからフランスは俺たちの関係を疑っていないと思っていたんだけど
それはただ単にタイミングを見計らっていただけで、本当はずっと
からかいたかったってことなんだろうか。
作品名:Confetti candy Love(英米) 作家名:ぽんたろう