またたびと侍
「わかっとう。全部わかっとうけん、自分じゃどうにもできんとよ。言わずにはおれんと。俺の知らんとこで白石に何かあったら、たぶん俺は、許さんけん」
誰を、とは何故か聞けなかった。それは俺のようでもあったし、彼自身に言い聞かせてるようでもあった。もしかしたらもっと単純に、俺に何かした奴に向けられたものだったかも知れない。
とにかく千歳は自由気ままに喋るのだ。だからこそ、彼と話していると酷く疲れる。
「まぁええわ。ちゅーか、自分ほんとにやれるんやろなぁ?」
駄目押しすると、彼はにっこりと破顔した。まぁこれで失敗したとて、こちらの陣に何ら害はなかった。捕まって人質にとられたとして、たぶん俺は、助けない。
「白石がそれで、信じてくれっとなら」
そう言って彼はそっと手を離した。温かい指が触れていたそこは、名残惜しいように空気の冷たさを感じる。
その感覚に、思わず俺は訊ねていた。
「なんでそこまでするん?」
死ぬかもしれない策に、躊躇いもなく身を投じるなんて。
彼はそれに答えた。小さく笑って、俺にもわからんと、なんて腑抜けた答えを寄越してきた。