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番い羽

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 それに対し、答えもせずに一瞬だけ視線を向けた三成は、無言で一人の胸倉を掴んで引きあげた。かすかに浮いた脚をばたつかせ、もう一度悲鳴に近い呻き声をあげた相手を睨みあげながら、
「貴様ら、秀吉様が認められた者を愚弄するか」
 貫く口調で断罪する。
「それすなわち秀吉様のご評価を侮るということ――決して許せぬ大罪だ!」
 激昂の声に、恐怖で縛られた男がひいひいと呼吸を求めるようにして喘ぐ。三成は容赦のない男だ。構わずに再び拳を振り上げようとするのを、大谷もさすがに制止した。
「三成、そのあたりでやめておけ。見ればそれなりに名のある方々、あまりに打ち据えては憚りもあろうが」
「くだらん」
 制止の声を斬り捨てた三成は、何の躊躇いもなくその拳を男の頬に叩きこんだ。口の端から血を含んだ唾を撒き散らし、情けない悲鳴をあげながら再び地に昏倒した男を忌々しげに見つめたあとに、三成はようやく大谷へ向き直る。
「刑部。そこにいたなら何故自分でやらない」
 三成は本気でそう問いただしている。大谷は思わず溜息をついた。あげる武功や太閤の覚えに差異はあれど、立場としては同じく豊臣に仕える家臣同士。余計な諍いは不利に働くことの方が多いというものだ。まして、彼らが口ぐちに言っていたことは決して少数の意見ではなく、同調する者の方が多かろうと大谷ですら推測できるようなありふれた内容だった。そこへ大谷自身が飛び出し珠を振るってみせても、軋轢が深まりこそすれ何も得るものがない。
 そして三成はそうした斟酌を一切しない男なのだ。
「……ぬしの暴れる音が聞こえたので駆けつけたまで。一体何があったのだ?」
 逆に素知らぬふりでそう問えば、三成は少しだけ驚いた顔を見せたあとに、苦々しく顔を背けた。
「くだらぬことばかりだ。……貴様に聞かせる価値もない」
 吐き捨てるような口調だが、大谷は意外な思いでその言葉を聞いた。誤魔化しを好かないこの男が、問いに対してあえて答えではなく否定だけを返した。
 意識しているかはわからない。だがまず間違いなく、三成は大谷の心情を慮り、庇っている。
 ――我を、か。
 そうと認識した途端、何か言い様のない感情が湧こうとするのを、大谷は強いて塞いだ。
「……ならば尚更どうでもよかろ。もう行くが良い」
 どこぞへ向かう途中であろうと言えば、拳を振るって満足したらしい三成は、そのまますたすたと回廊を歩いて行った。大谷だけが呻きながら倒れ伏す男たちの傍に残り、その後ろ姿を見送る。例えばこの場に大谷が残らずとも、三成は同じように振り向きもせず去って行ったのだろう。殴りつけた者たちの心情など気にもかけず、何の手回しもせずに。
 不器用で危うい、どうしようもなく愚かな男だ。
 これから大谷はこの男たちを叩き起こし、面の崩れた者はほどほどに治してやり、それぞれの弱みを抑えたうえで宥め脅して屈服させねばならない。
 やれ世話のかかることよ、と独りごちながらも、大谷はそれを面倒とは感じなかった。

 目覚めの時から全身を這っていた不快は、いつの間にか晴れていた。


作品名:番い羽 作家名:karo