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スターゲイザー/タウバーンのない世界

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くるしいみたいだね






夏休みになって、三人は暇が合えばワコの家で勉強会を開いていた。
タクトもスガタも、時間がさける休日があればワコに連絡して。
学生らしく勉学に励み、半分は遊びに出かけたりした。
公園で遊ぶ子供にまざって噴水に入ってみたり、映画をみてショッピングモールに出向いたり。
彼等にとってあっという間のひと夏は、以外とたくさんの思い出で積み重なって行った。
そうして8月も終わる頃、二人はバス停でワコを待っていた。
ゆかたを着た子供達が目の前を通り過ぎてゆく。
大学生くらいのカップルや、他校の高校生なんかが行き交って、その夜はざわめいていた。
「お待たせ。」
聞き覚えのある声に振り向くと、紫陽花柄の白い浴衣姿のワコだった。
「ワコ!かわいい~!すごく似合ってるよ。」
タクトが素直な感想をのべて、嬉しそうに微笑む。
「浴衣なんて子供の頃以来だな。似合ってるよ。」
スガタも微笑んで言う。
照れ笑いするワコを挟んで、タクトとスガタが並んだ。
「えへへ。じゃあいこっか!」
バスは凄まじく混んでいた。
乗車率120%といった感じ。こんなにこの島に人間がいたのだろうか。
ワコの浴衣が崩れてしまうからと、タクトとスガタはスペースを確保してくれた。
角に追い込んで囲い込むような形になり、しばらく強引なナンパをする二人組のようなふざけ合いが続いた。
場所的に、座席に座っていた家族を巻き込んで、いつのまにか会話の輪が広がり、満員の車内は祭りらしく浮かれた空気だった。

「おにいちゃんおねえちゃんばいばーい。」
バスを降りると家族連れに手を振る。
表を向けば提灯の灯りが、山の上の寺まで一本道を作っている。
夜店の灯りがまさに日本の夏だった。
「さあ~!たべるぞ~~!」
「食べるぞ~!」
タクトに続いてワコが言う。
「何食べたい?」
ワコはお祭りをあまり経験していない。
「あんず飴絶対!絶対食べる!」
子供のように興奮気味。
「焼きそば、たこ焼き、じゃがバタ、いかめし、あと~。」
「お前がっつき過ぎ。」
「あ!トウモロコシだ!大好き~!」
スガタは笑った。
はしゃぐ二人に、スガタの心も弾んだ。
「じゃあトウモロコシから食べよう。」


「だめだ、完全にはぐれたな。」
神輿の行列がやって来て、二人はスガタとはぐれてしまった。
はしゃいでフラフラしてたせいだ。
「ケータイ繋がった?」
「だ~め~!メールも上手く受信できないや。」
「取りあえず人の少ない方に移動しよっか。」
「そうだね。」
とは言え、辺りは行きのバス車内のように混雑していた。
「僕に任せて。」
タクトはワコに微笑むと、その手を掴んだ。
同じ方向に進む人、逆流する人、留まる人でごった返す中、器用に一人分のスペースを見つけスルスルとすり抜けてゆく。
ぴったりとくっついて、ワコはタクトの背中だけ見ていた。
握られた手から、タクトの体温を直に感じる。
熱い、熱い。
時々唐突に止まると後ろ姿にぶつかる。
「大丈夫?」と顔だけ振り向くタクトを見上げれば、身長の差にドキドキした。

「背、春より延びたね。」
「え?あぁ、はは!成長期!」
軽く笑うタクト。
それだけで何故胸が高鳴るのだろう。
気付かれない様にその手をそっと握り返して。
ああ好きなのだ。
この人に触れたい。
淡い感情が胸に広がる。
手を握り肩を寄せて、いつもこの差を感じたい。
それが人を好きになるということなのかもしれないと、ワコは恋について初めて思った。

一本路地を抜けると、人ごみから逃げた人達が路上に座りこんでいた。
なんとなく場所を確保すると、タクトは再び携帯を取り出してスガタに連絡する。
ワコはまだ、タクトが握っていた手がフワフワしてる。
「・・・あ、スガタ!・・あはははははっ!!」
タクトが大きく笑う。
「ごめんごめん、えーっとねえ。」
ラムネ屋とかき氷屋の間を抜けた橋の上を説明するのに、タクトは何度も笑った。
タクトとスガタというのは、二人でいるとき二人だけの空気を作り出す。
男同士の友情というのに、ワコは時々嫉妬する。
三人で幼なじみなのだが、男二人には男二人の、特別な友情があるらしい。
自分は女だから仕方ない。自分は女なのにいつまでもこの三人で、幼なじみをやっていられることの方がすごいのだ。
なのに・・・・ああ、気付いてしまった。

「どうしたのワコ?」
受話をオフにして、タクトは笑みを浮かべたまま、ワコの沈んだ様子に気付いた。
「人酔いした?」
心配そうに優しい声色を出す。
ううん。と首を振る。
「もうすぐスガタが来るから。」
まるでスガタが居なくて、ワコが不安がってるかのように言う。
「タッくんも、許嫁って思ってるの?」
「え?」
夜の闇がワコの白っぽい浴衣と、白い肌と色素の薄い髪を引き立てる。
暗がりを切り抜いたような姿に、タクトはワコが妙に女性に見えた。
「あ・・ううん!なんでもない!」
タクトの大きな瞳が暖かい光を移して、くるくると光っていた。
少女が大人になってゆく、タクトは今、自分がその一瞬一瞬に立ち会っているのかもしれないと気付き、キラキラと幼なじみを見つめる。
タクトはワコが、スガタを好きだと思っている。
許嫁だから好きなのか、許嫁だが好きなのか、その恋心に戸惑う少女を見つめている。

「僕たちまだ16歳でしょ?」
タクトが真剣な眼差しで微笑む。
「うん。」
「たくさん無茶できるし、たくさん馬鹿ができる。嫌なことなら、たくさん闘えばいいよ。」
「・・・・・うん。」
ワコはまじまじとその顔を見つめた。
「でも決められたことが悪いことばっかりじゃないって、二人ともそうだといいな。決められたことに、素敵なことがあってもいいよね。」
タクトは無邪気に笑う。
「許嫁って運命的だよ。」
タクトはどんな状況でも、誰でも幸せを選べると信じてる。
「スガタみたいなのが許嫁なんだよ?羨ましいよ、普通は。」
「・・・。」
ワコは切なくて、その笑顔を見つめ返すしかできなかった。
「あの人完璧だもんな~。いくらでも好きになれるんじゃない?」
「・・・うん。」
きっとスガタを好きになった。
隣にタクトが居なければ。

押し黙るワコから視線を離して、タクトは遠く、灯りの方に顔を向けた。
「スガタだって、許嫁だからワコと幼なじみやってるんじゃないよ。」
タクトが神妙に言った。
その横顔が、僅かに目を細めたのにワコは気付かなかった。
自分の下駄の鼻緒を見つめていたから。
「二人とも!」
振り向くとスガタが、灯りを背負って歩み寄る。
「携帯全然使えないな。」
スガタが近寄ると、タクトは妙に空気を作っていた。
スガタはそれで敏感に、二人きりの間に何か特別な会話があったと気がつく。
「お祭りすごいね。」
タクトがいつも通りに言うのだが、ワコの方は顔を曇らせていた。
「・・ワコ、大丈夫?人酔いした?」
その言葉ではじめてスガタの顔を見た。
「ううん!まだまだ元気だよ!」
力こぶしまで作る。
スガタがその笑顔に微笑み返す。
優しい優しい眼差しで。
「そこであんず飴売ってたよ。」
「ホント?!行きたい!」
ワコはそれまでの感情を振り払うように、スガタの話に興味を持つ。
はぐれないようにと、スガタがワコの背を抱いた。