スターゲイザー/タウバーンのない世界
タクトの語尾が強くなり、今にもスガタの所へ殴り掛かりに行きそうな勢いになる。
「ちょちょちょ!二人ともらしくないぞ!学園祭だってのに!」
友人にとめられタクトは浮かせた腰をイスに戻した。
教室は二人のかつてない険悪なムードに張りつめていた。
「おはよ〜。」
ワコがやってくるとますます空気が張りつめた。
噂ではワコを取り合って喧嘩になったということになっているのだ。
「あー・・。」
その妙な空気にワコは状況を把握した。
「まだ喧嘩してるの?やめてよ〜。」と自らの席についた。
「タッくん今日は学園祭だよ、聖歌隊見に来てくれるんだよね?」
「もちろん行くよ。」
タクトが笑顔で答える。
「スガタくんと来て。」
「やだ。」
「お子様だから。」
遠くからスガタ言う。
「スガタみたいに大人だと、なんでも!・・割り切れるんだなあ!」
その意味はスガタにしか分からない。
「お前なら分かると思ったのに。」
「そういう問題じゃないよ!」
「やーーーーめーーーーてーーーー!」
クラスはタクトがやって来た時のような緊張感からは解かれていた。
喧嘩をしているのは確かだった。険悪なのもそうらしい。だが二人は進んでコミュニケーションをとっている。それが親しい故の喧嘩であり、まだそこに深い信頼があることも言い合いから自然と伝わって来たからだ。
タクトとスガタは模擬店で一緒になる予定だったが、まあぎりぎり大丈夫かな。と委員長のケイトは思った。
簡単なHRが行われ学園祭が開催されると、スガタはタクトの席へと近寄った。
思えばそれは学校が始まってから、ほとんど見たことのない光景だった。
移動しようとしていたワコは、それを一端振り返り、昨日のタクトの言葉を思い出した。
喧嘩した理由がなんであれ、あの、タクトのスガタへの感情は揺るがないだろう。今日の二人なら大丈夫。お互い仲直りしたいと思っているのが、ワコは見た瞬間に分かっていた。
「行こう。」とルリに声かけて、多くの生徒が思い思いに教室を出た。
まだ朝日と言えるような日差しの中、いつもと違う雰囲気の階段を登って行った。
どんどん遠ざかる教室に、昨日ここで失恋に浸ることもできず駆け下りたことを思い出した。
「話がある。」
「話さなきゃ、解決しないからね。」
スガタはタクトの言葉に内心ほっとして、無意識に表情を緩めた。
屋上では聖歌隊の一年生がイスを用意していていたが、ワコの姿はない。
11時まで屋上での出し物はないのだが、二人は勝手にパイプイスに腰掛けて自販機で買ったジュースにストローを刺した。
「話したことなかったけど、家とアゲマキ家のこと。」
「うん、聞いたことなかった。」
これだけ長いつきあいだったが、タクトは何故二人が許嫁なのかわけを聞いたことがない。
特に理由がないからではない、そこに大きな束縛があるから聞いたことがなかったのだ。
「話してもいいか?」
「うん。」
気持ちいい風が吹いていた。
一年生の準備をチェックしにきたのは聖歌隊部長のエンドウサリナだった。
二人を一度振り返り、サリナは屋上に上がる階段に「立ち入り禁止」のフダを下げた。
特に意味はない、彼女なりの遊び心。
これから11時までの2時間。
100年続いたシンドウ家の物語が語られる。
作品名:スターゲイザー/タウバーンのない世界 作家名:らむめ