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スターゲイザー/タウバーンのない世界

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らくにかんがえろよ






高校生活が始まって3度目の放課後。
教室の雰囲気は未だ浮き足だっている。
まだ見知らぬ人たちに、ドキドキしたり、ワクワクしたり、ビクビクしたり。
色々な空気が飛び交っていた。
タクトはあっという間にクラスの人間と打ち解けていた。
その明るさと気兼ねない雰囲気から、「なんか目立ってるけど身近な人」という人物像を固定させた。
クラスメイトは帰り支度をしながら、「今日遊びに行こうか。」とか、そのまま輪になって放課後のおしゃべりに花を咲かす。
皆が交流を深める中、スガタの前の席に座ってタクトは教室を眺めていた。
それも他人の席なのだが、「俺の席、もう半分タクト用なんだけど。」とか言われて、すでにポジション取りは済んでいる。

「あ、スガタ帰るの?」
今日はワコが居ない。
ルリと聖歌隊の見学に行ったからだ。
「帰りますよ。」
クールな視線でタクトを一瞥。
踵を返すのに一瞬もったいぶる。
この一瞬がタクトの立ち上がるのを待つ優しさ。
けれど友人が腰を上げるのを見れば、待たずに先を歩き出す。
「タクトー!スガタ!じゃ〜な〜。」
ドアに差し掛かると後ろから声。
二人が振り向くと声の主と、その周りの男女がこちらに手をふる。
「ぐぱ〜い!」
タクトが大きく手を降ると、ドアのサッシに派手に手をぶつけた。
「あいた!」
笑う友人達の声を置き去りに、二人は賑やかな廊下へと歩き出した。

「スガタ部活やんないの?」
「部活?」
愚問、という顔で不愉快そうに眉間にシワを寄せた。
まずった、とタクトは思う。
「ごめん。・・・高校になっても習い事は辞めないわけ?」
この男は7つの習い事をしている。
茶道、書道、剣道、ピアノ、英会話、家庭教師、最近では好きだった乗馬は辞めて、マネジメントを学び始めている。
「僕が決めることじゃないから。」
その言葉にタクトはしゅんとする。
横目でタクトを振り返ると、拗ねた様な寂しげな顔を浮かべている。
スガタは少し歩調を緩め、タクトと並んだ。
「肉まん食べたい。」
タクトがハッとする。
「たべたい!」
「学食寄ってこう。」
「行く行く!」
タクトの機嫌を直すのは簡単だ。
単純なタクトに笑みがこぼれる。
いつもなら足を踏んで阻止するところだが、はしゃいで腕を組んできたのも無視してやろう。

寮制度のある学園なので、放課後も食堂は賑やかだ。
吹き抜けの大きな窓が広がる開放的な作りは、過ごしやすいので人が多い。
その中でも二人が歩けば、気付く生徒は振り返る。
中学時代では容認されていたタクトとスガタの腕組みも、見てはいけない人種を見てしまったような顔で、学食のおばちゃんに目を逸らされた。
「タクト、離せ。」
しつけた犬に命令するような簡潔な言葉にタクトは無言、アメリカ人のリアクションの様に両手を広げて離してみせる。
綱が解けるとそれはそれ、
「にっくまん、にっくまん。」
興味はすでに食欲に注がれ売店に弾み寄る。
さっき目を逸らしたおばちゃんに満面の笑みで注文する。
「おねえさん肉まんふたつ!」
おばちゃんはタクトの屈託のないおせじに、気分がよくなったようだった。
自分が思っていた様な未知なる生物じゃないと判断したらしい。
何も言わずに支払いはスガタがまとめて払う。
市販の二回りもデカイ肉まんを頬張りながら「ほっほまっふぇ。」と財布を探す仕草をした。
「おごるよ。」
表情一つ変えずにスガタが言う。
タクトはくわえていた肉まんを離して眉間にシワを寄せた。
「いいよ。」
「いいよ。」
タクトの返事なんて関係ない。スガタはタクトを置いて出口へと歩き出す。
「肉まんくらい払えるって!」
スガタの後ろ姿にタクトは抗議する。
その話題も全て無視して、スガタは体を斜めに右手を差し出す。
「僕の肉まんは?」
「・・・・・・。」
もう片方の手にしていた肉まんを、無言でスガタに手渡すと、いつもの様にタクトを置き去りにスタスタと歩き出した。
タクトは不満いっぱいなのだが、そうなると付いて行くしか他ない。
「高校生になってもう春から働いてるし、補助も出てるから普通に生活できてるよ。心配しなくても。」
「小銭のやりとりが面倒なだけだよ。」

そう小銭だ。
たかが250円、されど250円。
これ以上そのことを持ち出すと、スガタが怒るのは目に見えていた。
嬉しくない。でもこれがこの人の優しさなのだ。
そしてその優しさに救われている。
スガタは家庭教師のくる時は、かならずタクトを家に呼ぶ。
東大卒の家庭教師は、ガリ勉だけど気のいいやつで、二人分の給料ももらってないのにタクトに丁寧に指導してくれた。
スガタはほとんど手がかからないので、家庭教師の方もタクトの相手をしているくらいが、丁度良かったのだった。
そうしてタクトはこの学園の、特別奨学生テストに合格できた。

「楽に考えろよ。」
手の中の肉まんを見つめて難しい顔をするタクトに、スガタは言った。
タクトは肉まんの続きを口に入れた。肉まんが美味しかったし、事実食べ盛りのタクトはお金を全てつぎ込んでもできるだけ沢山食べたかった。
「ありがとう、いただきます!」
と遅ればせながらそう言った。
「別にいいよ。そんなの。」
二人が校門を出ようとすると、声がした。
二人の頭上、5階の窓からワコが手を降った。
「あ、肉まん!いいな〜!」
「スガタがおごってくれた!」
「ずる〜い!」
言いふらすな。とスガタはタクトの脇腹を小突く。
タクトと仲良しだと思われたら嫌だ。
とスガタは思うのだが、もう周りの認識は充分仲良しなのを知らない。
笑ってじゃあねと言い合って。

水曜はピアノの日。
音大に行く訳でもないのに、スガタはドビュッシーを弾けるようになる所だった。