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スターゲイザー/タウバーンのない世界

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きみたちはどうおもう?






「え、ワコん家って神社なの?」
この春知り合ったクラスメイトが驚いた顔をしている。
「すごーい!今度行っていい??」
「う、うん。いいけど、別に中は普通の家とあんま変わんないよ?」
行きたい行きたい!と女子が群がる。

スガタは本を片手に、それを見ていた。
男子と違って女子というのは群れを作る。
新生活が始まってこの時期に顕著になるのだが、同校だった生徒同士で固まり合いすぐに派閥が生まれるのだ。
それが生き残るための遺伝子情報に組み込まれているのだから、仕方が無いことだ。
野生時代の本能から、女は群れを大切にする。
そしてワコというのはそれにあまり当てはまらない。
主に行動しているのが、タクトとスガタに固定してしまっているからだ。
野生で例えれば、それは縄張りの広い雄ライオンを二匹率いることになる。
群れなど持たずとも、ワコの身は守られるのだ。ライオンならば。
しかしそこは人間なので、反感、敵意を買う。
そこで目を見張るのが赤い雄ライオン交流術である。
タクトは女子も男子も知ってる人も知らない人も、人類皆兄妹なので。女子のデリケートな社会構造を良い方向にぶちこわしてしまうのだ。

行きたい行きたい!とはしゃぐ女子の輪に混ざるタクト。
「タクトくんもくるよね?」
と誰かが言った。
「僕?僕はバイトあるからな・・・。」
スガタはそれを見つめる。
「ざんね〜ん。じゃあワコん家行く人〜?」
スガタは確かめるとまた文字に目を落とす。
ダシにしてるわけじゃないようだ。今のは純粋に蛇足した下心だろう。
その後ろで輪になっていた男子が、
「何タクトバイトしてんの?エロいな!」
と割り込んで来た。
「何やってんの?」
「てゆーかなんでエロいのよ。」
「ガソリンスタンド。」
「金のあるところにエロありなんだよ。」
「意味わっかんない!」
「時給いくらなわけ?」
あっという間に賑やかになって、一部ディベートが始まっている。

高校生活がはじまり三週間ほどだが、スガタはもういいか、と思っていた。
まじめな話。
マネジメントなんて学ぶ前から、組織の人間関係やそれぞれの動向、能力や傾向、対人関係におけるモチベーションなんかには自然と注意が向いていた。
おかげで中学時代には、不本意にも行事はスガタがまとめるのが一番速く済むというパターンになった。
おそらく側にいる二人がそうしたことに疎いので、相互補完的に身に付いたのだろう。

このクラスは大丈夫そうだ。
ワコに関しては、スガタはとても慎重に気を配っている。
なぜなら。

「イイナヅケって何?」
『はあアア〜〜〜!?』
あまりに無知な発言に、ワコとタクト以外は声を揃えた。
発言した張本人は赤面している少女だろう。
そこまで常識的な言葉だとは、思ってもみなかったようだ。
「え?え?うそ、そんな?イイナヅケって何?」
まあそういう人間がいてもおかしくないかもしれない、今日の日本で許嫁なんて死語だ。

「許嫁っていうのはね、親同士が決めた結婚相手ってこと!」
「えええええーーーーー!!!」
皆とワンテンポ遅れて、少女は大げさに驚いた。
「え?え?じゃあシンドウくんとアゲマキさんは結婚するってこと!!?」
ワコは苦笑いする。
「さあ、親が決めたことだし、どこまで本気かよく分かんないけど。」
曖昧に答えるワコを一瞥し、誰とも無く自然と視線がスガタの方を向いた。
それに気付いたスガタは本から目を逸らし、一同を見やる。
もちろん全て聞こえている。
「法的取引があるわけじゃないし、本人同士の意志は尊重されると思うけど、・・・ワコは僕のフィアンセだよ。」
簡潔で確固たる言葉に一同は圧倒される。
15歳でフィアンセなんて、「すごぉい。」と妙な感嘆の声が漏れた。
「でもどうなの?辛くない?」「だよねぇ!横暴!」と女子が口々に同調する。
「でも二人仲いいし!」
「そっかシンドウくんだもんね!」
「でも許嫁ってお互いどう思ってるの?」
ワコとスガタを交互に見ながら、要は好きかどうかを知りたいらしい。
「どうかなあ〜、普段は忘れてるくらい実感ない感じかなあ〜。」
とワコがはぐらかすが、女子から質問の豪雨。男子はその勢いに引いて一言もはさめない。
可哀想にワコはひたすら困っている。
「君たちならどう思う?」
ずっと黙ってたタクトが言った。
全員が注目すると、真剣な顔のタクトに一同は静まった。
誰もが質問の意味に戸惑い言葉を返せないでいると、少し首を傾げて、戯けながら寂しそうに微笑んだ。

タクトはワコの机からとん、と降りて。
とてとてとスガタに近寄った。
お決まりの半タクト専用席に横向きに座ると、膝を抱えてスガタをみつめる。
妙にかわいいしぐさに、スガタが露骨に眉をしかめた。
「何?」
「別に。」
そのまま自らの膝に顔を埋めて目をつむる。
タクトはこの話題が苦手なのだ。
ワコとスガタが気まずい思いをするのが嫌なのだろう。
この行動はただ心赴くままに動いただけなのだが、さきほどまで賑やかだった集団も、静まりかえってしまった。
おいおい、大げさだぞタクト。
スガタは心の中で呟く。

しょうがない。
嫌で仕方ないのだが、むずがる心臓を堪えた。
スガタは本を片手に、あいた方の手を伸ばした。
項垂れるタクトの髪に指を通し、撫でるようにその赤い髪を梳いた。
心臓が震える様にゾワゾワする。
二人に注目していた十数名が、それを見て目を開く。
あまりに自然な行為に、同級生一同がドキッとする。
タクトはパっと目を開いたが、流れる様な所作でその手を本に添え、スガタは再び文字に目を落とした。
タクトは顔を上げてしばらくスガタを眺めていたが、突然何か思い立って先ほどの集団を振り返った。
一同は注目していただけにビックリする。
「そうだワコの家もいいけど、今度みんなで僕ん家こない?」

一瞬の間があって、わっと女子が盛り上がった。
「あんなボロ家に人呼んでどうするんだ。」
スガタはサラっと暴言を吐き、数名は「ひでぇ。」と心内で思うのだが、タクトは気にしない様子でこう続けた。
「いやぁ去年の台風でかなり崩壊しちゃったじゃん?修復ついでにちょっと改装しようかと思って!」

・・・おや?
「ああ、そうした方がいいな。」
とスガタ。
「そっかじゃあ人手がいるもんね。」
とワコ。
クラスメイトに疑問符が飛び交う。
「家の話だよねぇ?」
「家ってそんなラフなノリで改装するもんだっけ?」
「う〜ん、家っていうか、タッくん家は小屋かな?」
スガタに負けず劣らず、さらりと暴言を述べるワコ。
当の本人は実におかしそうにケラケラと笑って、
「そうそう僕ん家、家っていうか小屋!ツナシ小屋!」
あはは!と実に爽やかに笑うので、一同はつられて笑ってしまう。
まさにムードメーカー。

タクトが居なければ、ワコとスガタはどうなっていただろう。
悲惨な学生生活を送ることになっていたかもしれない。
この幼なじみが側にいたおかげで、この面倒な関係にある二人は、敏感な年頃をやりぬいてこられたのだ。
無邪気に笑うタクトを眺めていると、スガタに微笑みが漏れた。
一同の気を逸らす為の、寒気のするパファーマンスじゃなくて、素直に頭を撫でてやりたくなった。