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スターゲイザー/タウバーンのない世界

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タクトはそれに気付き、聖歌隊女子のざわめきは他と違ってキレイだなあなんて思う。
「昨日はごめん。」
タクトの細身の足を眺めながら短く呟いて、窺うようにタクトを見た。
さっきまで頬杖をついていた膝を抱えて、タクトは満面の笑みを浮かべていた。
その瞳が優しく、スガタしかみていなかったので、ワコを含めた誰もが、二人に声をかけられなかった。
微笑むタクトに、スガタは一瞬見とれてしまった。
大きなアーモンド型の瞳と均一な二重とか、美しい赤い瞳とか、女性的でいてシャープな輪郭とか、キレイな弧を描いた長い眉とか、見れば見るほど整った顔をしていた。
けれど微笑みは、顔の作りと関係ないくらい、別格に輝いていた。
スガタの全てを許してくれる、そんな微笑みだった。

後夜祭でワコはタクトと話さなかった。
自分とタクトがどうとか、自分とスガタがどうとか、タクトとスガタがどうとか。
それより二人が仲直りしたことの方が大切だった。
後夜祭は三人で過ごし、途中で1組のクラスメイトと合流してどんぶりの残りものを食べた。
二人が仲直りしているのを見て、友人達がほっとしていたのが分かった。
学園祭が終わると、次の週はすぐ体育祭があった。
二人の喧嘩騒ぎで、ワコは失恋したこともうやむやになり、その失恋の原因がスガタだったこともなんだか整理できないまま、見ないフリを続けていた。
本当はあんな告白は聞いていなくて、全て自分の妄想だったのではないだろうか。
そんな風にすら感じた。

「ワコはどう思ってるの?」
秋晴れの空の下、ジャージのハーフパンツを履いたタクトがパイプイスに座って、猫背に隣のワコを振り返った。
「何を?」
「アゲマキの家とシンドウの家の、なんかこ〜、リングみたいなののこと。」
映画のリングのことか、と思うとちょっと違くない?とワコは苦笑いする。
三人の中ではタブーの話題だったが、スガタがタクトに話してから三人は時々この話をするようになった。
「私もよく知らないんだけど、でもこの島が受け入れた人達を助けるお手伝いをするのが、アゲマキ家の仕事なんだと思う。だから特別シンドウとアゲマキ、とは思ってないな。」
「この島の人って、僕も?」
「もちろん!」
なんてことないようにワコが笑う。
「タッくんももちろん、みんなそうだよ。困ったことがあって相談に来る人が居たら拒まない。それがアゲマキの家。私は、それが不思議と嫌じゃない。そのために産まれて来たような気がしてるから。」
タクトは丸めていた背中が自然とのびる。
感心してワコをまじまじと見つめた。
「ワコってすごいなあ。」
「え!全然すごくないよ!」
「ううん、すごいよ。」
タクトが優しく微笑むので、ワコは頬を赤らめてタクトの瞳をまじまじ見つめた。
やっぱりこの人が好きだなあ。
相手が男性だから恋になってしまったけど、この好きはきっとそれだけじゃない、そんなの関係ないくらいタクトが好きだと分かった。
スガタとワコには、きっとタクトが必要だった。
タクトの存在が必然のように思えた。
タクトは目前の競技を眺めながら、けれどもっとずっと遠くを見つめているようだった。
その瞳が楽しそうにくるくると色を変えて、
「ワコが一番に大人になるんだな。」
ワコは胸がときめくような感覚がした。
「いつもそうだったよね。」
タクトは振り向き笑った。
「そうかな。」
そう言いながら、言われて初めて、そうだったのかもしれないと思った。
いつも置いて行かれてしまう気がしていた。
でも違ったのかもしれない。
いつの間にかワコは、一人で前を歩いているような気がした。
スガタとタクト。
この二人はもしかしたら、ずっとどこかで止まってしまっているのかもしれない。
スガタが恋愛に興味がないのも、タクトがスガタへの気持ちを微塵も出さないでいるのも、もしかしたらいつかから、進めないでいるんじゃないのだろうか。

「タクト、そろそろ行くぞ!」
座席の後部からスガタの声がした。
振り向くとタクトと自分の二人分の旗を抱えて立っている。他より一段と大きい旗に他の学年が振り返る。
「ああ!今行くよ!」
軽やかに返事をすると、颯爽と座席を跨ぎ一直線にスガタの元。
「じゃあ!行ってくるねワコ!」
「二人とも頑張ってね!」
ワコは声を張って二人を見送った。
瞬間とても心が軽くなった。同時に喜びと楽しみが胸に溢れた。
いつまでも二人の背中を見送るワコに、ルリが声をかけた。
「何?青春ですか?」
「ふふ、青春です。」

一年の旗の演目は、とても美しく勇ましかった。
普段馬鹿ばかりしている男子達も、やたら格好良く見える魔法がかかっていた。
赤と青の巨大な旗を、左右対称に振る二人は際立っていた。観客席は演目の完成度にわき上がり、生徒にも親族や教師達にも、立派なエンターテイメントを披露した。
向かいの観客席で体育教師と担任が、満足そうに腕組みをして時々満面の笑みで言葉を交わしている。
ワコはただただそれに見とれて。
「ねえルリ、聞いて。」
「ええ?今興奮してて聞こえない!」
「体育祭が終わったら、」
ワコはルリの言葉を無視して続けた。聞こえているのは分かっていたし。
「私タッくんに告白する。」
演技中の同級生に、声援を送ろうと息を吸い込んだルリは、その上げかけた拳を下ろしてワコを振り返った。
「・・・・・・・。」
ワコがルリを見て微笑む。
「ワコーーーー!」
ルリがワコに抱きついた。
「ついにいくのね!えらいぞ!応援してるからね!!」
「ふふ、ルリ、私タッくんの好きな人知ってるの。」
「・・え?」
真剣な顔になったルリに、ワコは余裕を持って微笑む。
「あ!!ルリ見て!!!」
一年男子の演目はクライマックスを迎えようとしていた。
南と北の旗を持った生徒達が、一斉にその旗を投げると、見事にそれが交互して一瞬で色が入れ替わった。
ワンテンポ遅れて、タクトとスガタがその巨大な旗を下から大きく振るった。
寸分狂いなく二つの旗は一回転し、タクトとスガタは互いの旗をキャッチした。
南十字島で昔起こった紛争の和解シーンだった。
入れ替わった赤と青を脇に抱え、二人は同時を旗を降ろした。
わき上がる歓声に、ワコとルリは黙ってそれに目を向けていた。

「でも告白したいの。」
ワコは先ほどの続きを口にする。
タクトが好きだと、やっと気付いたんだって。
それがどれだけ素敵な発見だったのか、タクトに報告したいと思った。
「ワコぉ・・・。」
ルリは今にも泣きそうになった。
ワコはそれを笑顔で振り返った。
「ルリ、私ね。タっくんを好きになれてよかった。」
ルリはもう一度ワコを抱きしめた。
ワコは胸の中にキラキラする気持ちを感じた。
タクトはいつも、そういう気持ちをくれる人だったと思い出した。
全て伝えたい。
タクトを好きになった、この素晴らしい気持ちを。
自分は大人になって行ける。