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スターゲイザー/タウバーンのない世界

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とくにいみはないけど?






タクトは机に突っ伏して目を瞑っていた。
寒いのが苦手で制服のセーターを着ているのだが、腕回りが気持ち悪いらしく腕まくりしている。
この時期はタクトが寒くて袖を下ろしたり、癖で腕まくりをしたりの繰り返しを何度も見ることになる。
そう思っていると突っ伏したまま顔も上げずに袖を下ろし、女子の仕草みたいに手の甲までひっぱった。
どうやら起きているようだ。
期末テストの真っ最中。
周りは皆次の科目のおさらいをしている。
スガタは直前に見なければならないこともないので、ノートを開いたまま潰れたタクトを眺めていた。
そこへワコが近寄った。
ワコがタクトの後頭部に一差し指を一本突き刺した。
ふわふわの髪の毛に、ワコの手が半分埋まって見えない。
面白そうだな。とスガタは思う。
タクトがゆっくりと顔を回して、突っ伏したままワコを振り返った。
ワコとタクトが二三言葉を交わすと、ワコはタクトの頭を犬のようにわしわしと撫でた。

ワコとタクト。
学園祭の時泣いているワコをタクトがなだめているのを見た。
あの原因は結局聞かなかったが、あれから二人は以前より仲良くなったようだった。
ワコはよくストレートに、タクトが好きだと会話の中でこぼす。
普段は男子にボディータッチなんてしないのに、タクトにだけはよく触れる。
1組内では実は二人はつきあっているんじゃないか、なんて噂もよく聞くし実際スガタも何度も聞かれ、そうなんじゃないかと迷ってルリに尋ねたことすらあった。
「違うよ!だとしたらスガタくんが一番に知ってないとおかしいでしょ!」とルリにつっこまれた。
確かにスガタ自身も、タクトの口から「恋じゃない。」とはっきり聞いたはずだった。
ともかくつき合ってはないとしても、二人の間で、いやワコの中で、何かが吹っ切れているようだった。

「あーーー!期末テストももうすぐ終わりーーーー!」
タクトが伸びをして叫ぶ。
12月に入っても、南十字島はまだまだ寒さの厳しさはない。
しかし季節は冬を迎えていた。
街はクリスマスの一色となり、クラスではクリスマスパーティーの計画が立てられている。
「タッくんは?今日もスガタくん家行くの?」
「うん、今日は家庭教師来るし、そのつもり。」
タクトは自分の習い事のように言ってみせる。
「先生くるまでワコも家で勉強する?」
「う〜ん。それもいいんだけど〜・・・。」
ワコはそうしたい気持ちを抑えて言った。
「三人で勉強するとやっぱり集中できないんだよね、明日の科目って全部中間でまずったやつだから。」
「そっか。」
三人で勉強すると雰囲気が変わるのは確かだった、タクトとスガタは受験勉強すら共にやっていたので、二人で勉強すると逆に集中力と持続力が上がる存在になっている。
タクトもスガタも、この勉強法が効率が良いと思っている。
気付くと一言も口を聞かず、時より勝手にペンを貸し借りしたり、教科書を交換したり、コーヒーをいれて来たりするのだが、最長5時間言葉を交わさなかったことすらあった。
二人はワコと別れると、そのままスガタの屋敷へ向かった。
強く吹き付けた風が感じていたよりも冬らしく、タクトは身を縮める。
「う〜!寒い〜!」
スガタは返事もしない。多分独り言だから。
「あー!カモメ!かっこいいなー!」
別に珍しくもないカモメを見てタクトがはしゃぐ。
スガタはカモメがカッコいいとは思わないし、むしろ馬鹿っぽい顔をしていると思う。でもタクトは動物が好きなので、虫も含め何か見つけるとすぐそれに夢中になってしまう。
タクトというのは普段犬のようにスガタの後ろをついてくるのだが、本来気ままな性格なので、自分の興味のそそられるものを見つけると勝手にどこかへ行ってしまう。夏祭りしかり。
そういうときスガタは、黙ってタクトが戻ってくるのを待っている。
大概スガタを振り返り、タクトはスガタを呼ぶのだ。
仕方ないので脳みその小さそうな顔したカモメに、カッコいい部分がないかもう一度探してみるのだが、タクトのいう格好よさなんてものはやはり見つからなかった。
「どこが?」
「えーカッコいいよ!白黒は最強!あとフォルムとか。」
ワっと飛び立ったカモメを見上げ、タクトは再び歩き出す。アホの子のように口をあけて空ばかり見上げているので、その腕を掴んでつまづかないよう引っ張る。
カモメはくるりくるりと飛び回り、いつのまにか視界から遠く消えて行った。
タクトが表を向き直る気配を感じた。
足取りも普通に戻り、スガタは肘から手を離した。

はし、と何かが手を掴んだ。
ビックリしてスガタは振り返った。
手元に目を向けていたタクトが、無表情にスガタの顔を向き直り、再び前へ歩き出した。
その手をタクトに引かれて、スガタも歩き出す。
「ちょっと、何これ。」
タクトに握られた手の話。
「特に意味はないけど?」
タクトはどこか楽しそうにそういうと、つないだ手を軽く振って歩く。
「気持ち悪いなー、誰かに見られたら変な噂が立つぞ。」
「あはははは!それ面白いなあ。」
「面白くないよ。」
スガタはそれで諦めた。
まあいいか。変な噂が立っても、タクトなら大丈夫だろう。
むしろ校内で喜んで手を繋いできそうなものだ、中学の頃もよく腕を組んで歩いていたが、タクトはそれが違和感なくできる奴なのだ。
手をつなぎスガタの家までの坂道を歩く、スガタもタクトも反対の手をポケットに突っ込んで。

「スガタ!」
その声にタクトはゾッとした。
弾けるように手を離し、振り返るとそこにはスーツを着たスガタの父親の姿があった。
鬼の様な形相でタクトを睨みつけながら、二人の側に近寄る。
スガタの父は背が高く肩幅も広い、高そうで品のあるスーツ姿はいかにも偉い人という風貌、威厳のある人だ。
その人が普段より一歩近い距離まで詰めたのは威嚇のため。
「お前達何やってるんだ。男同士で手なんか繋いで。」
低い、低い声で言った。
「・・・ごめんなさい。」
スガタは無意味な行為に弁解もできずただ謝った。
「僕がふざけてやったんです。」
タクトは緊張していつもより声が出なかった。
父親は即座にタクトを見据えた。
「変な噂が立つような軽卒な行動はしないでくれ。迷惑がかかるようならスガタに近づくことも許さない。」
「そんなの父さんが決めることじゃないだろ!」
スガタが声を荒げた。
「父さんが決めることだ!」
そう言い捨てて父親は先に屋敷の門を潜った。
小学生なら力づくでも引きずってタクトから引き離しただろうが、大きくなったスガタに力で敵わなくなっているのだ。ましてやスガタは武道を嗜んでいる。
けれどスガタはそんな理由には気付きもしない。もともと父親と暴力で争う気なんてひとつもないからだ。
スガタは小さくため息をつく。
「おじさんがこの辺を歩いてるなんて珍しいね。」
大概車で家から出かけるので、家の周りを歩いているところを見ることはない。
「・・・ごめん。」
「謝ることないって!・・・僕、今日は帰った方がいいかな。」
「帰らなくて良い!タクトがいた方が勉強がはかどるんだ。」
珍しくスガタは素直な言葉をタクトにこぼした。おかげで緊張と気まずさに沈んだタクトの心は、嬉しくてそんなことどうでもよくなった。