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スターゲイザー/タウバーンのない世界

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このまま残って先輩たちとカウントダウン番組でも見ようかな。
他のスタッフが待合室で年末番組を見る中、タクトは外に出てフェリー乗り場を眺めそんなことを考えていた。
来年の春を迎えたら、タクトは本土へ行くと言った。
今春、タクトの祖父は足を悪くして車いす生活を余儀なくした。
未成年のタクトが介護するには無理があるとされてしまい、祖父は本土の介護センターへと移り住んだ。
タクトと祖父が細々とした暮らしの寄りどころにしていた年金は、全てその費用となった。
元々奨学金での進学を予定していたため、タクトは唯一の身寄りと別れ、産まれ育ったこの島で一人稼ぎながら生活することにした。
けれど卒業したら本土の大学へ行って、できることならまた祖父と共に生活したいというのがタクトの願いだ。
それが少し早まっただけ。タクトはそう思うことにしていた。
あと数ヶ月で生まれ育った島を離れることになった。友達も、この風景も、想い出も、約束も、みんなこの島に置いて。
満点の星空に胸が締め付ける思いがしたが、タクトは夜風のせいにした。
フロアに戻ろうと海に背を向けた時、防波堤沿いの道に見覚えのある人影を見つけた。
「タクト。」
スガタだった。
「チネンさ〜ん、僕今日早上がりしてもいいですか?」
タクトが上機嫌で戻って来たので、室内の先輩らしい人達は、突然なんだ?という様子だった。
その直後、後ろのスガタの存在を確認した。
「何だ友達か?あと30分だし別にいいよ。暇だから。」
「すいません!ありがとうございまーす!スガタはちょっと待ってて、着替えてくるから。」
「うん。」
「おつかれさまでしたー!」とにこやかにその場を去るとスタッフルームへと駆けて行った。
取り残されたスガタに、タクトの同僚が「座る?」と声をかけてくれたがお断りした。
タクトの着替えの早さは知っている。
「それにしても色気ねーなー。高校生が。」
同僚は呟きながら、持っていたタバコを口に運んだ。

「何も早く上がることなかったのに。」
「いーのいーの!今年は年越しどうしようって思ってたところだったんだ。」
思っていたよりも寂しさを感じていたタクトは、スガタが初詣に誘いに来てくれたことに心から感謝した。
深夜0時まで時間を潰しながら散歩する二人の道すがら、自販機は夜道につかの間の休息スポットを作る。
「ワコから聞いたよ。」
「何を?」
「告白されたんだって?」
ぎくり、という擬音が背後に見えそうになるほど、あからさまに動きを停止させて。
「知ってしまったか。」
少年が悪ふざけしたような口調で答えると、コーラの缶のプルトップを立てた。
タクトが子供のように答えたので、スガタも少年の感覚に戻り会話する。
「だから言っただろ。鈍いんだよタクトは。」
「そうかな〜。」なんてとぼけて認めようとしないので、「昔からそうだよ。」と訳知りに言う。本人よりもタクトのことをよく知ってる。そんな特別感を垣間みて、スガタは気分がよくなる。
タクトは海岸へ下る階段の、自動車進入防止のアーチに腰掛けると上目遣いにスガタを見上げた。
「・・・これって三角関係?」
意外な言葉に不意をつかれて、コーヒーを口から離した。
「え?」
「うわあ!やだー!スガタと三角関係とか!!」
「いや待て、何だよ三角って。」
「えーだって、ワコはスガタの許嫁だし。」
「あー・・・。」
そういう意味でならそういうことになるのか。と納得。
「スガタってワコのこと好きでしょ?」
「は!?」
「昔からそうじゃん。」
しばし間を置き、呆れたため息が深く漏れる。
このタクトという生き物は、身近な人にほど勘が冴えないことを再確認する。
空気は読めるのに、読もうとしないし。時々突拍子もなさすぎる。本当は分別もつくし頭も切れる男なのに、性格のせいで天然になっている。
「ワコは好きだけど、・・・そうだな、タクトの言葉を借りると『恋してない。』」
タクトが持ち上げていたコーラをゆっくりと下ろすのが、視界に入った。それでタクトを振り返る。
唖然とした顔でスガタを見上げているので、スガタは改まって体もタクトに向かい合わせた。
にやりと笑って茶化してみる。
「ばーか。」
「ばーかって・・・。」
「ははは。」
スガタは穏やかに笑った。
「ほんとに?子供の頃からそうだった?」
「ワコには友情しか感じてない。でも女子にはワコ意外そんな感情もないし、女友達として特別だよ。」
それでスガタはふと思い直す。
「友情以上の感情もあるか・・・色んな意味で許嫁として、ワコには幸せになってほしい。どういう形でも、ワコの幸せには僕の力が必要だっていうのは分かってる。」
それはスガタがワコに寄せる切実な想い。
タクトは口を開けたままスガタを眺めていたが、スガタの言葉に少し笑った。
「ワコは自分で幸せになれるよ、スガタが責任とらなくたってさ。」
タクトが過保護過ぎると笑うと同時に、二人の前をアウディが走り過ぎて行った。

「だってさあ。」
タクトは脈絡もなく接続詞を口にした。
「子供の頃スガタの家に行くと、いつもワコがいたよ?」
「一時期はそうだったけど・・ワコがいつも家にいたから何?」
「小学校の頃は、みんな5時に帰っちゃって、遊び相手を探してスガタの家に行ったらいつもワコがいたんだよ。」
「いつもはいないだろ。」
「いつもいたよ。」
「・・・・・。」
少し黙ると波の音が寒々しく聞こえる。
ワコが家にいつもいたから何なのか、という問いはタクトの会話のペースにのまれてうやむやになり、スガタ自身もそのことより気にかかることが生まれた。
「タクトが夜家に来たのなんて、何回かだけだったぞ。」
「そんなことないって!何度も遊びに行ってたよ!ていうか毎日行ってたよ!」
タクトは譲れず反論した。幼い頃の記憶なので、感じ方はそれぞれなのだろう。
「毎日は嘘だろ!仲が良かった頃はよく遊んでたけど。」
「仲良くなくなったみたいに言うね!一緒に年越ししようとしてるのに!」
タクトが自分たちの仲を改めて発見して、笑いながら言う。
まったく仲良しであることに気づいてしまい、スガタも若干笑いが込上げた。
「腐れ縁だろこういうのは!仲が良いとか言うな気色悪い。」
「仲良しなくせに。」とタクトがぶつぶつ呟くのを無視して、スガタは思い出していた。
幼い頃の春の日の、情景が脳裏に浮かんだ。タクトと若葉の丘を走り回って、その背中を追いかけて、追い越して遊んだ。楽しくてしょうがなかった思い出。
いつでもタクトの後を追いかけて、いつしか追いつけなくなった幼い頃の思い出。
スガタは習い事で束縛されて、自由な時間がなくなったし、遊び盛りで友人が多かったタクトは、あっという間にスガタを置き去りにした。
「タクトが家に来てたのはちょっとの間で、あとは他の連中と遊び回ってただろ。」
授業が終わり、同級生達と校庭で遊ぶタクトを尻目に、自分は帰宅しなければならなかった。
「違うよ!スガタが付き合い悪くなったんだって、いつも習い事って言ってさあ!」
「習い事なんて関係なく、お前勝手に家に入って来てただろ?・・・でも来なくなった。」