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スターゲイザー/タウバーンのない世界

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他の子供達と遊び終わると、タクトはスガタの予定も関係なしに勝手に家に上がり込んで、用事が終わるのを待っていた。それがスガタにとって、何より楽しみな時間だった。
けれどある頃から、タクトは突然現れなくなってしまった。幼い心に感じた寂しさは、とても大きかったのを今でも覚えている。
その時思い知ったのだ、自分の存在はタクトを束縛できないと。
「だっておじさんに見つかったことがあったんだよ!」
「父さんなんて気にしてなかったくせに!」
タクトは覚えていないだろうと思った。けれどタクトが父親を警戒しながらも、屈しようとしなかったのは確かだ。でなければあんな約束できなかっただろう。
「でもその時知ったんだよ!」
タクトは幼い頃忍び込んだ夜の、シンドウ邸を思い起こした。スガタの部屋へ向かう、床の模様や当時の壁紙の柄を鮮明に思い出せる。スガタは習い事で別室にいて、スガタの部屋にはワコのいる気配がしていた。突然奥の部屋の扉が開いて。
「二人が許嫁だって!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」
言葉を失ったスガタからは、わずかな間の後にフ抜けた声しか出なかった。
スガタの父からもう来るなと言われた。スガタにキスしたことを怒られて、二人が将来結婚するからワコにも近づくなと言われた。ショックなのと追い出されたのとで、タクトはそのまま帰宅した。
あの時タクトが覚えた感情・・。
「だって!いつも部屋にワコが居て、許嫁だって聞いて・・・・。」
タクトが何か言おうとして、ためらい顔を少し背けた。
そして小さな声で呟いたが、その声は夜の闇に吸い込まれて消えた。
スガタは、タクトと同じように、幼い日の情景を思い浮かべていた。
記憶の中の幼いスガタが、今タクトが思い起こしている当時のタクトに、その頃聞けなかったことを聞くチャンスを与えられたような錯覚を覚えた。
どうして突然現れなくなったのか、その答えが分かる気がして。
「今、なんて言ったんだ?」
「・・・・・。」
スガタからは横顔をわすかに俯瞰することしかできないが、その表情は妙に幼く感じた。
「悔しかったんだよ。スガタがワコと、許嫁なんかになるから。」

・・・・嫉・・・妬・・・?
二つの文字がスガタの心臓を固く結ばっていたものを解いて、背中を通り抜けて消えた。
途端に心臓から熱いものが溢れ出した。
それまで詰まっていた感情を、逸早く全身に送り届けようとしているみたいに。
動きを停止していた心臓が、脈を早めてフル起動する。
動脈の音が鼓膜にまで響いて耳鳴りを引き起こす。
指先まで血管が開いて熱が熱を送り込む。
一瞬で脳が消費した、糖分を欲して目眩がしそうだ。
幼い日のスガタが感じた絶望と喪失と、現代のスガタが抱えた孤独感、あらゆる記憶がフィードバックする。
「タクト・・・・まさかそんな理由で、家にこなくなったのか?」
タクトはバツの悪さを隠そうと、わざとむくれた表情で視線を逸らした。
タクトが家に来なくなって、どれだけスガタが寂しさを覚えたか。それ故にタクトと距離を取ろうと、好意も憧れもしまい込んだ。
スガタの質問に若干の罪悪も感じたのか、少し申し訳なさそうな表情でスガタを見上げた。
視線を合わせるのがやっとだったので、タクトはそこにあった「僕より」という言葉は飲み込んで言った。
「だって・・・・ワコを好きみたいだった。」
スガタはそんな風に見えていたのかと思い。
そんな風にも見えるかと納得した。
幼い頃からワコは特別だったし、二人には共有するものもあった。ワコの周りには不思議な空間があって、おそらくそれはスガタにしか分からないものだった。
それがタクトにそんな感情を抱かせて、幼い嫉妬の仕返しに、二人に距離が生まれたのだ。
「バカな奴。」
非難する言葉に愛しさが隠せなかった。
胸に溢れた感情で、スガタの頭はもうあまり活動していなかった。
タクトが何か茶化すようなことを言ったが、スガタは感慨入ってまともな返事ができなかった。
スガタの反応が鈍くなったので、タクトは夜風を仰いで一人顔の熱を冷ました。
冬の風を吸い込んで、澄んだ空気の感触に深いため息が漏れた。
「わ!スガタ見て、息が白いよ!」
タクトは立ち上がりスガタの視線の高さに合わせ、夜の闇に息を吐いた。
タクトの吐息が目に見える情景は、幼い子供の仕草の様でスガタに増々ノスタルジーを与えた。
「寒くなったなー!」と目の前で笑うタクトが、抱きしめたい衝動にかられるほど、素直に愛おしいと思った。
それでスガタは気がづいた。
幼い頃にしまった想いが、長いすれ違い越しに、今夜スガタの元に戻って来たと。


「年越し一緒なのは初めてだね。」
「そうだな。」
腹が減ったとタクトが言うので、二人はコンビニで肉まんを買った。
タクトはスガタと一緒にいると、年末とか退学とかの忙しなかった出来事がなかったような気分になった。
今がいつまでも続いてくれるような気分だ。
ワコやスガタと同じ学校に通えることに浮かれて、望んで努力すればなんでも叶うと信じた。
両親がいなくとも、家が貧乏でも、幸せは自分で選べると思っていたし。欲しいものは手に入ると思った。
それが子供だったからとはまだ思いたくなかったが、祖父が歩けなくなってからは、タクトは人生の現実みたいなものを突きつけられているようだった。
いつもどこかで祖父を放ったらかしてるような罪悪感と、不相応な生活を背伸びしてこなしているような気持ち悪さがあった。
後ろ盾のない自分が、ワコやスガタと同じように振る舞おうなんて無理だ。
じいちゃんが一人で年を越そうとしているのに、自分はスガタと楽しんでいていいのか。
そう思うからやはり、今回の進学がダメになったのは妥当だったようにも思えた。
タクトは「妥当」という言葉が、まったく好きになれなかったのだが。

肉まんを食べ終わる頃にはあっというかに年の瀬が迫って来て、二人はワコの家の神社へと歩き出した。
神社には既に多くの参拝客が列を作っていた。
二人は神社の灯籠に、たいまつが灯されているのを初めて見たと感心し、石灯籠から炎が漏れるのを見て、あんなダイレクトな使用方法が本当に正しいのか討論した。
もっと先には本格的な焚き火が組まれていて、今日だけ夜更かしを許された子供達が、火に当たっておしるこを食べている。
「おしるこー!」とタクトが叫ぶと、目前の会社仲間らしい大人たちが驚いて振り返った。タクトが軽いノリで謝って、気さくに話しかけているうちになんだか盛り上がり、お参りの正しいやり方なんかを細かく教えてもらった。
いつの間にか一番後輩らしい人が、二人分のおしるこを持って来てくれて、申し訳ないとか、ありがとうとか言って、気づくと0時間際だった。
カウントダウンのことをすっかり忘れていた二人は、30分前に知り合った大人達と、境内に集まった人達の声に知らされてカウントダウンした。
『3!2!1!あけましておめでとーーーー!!』
至る所から「おめでとう。」という言葉が飛び交い、その場に新しい年を祝う一体感が生まれた。神社で年を跨ぐというイベントを、初めて体感しタクトは高揚した。
「あけましておめでとう。」
いつもの変わらぬ、スガタの声が隣でそう言った。