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スターゲイザー/タウバーンのない世界

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てをつないで、ほらだいじょうぶでしょう?






ワコのスカートが揺れる。
それが軽やかで寒さも消し去る。
この島が一番冷え込む季節がやってきた。
三学期最初の登校日となり、三人は浜辺沿いの喫茶店へと足を向けていた。
ワコが弾んだ足取りで先頭を進む、タクトがそれを眺めながら歩く。
二人の背中を見守るように、スガタはゆっくりと歩調を合わせる。
タクトの斜め向こうで、ハクセキレイが早足に歩く。
「かわいいなあ。」とか「足すっごい!」とか言って。
三人の進行方向と交差すると、チチッという声をあげて飛び立った。
それを目で追ったワコが、タクトの肘を掴んで指差した。
「あれ見てタッくん!」
ワコが指差す先には、電柱に止まったスズメ。寒さで羽毛を膨らませまんまるくなっていた。
「ちょお太ってる!!やり過ぎじゃない!?あのスズメ!」
タクトが驚いて叫ぶ。
それは確かに他で見かけるより着膨れしたようなビジュアルだ。
「ほっとけよ、スズメの勝手だろ。」
失笑気味に間の手を入れる。
「あはははは!寒がりすぎだよ!」
「南の島だよー!」とスズメにつっこむ。
ワコとタクトは時々こうやって、目に見える全てのものをふざけ合う。
「え、なんで感電しないんだろ?」次の瞬間には動揺している。
「あはは!何言ってるのタッくん!ははははっ・・・・・・・あれ?」
ワコのノリツッコミボケに、タクトとスガタはしばらく笑った。
スガタは久々に腹を抱えて笑った気がする。
絶縁電線の話をしてやって、さらに何故電線に止まる鳥が感電しないのか説明を施す。
タクトが「なんでそんなこと知ってるの?」と若干引いた態度を見せて、ワコは科学が苦手なので理解しようにも右から左に流れているような顔をしていた。

そんな二人の隣にいると、スガタにとってはワコもタクトも。
いつからかとても手の焼ける兄妹のようだった。
それが心地よくて、一人でいるより二人。二人でいるより三人。そう思える。
スガタが人を好きになれたのも、人が恋しいと思えるのも、きっと二人のお影だろう。
どう扱ってどこにしまっておけば、このかけがえのない時間を大切にすることができるんだろう。
すり抜けて通り過ぎて、大人が昔を思い出す口ぶりのように、感情は風化してしまうのだろうか。
でもそんな風に思った事実だけでも、忘れたくないとスガタは思った。
無駄な会話をするともなく繋いでいると、海沿いの喫茶店が見えてくる。
三人はお決まりの窓際の席についた。

その日の終礼の前に、ワコとタクトはいつも通りなんとなしに、スガタの机に集まっていた。
その時スガタは、後見人になれないか父親に頼むつもりだと、ワコに話した。
ワコは驚いていたがすぐに賛成し、タクトは乗り気じゃないという話をした。
「やるだけやってもいいだろ?」
スガタがそんな風にタクトに伺うことなんてなかった。
「いいけど。それ、僕も同席していい?」
そう言われて断る権利はスガタになかったので、「タクトが望むなら。」とスガタは同意した。
タクトもスガタも性格上、決めたらすぐ実行という傾向があったので、スガタに唯一予定がない土曜日に父親と話をしようと決めた。
帰る頃タクトは担任に呼び止められた。
ワコとスガタが隣にいて、担任が口籠った様子を見せていたので、転校のことは二人に話していると伝えた。
「そうなのか。」とか大人らしく何もない風に返事をしたが、担任はタクトの転校をとても寂しがってくれた。
担任から渡された資料は、同じレベルで教育を受けられる学校のリストだった。
ワコにはそれが不安要素になったのだろう。
中学の頃三人でよく行っていた、喫茶店にいこうと言い出した。
お影で二人もひと時の、安らぐ時間を過ごせた。

年始に引き続き家の仕事が忙しいワコに合わせて、短い時間で解散した。
喫茶店からワコを見送ると、二人は浜辺に降りて寄り道ぎみに帰路についた。
ローファーに砂が入るのはとても不快だが、それももう慣れてしまった。
「カモメー!かっこいいなあ〜!」
「白黒が最強なんだろ。」
相変わらず羽ばたく度に黴菌をばらまくようにしか思えない。
「なんかこういうのっていいね〜、学園ドラマみたいじゃない?」
海を歩くことなのか、もっと重たい方の話なのか、スガタには分からなかった。
「さーね、僕はドラマみたいなのがいいとは思えないけど。」
スガタが苦笑いして言い捨てる。タクトは何も答えない。
「そう言えばタクトに聞いてなかったな。」
「んー?何を?」
「夢の話。」
それでタクトが歩みを緩め、スガタを振り返り隣になるのを待っている。
見つめ合い距離が縮まる。スガタは肩が並んでも目を離さなかった。
それ故タクトも足を進められず、二人はそのまま立ち止まった。
「タクトの夢ってなんだったの?見つけたって、言っただろ?」
「あー・・・・・ああ・・。」
誤摩化すように口角を上げた。
「それよりスガタはどうなの?」
「お前が言わないのになんで僕だけ報告するんだよ。」
タクトが露骨に話を逸らせたので、エルボしてから肩を掴んだ。
「いやいやいや、宿題出したのは僕だし!」
タクトは仕返しに脇腹に軽いパンチを入れてから、肩を掴むスガタの手を払おうとする。
こうなってくると戯れ合いのノリだ。
「タクトが言い出したことだろ、おい。」
「タアーーーーーー!」
「ぅらあ!!!」
「グフッ!」
タクトが突然スガタの腕を払い攻撃態勢に入ったのを、逸早く反撃で撃沈させる。
「無駄な抵抗をするな!」
「あっはっは!!」
不意打ちを食らって腹を抱えたタクトが笑う。スガタも馬鹿だなあと思いながら可笑しくなった。
「スガタってサイコーだな。ほんと面白いや。」
「僕はどう見ても面白い人種じゃないだろ。」
「全然!面白いよ。自覚ないんだね。」
「言ってろ。」
しばし笑うとタクトは背を伸ばし海を向かう。
「やりたいこと見つかったんだ、スガタ。」
「ああ。見つけた。」
「そっか。」
波を眺めてタクトは間を作った。
何か決心を固めるように大きく息を吐いた。
「僕の夢さあ。」
タクトは微笑み振り向いた。
タクトの赤い髪と赤い瞳は異世界の住人の様で、日常の穏やかさに不釣合いだ。
「呆れて笑わないでね。」
その異質感がたまらなく好きだ。どこかのヒーローのようでたまらなく眩しかったんだ。
照れ隠しのように目を細めて笑う。その表情が心地よくて、スガタを首は倒して自覚なく微笑み返した。
スガタの仕草が優しく受け入れてくれたようだったので、タクトは高まる鼓動を抑えて言葉を続けた。

「スガタのビジネスパートナーになりたい。ちゃんとスガタに追いつくから。」
スガタは時が止まったように停止した。
驚きと喜びで言葉を失う。だけど理屈に合わない気がして戸惑う。
「それ・・・・て。」
タクトは不安になった。幼なじみと言えど、鬱陶しいだろう。
スガタにとって、自分が疎ましい存在になったらどうしよう。
だが何度考えても、タクトにはそれしか浮かばなかった。
何がしたいということではなくて。誰と共に行いたいということが、夢でもいいんじゃないかと答えを出した。