二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

スターゲイザー/タウバーンのない世界

INDEX|31ページ/37ページ|

次のページ前のページ
 

「分かってるよ!すごく不確定な目標だし、状況によってそりゃあ色々変わってくるから、スガタが迷惑なら無理はしないけど・・・・ほらぁ、呆れないでって言っただろ。」
タクトは弁解するように、早口で言った。
小さなコミュニティーにこだわるのは、成長しないと分かってる。
自分はまだ16歳で、まったく世の中のことを知らない。
これからもっと沢山の経験と出会いがあって、学習し続けて行くだろう。
でもだけど、でもだからこそ、
今の自分が望むものを欲しがる気持ちを。
尊重したいとタクトは思った。
「いや呆れてないし、嬉しいけど。それってつまり、父さんの会社に勤めるってこと?」
「うーん、というか。」
タクトは首を傾げ斜め上を見上げる。
「僕ってやる気はあるんだけど、やりたいことってないんだよね。そういうことを決めるのって、スガタの方が上手だから、スガタについてこうと思って。」
それは確信をついていて、本能的に自分をよく理解している。
スガタについていく。
それがタクトの出した答え。
タクトの発言というのは、いつも意外性と破壊力を持っている。
呆れるを通り越して尊敬する。
同じ道は決して歩めないと思っていたのに。
「スガタが他にやりたいことがあるなら、僕もそれについてくよ。」
あは。とノーテンキに笑う。
「・・・・ムカつく。」
「ムカつくの!?」
「ムカつくよ、簡単に付いてくるとか言って、本当にサラっとやってのけるんだから。」
「それはスガタの方でしょー?」
「あのな、僕は考えて目標を立てて計算してやってるんだよ、でもお前はそれを見てるだけで同じレベルに並ぶだろ。」
「そうなの?」と考える姿がバカっぽくて。
「でも確かに、タクトはその方が能力を発揮するよな・・・。」
もしかしたらタクトは、スガタと出会っていなかったら、この豊富な才能も全て見つけられないまま、のほほんと暮らして終わってしまったのかもしれない。
それでもタクトは幸せだろう。
スガタの中で生まれたその考えは、光が差し込んだようにそこからあることを気付かせた。

才能なんて開花させずとも、タクトは幸せになる術を、生まれたときから持っている人間だった。
それだけでタクトは充分だったはずだ。
むしろその秘められたポテンシャルは、スガタのステージに追いつく為のものじゃないのか。
そう思うとスガタは胸が奮起した。漠然と描いた野望が燃えるように興奮した。
「そうか、その方が僕に都合がいいんだ。」
独り言を呟いて。
タクトは斜めに見上げて不思議そうな顔をしてみせたが、それ以上説明がなかったので追求もしなかった。
タクトは、何事もなくスガタが受け入れたことに、内心ホッとしていた。
スガタと言えば、タクトの言葉に悪戯な策が浮かんでいた。
「タクト、父さんに会うの、来週でもいいか?」
「うん?構わないけど?」
「じゃあ来週の土曜に。」
そう言うとまるで少年のような微笑みを浮かべた。


スガタは自室で、週明けの授業の教材を揃えていた。
それがスガタが帰宅して、一息ついたあとの金曜の日課だ。
母に尋ねれば今夜父親は帰宅すると言う。週末はこちらで過ごすだろう。
念のため携帯で父親に一報した。
「明日話したいことがあるんだけど、時間ある?」
ほとんど電話で会話したことがないが、スガタが改まって聞くと、電話越しの父がいつも通りの声で答えて、それが尚更違和感だった。
『ああ、大丈夫だけど、今日帰ってからじゃダメなのか?明日の午後は予定があるから。』
「明日がいいんだ。じゃあ午前中でいいから。」
父はタクトを嫌悪している、だけどそれ以上にスガタを愛している。
大丈夫。説得できる。
スガタは心で繰り返した。

その日スガタはタクトと海岸で待ち合わせた。
朝の海辺は全体が白み掛かっていて、静かで少し寒い。
家の風呂の調子が悪いとか、昨日山猫を見たとか、嘘めいた雑談を交わしながら坂を登っていると、少し緊張していたのも和らいだ。
休日の人気のなさも、梅の香りも、新鮮な気持ちにさせてくれた。
二人はいつもの急坂を登り終えると、身丈以上ある門扉の前に並んで立った。
数秒の間を持って、自動で門が開く。
「行くぞ。」
「うん。」

「あらあ?タッくんいらっしゃい。」
リビングに入るとスガタの母親が、コーヒーをテーブルに運んでいる最中だった。
その声に父親がタクトを振り向いた。
「おはようございます。お邪魔します。」
タクトが頭を下げる。
「おはよう。」と目逸らして父親はコーヒーをすすった。
スガタはタクトに目配せして、自分の隣に座るよう促した。
「どうしてツナシくんが?話があったんじゃないのか?」
自分の斜め横に腰掛けたスガタに、父親が高圧的になった。
それに気付かぬ母が、「コーヒーにする?紅茶にする?ホットでいいのよね?」とにこにこしてタクトに声をかけている。
「タクトのことで話があるんだ。」
「・・・・ツナシくんのことで?」
なんでそんなことを自分が聞かなきゃいけないんだ?と、聞こえてくるような声色だった。
「母さんも、お茶はいいから座って聞いてくれない?」
「えー、でもタッくんに紅茶いれたいわ。」
「ほんとに僕は・・・おかまいなく。」
父親の前で馴れ馴れしくするのを遠慮して、タクトは少しぎこちなく母親に話しかけた。
「じゃあ仕方ないから・・。」と呟くと、使用人にお願いして母親は自らもイスに座った。
「タッくんのことでお話って何かしら?」
母親がいるとやはり話がしやすい。
スガタは少し余裕を取り戻して本題に入れた。

「タクトが今一人暮らししてるのは知ってる?」
父親に向けて問いかけた。
「ああ、母さんからそんな話を前に聞いたな。・・おじいさんが足を悪くされて本土に行かれたそうだね、大変だっただろう。」
そうタクトに声をかけた。
「はい。でもなんとか一人で生活できてます。」
タクトが答えるとスガタが言葉を続けた。
「タクトは奨学金でうちの学校に通ってるんだ。」
「そうか。若いのに自立して偉いものだな。」
お世辞や建前というワケではなく、素直な感想としての言葉だった。
全ての事情を知っている母親の方は、「ほんとにねえ。」と辛そうな顔をした。
「ありがとうございます。でもそのことでお話に伺ったんです。」
「・・・そのことで?」
両親は同時にタクトに注目した。
「去年は祖父が健康だった間に奨学金制度を受けました。でもそれが今年になって、祖父が保証人に認められなくなったんです。」
母親が息を飲むと「そんな・・。」と悲しそうな声で呟いた。
父親はまっすぐタクトを見据えていた。
さすが大企業の責任者である男には、身内のスガタですら威圧感を感じる。威厳と存在感で圧倒されるものがあった。
「それで?」
それに怯むことなく、タクトは身を乗り出して父親を見つめ返した。
スガタは自分が交渉するつもりだったが、タクトと父親のやり取りが、水を差せない雰囲気に変わっていたので、それをタクトに委ねることにした。
「無理を承知でお願いします。おじさんに、僕の後見人になっていただきたいんです。」
「・・・無理だ。」
一瞬考えた間があったが、それが本当に一瞬だったのでほとんど即答だった。