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スターゲイザー/タウバーンのない世界

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「後見人というのは連帯保証人ということだろう?息子の友人というだけで、悪いがそんな約束はできない。」
思った通りの反応だった。
そこでスガタが口を開いた。
「この話は僕がタクトに持ちかけたことなんだ。」
冷静な声で、できるだけ荒立てないように慎重に話す。
「もちろんタクトを信頼して、保証人になってくれっていうのは非常識だと思う。」
両親がスガタを見つめる。
「だけど僕のことは信頼してもらえる?万が一タクトが払えない時は、僕が全額返金する。」
「何馬鹿げたこと言ってるんだ!そんな話が通るはずないし、そんなこと許すはずがないだろ。」
タクトは会話の主導権を奪われ、シンドウ親子をみつめるしかない。
「もちろん僕が代わりに払うなんてことにはならないよ。タクトの将来は僕が保証します。」
「何を根拠に。」
父親は鼻で笑う。
「僕がタクトをビジネスパートナーに育てるから。」
「ビジネスパートナー?・・高校生が何言ってるんだ。」
「高校生だよ。だけど父さんが僕を、会社の幹部にするために教育してきたんだよ?16歳でもそのくらい考える。」
「父さんからしたらお前はまだ青二才だ。」
「父さんは大学時代の友達をパートナーにしたよね?」
「マクベスと一緒にするな、彼は優秀だ。」
「タクトは優秀だよ。南十字学園で成績はトップだし人徳もある。何より僕を理解してるし信頼を置いてる。タクトがいると、ことが簡単に運ぶんだ。」
「彼が人を惹き付けるのはよく分かる。だが社会ではそれが全て良い方向に働くとは限らない。」
自分を肯定する言葉に、タクトは内心驚いた。
「タクトは馬鹿じゃない。いつでもどこでも愛想を振りまくしか脳がない人間とは違う。」
「世の中にはどうにもならないことがある。それを知るいい機会じゃないか。」
「敗北も劣等感も知ってるよ。負け続けるのが良くないのも知ってる?僕は勝ち続ける人間になりたい。そのためにタクトが必要なんだ。」
この時スガタの母とタクトは、自然と同じことを考えていた。多弁な二人の会話を聞いていると、似た者親子だとよく分かる。
「ツナシくんにはツナシくんの人生があるんだ。お前が手を出すことじゃない。」
「タクトの人生のためじゃない。僕の人生のためだ。」

そこでリビングは静かになった。
カチャっという食器の音がして、気付くと使用人が紅茶を出せないまま、部屋の隅で所在なく立っていた。
それを振り向いた母親が微笑むと、やっと側によるタイミングを貰えた。
使用人がタクトのティーカップに紅茶を注ぐと、タクトと目が合い、二人は小さく微笑み合った。
「タクトを卒業させるのは、父さんにとっても悪いことじゃない。将来絶対そう思わせるよ。」
スガタが再び口を開いた。
「学校の奨学金だけじゃない。それだけでも無理な話だが、それ意外の保証も請け負うことになる。スガタの話でも、会社の話でもない。彼の信頼性の問題だ。」
するとスガタがおもむろに、いつの間にか後ろに用意していたファイルを持ち出し、書類のようなものを父親へ差し出した。
「なんだこれは?」
スガタは前屈みに手を組んだ。
「いいから目を通してください。」
言うが先か、ほぼ同時に、それをめくっていた。
「・・・・・・・・・。」
その表情が見る見る内に驚きへと変わった。
「・・・・・これはスガタが作ったのか?」
そしてスガタは悪巧むように微笑んだ。
「違います。マクベスが作ったんです。」
その言葉に不意をつかれたらしく、口を開けてスガタを見返した。
「なあに?」と言って母親がそれを覗き込んだが、タクトのことが書いてあることしか理解できなかった。
タクトはといえばそれすらもわからず、疑問符を飛ばして状況を見届けるしかできないでいる。
「父さんに分かりやすい形にしてみた。会社では信頼できない人間を組織に加えないよね?普段はそれで判断するんでしょ?」
「どうやってマクベスと・・・いやいつの間に、あいついつからお前と連絡を・・・。」
あらゆる疑問が一度に襲いかかったが、その驚きは不快なものではなく、息子にいっぱい食わされた喜びに近かった。
それは会社で用いるヘッドハンティングの、人材資料とほぼ同じ作りだった。
もちろんただの高校生なので、実績もスキルもほぼない。
故にほとんど素行調査のような内容になり、同じもしくはそれ以上の情報量を成していた。
文体から確かに、自分のパートナーが検閲を通したものだと分かり、呆れてしまう。
50近い多忙な男に、自分の息子と言えどよくここまでやらせたものだ。
「ちなみにマクベスは、タクトをとても気に入ったようだったよ。」
「・・・、あいつも馬鹿なことにつき合う。」
「これでもタクトに信頼性と将来性はないって言える?」
「・・・・・・・・・はああ。」
父親は額抑え呆れて深いため息を付いた。
「笑わせる。こんなもの作った所で、お前はまだ社会にも出ていない、ただの未成年だ。世の中の何が分かる?自分が言ってることの非常識を知れ!」
「じゃあ息子としてお願いします。僕の頼みは聞いてくれますか?僕が父さんに頼み事をすることは、きっともう二度とないよ。」
顔を上げるとまっすぐにスガタを見つめ返した。
スガタも真剣に父親に向かった。
父親と、こんなに真剣に視線を交わしたことがあっただろうか。
スガタはそれを貴重に感じ、その機会に感謝すらした。

緊迫した雰囲気に、母親がぽつりと口を開いた。
「じゃあ私からもお願いできませんか?」
三人がその穏やかな雰囲気の女性を見つめた。
「私は幼い頃からこの子を知っていますけど、自分の子供のように信頼しています。」
タクトは胸が熱いものでいっぱいになった。
その言葉に涙が溢れそうになったのだ。
父親は何も言わず妻を見つめ返した。
自分が誰でも信頼してしまう、世間知らずだからではない。
制すように母親は、真剣な眼差しをその人へ向けた。
「・・・分かった。」
諦めたように呟いた。
「せっかくだからお前が用意した、この資料によく目を通す。それで本当に人として信頼できれば。後見人になろう。」
「あ・・・ありがとうございますっ!!」
タクトが驚いて立ち上がった。
「まだ決まったとは言ってない!それに、なるからにはツナシくんには、行動を謹んで自覚ある生活をしてもらわなければ困る。」
「っ、はい!もちろんです!迷惑がかかるようなことはしません!」
「当然だ。」
「ありがとう父さん。」
「ありがとうあなた。」
息を殺してそれを見守っていた使用人が、誰にも気付かれず満面の笑みで鼻息を荒くした。
「君は人に恵まれている、そういう才能は持って生まれたものだろうな・・・。」
独り言ともとれる風に呟いた。
「スガタの話通りなら、君も私の部下になるということだ。」
「はい・・・。」
「高校生活を楽しんで、成長しなさい。」
「はい!」
一瞬タクトを見たが、すぐに視線を外しもう冷めたコーヒーに口を付けた。
「・・・いれ直してくれないか?」
「はい。」
その女性が優しく微笑み返すと、張りつめていた男の空気が和らいだようだった。


スガタは溢れる達成感に、放心状態だった。
そして話し合いの中で、父がタクトを嫌っていたわけじゃないことが分かった。