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スターゲイザー/タウバーンのない世界

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父親にとってタクトは、スガタを脅かす存在であって、協力する存在と思えなかったのだ。
それはスガタがどこかで、人生を放棄していたから。父親はそんなスガタが、タクトに敵わないと感じていたのかもしれない。
その心配がもうなくなった。
今日のスガタがそう思わせたことを、本人は知らない。

スガタの部屋に入ると、タクトはまっすぐにソファへ向かったが、ソファに座らずテーブルとの間で立ち止まっていた。
タクトが固まっていることに気付き、肩を叩こうとスガタが数歩近づいた所で、不意にタクトが振り向いた。
「スガタ、」
「なんだ?」
「ありがと。」
呆然として口を開いたタクトは、言葉の後に実感が湧いたようで、ほっとしたように微笑みを作った。
午後の暖かい日差しが差し込み、床板に反射して、部屋の半分は明るい。
タクトの背後に光の柱ができていて、ほこりがチラチラと瞬きながら、ゆっくりと対流している。
「嬉しかったよ。『僕の人生のためだ。』・・・って。」
自分で口にすると再び思い出したようで、タクトは少し照れたように微笑んだ。
それは手の届く距離。三十センチもないだろう。
タクトの微笑みに、スガタは別の実感が湧いた。
これが海の向こうに行ってしまう所だった。
自分の手で掴み取った。

「わっ!っとお!!」
ドサっとホコリを立てて、タクトがソファに倒れ込んだ。
というよりほとんど押し倒されたような状態だった。
「いてて・・・。」
タクトに覆い被さる形で、スガタはその肩に顔を埋めた。腕はしっかりと背中に回されて。
スガタが不意に肩を震わせ笑い出した。
「スガタ・・・?」
呟くようにスガタが言った。
「清々した。」
「え?」
スガタは体を起こしてタクトと顔を合わせた。
「スッキリした。」
「ええ?」
そう言って晴れやかな声を出すので、タクトも訳もわからずおかしくなった。
「胸の仕えがとれたみたいだ!はー、スッキリした!」
「ふふ、よかったね。」
嬉しそうにするスガタに、タクトは微笑んだ。
「誰にも取られたくなかった。」
「え?」
子供みたいに言うそれに、タクトは聞き捨てならずスガタに目を向けた。
けれどスガタも言い捨てたわけでなく、ちゃんとタクトを見つめ返していた。
返す言葉を探しながら、それ以上に瞳でスガタに問いかけながら。
タクトが身近な存在に鈍い頭を回転させて、真意を探しているのがわかった。
「お前のことだよ。」
「・・・・・・。」
尚もタクトが疑わしい顔でスガタを睨むので、スガタは少し困った顔で笑った。
「タクトを奪われたくなかった。」
「・・・。」
告白のようにも聞こえて、友情のようにもタクトには取れた。
「自分だけはいなくならないって、昔ここでお前が言ったんだぞ。」
スガタを見上げるタクトが、大きな瞳で見つめ返した。
「シンドウの家に、自分の人生も奪われるんだって、僕が悲観的になってた時にさ。それが嬉しかったんだ。・・・タクトは覚えて無いだろうけど。」
「『スガタのお父さんが、スガタから僕を取り上げても』?・・・あれ・・・スガタ覚えてたの?」
その反応が意外だったらしく、スガタも驚いた顔でタクトを見つめ返した。
「覚えてるのか?」
「覚えてるよ、何度でも会いにいくって、言ったの。」
スガタは返す言葉を失った。
ただ探していたものが見つかったような、喜びで胸が高鳴った。
でもそれが苦しくて、嬉しさで深いため息と脱力。
「はあ。」
タクトの胸に、今一度倒れ込む。
それはタクトも同じだった。
見慣れたスガタの部屋の天井を仰ぎながら。
あの日の出来事を思い出した。
冬の木々の、乾いた葉の擦れる音が聞こえる。
キィキィという鳥の声が遠くで響いた。
まるでデジャヴ。
その瞬間にたくさんの世界がそれぞれの意志で動くのに、お互いだけが今お互いを感じている。
それは世界から切り抜かれたように、心と心が向かい合う。

「・・・ずっと覚えてたのか?」
脱力したような声で言った。
ああ。
今そういう状態じゃないんだけど・・。
タクトは自分に釘を刺しながら、スガタのけだるい声ってカッコいいなあと、それに気をとられた。

「・・・覚えてるよ。」
当然だろうと、タクトが答えた。
その言葉が、本当はずっとスガタの気持ちを、知っていたんだと言っているような気が、
スガタにはした。

今の今まで互いに、確認することなんてなかった。
それが野暮に思うくらい、触れずにしまって置きたい大切な思い出だったから。
昔のようにもう小さくない二人では、ソファの上に収まりきらない。
投げ出された足が手すりにぶつかって痛いし、スガタの体重が直にかかって重たい。
体重を受け止める体も、ゴツゴツしていて安定が悪い。
16歳の青年二人が、ソファで重なって横たわる状況は、異常と言っていいだろう。
けれどもこんな状況に、二人はまったく違和感がない。
ずっとそれを望んでたから。

「いなくならないって言ったよな?」
「ずっと好きだって、言ったよね?」

胸の上の重みに、タクトは10年前感じた喜びを思い出した。
それが懐かしくて、それが嬉しくて、それが愛しくて、大切で。
胸が熱くなる。
のどに熱が込上げる。

「約束しただろ。」
「約束したよ。」

タクトの声が消え入りそうだった。
スガタは欲しいものを手に入れた。
嬉しさよりも切なさで、いっぱいになったのは何故だろう。
スガタは体を起こして、両手でタクトを跨いで見下ろした。
それは告白ではなく、訴えのようだった。

「今でもお前が好きだよ。」

タクトの表情が歪んで涙が瞳に溢れた。

「僕もだ。」

瞬きすると涙がこぼれた。


「ずっとスガタが好きだよ。」


ずっと言えなかった言葉と一緒に、タクトは感情が溢れて涙を落とした。
スガタは笑ってタクトの前髪を掻き揚げた。
「何泣いてんだよ。」
タクトが声を出さず泣き笑いする。
肩を震わせて言う。
「感動した・・・。」
ふはは!と笑うと細めた目尻からまた涙が伝った。
何も変わらないその部屋は、幼い日の二人がすぐ側にいるようなだった。



「ワコ!」
神社の階段を上がりきると、タクトが直ぐさまその姿に駆け寄った。
「どうだったの!?大丈夫だった?」
ワコも腰掛けていた階段から立ち上がって、待ち切れずに駆け寄るタクトに答えを迫った。
けれどタクトから返事を聞く前に、その表情で大凡予想はできていた。
「許可がおりた!」
「やったーーーー!!!」
「やったよーーーーー!!!!」
ワコが跳ねてタクトに抱きつくと、タクトがワコを抱き上げて回転した。
わあきゃあ言いながら二人がハイテンションに盛り上がって、ようやくスガタがその場に辿り着くと、今度はスガタに両手を広げ駆け寄った。
「えらいぞスガタくーーーーーん!!!」
「ちょっと!」
「えらいぞーーーーー!!!」
二人はスガタを押し倒しそうな勢いで抱きついた。
「わ、わわわ!」
スガタが後ろに仰け反って、ワコも一緒に倒れそうになる。
「わあ〜!とと。」
それをタクトが引き戻す。
三人バランスを戻すと一息ついて、一瞬間があって顔を見合わせた。
タクトが吹き出すと、それが伝染して三人で笑った。