二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

スターゲイザー/タウバーンのない世界

INDEX|35ページ/37ページ|

次のページ前のページ
 

「それなら猫も分かってくれるんじゃない?」
「『タクトいなくなった!!あー、なんか強引だと思ったんだよなあ・・引っ越すからだったのか〜・・。』って分かるよね。」
「分かんないよ!」
タクトがふざけてケラケラ笑う。
「猫だから分かんないよ。」
もう一度釘を刺す。
楽しい気分になったのか、上機嫌のタクトが鼻歌を歌いながら、一人前を歩いて行く。
スガタはものすごく不服だ。
「なんでそんな余裕なんだよ。」
タクトが肩から振り向いて、まだご機嫌な笑顔でいる。
「なにがあ?」
「何がじゃないよ。一年も他の島に行くんだぞ。」
タクトはそんなスガタを見つめながら、頭の後ろで手を組んで後ろ向きに歩く。
「大した距離じゃないよ。マスターなんて毎週買い出しに行ってるでしょ。」
スガタの中に不満が蓄積していく。
タクトに対しても、変えられない状況に対しても。
「大丈夫だよスガタ、何も変わらないよ。」
「変わるだろ!こんな風に一緒に帰れない!」
その言葉が嬉しくて、タクトは目を細めて笑った。
そんなタクトがムカつくのと、愛しいのとで、タクトを強引に引き寄せて腕の中に押し込めた。
「わっ。」と悲鳴を声をあげて、だけどタクトは大人しくその腕の中に収まる。
「・・・・・・・マズいんじゃないの、こういう開けた場所で。」
タクト自身も、もう少しそのままで居たかったが、落ち着いた声で制した。
スガタの冷静な方の思考回路が「確かにマズいな。」と言っている。
もう一度強く抱きしめて、そっと体を離した。
タクトの隣を通り過ぎて、ゆったりと足を進める。
「結局何も変えられなかった。」
スガタが暗い声を出すと、タクトが勢いよくスガタの肩を掴んだ。
「そんなことないよ!」
そう言ってスガタの歩みを無理矢理止めた。
「もっと大事なもの手に入れたよ。」

白っぽい水色の空が、少しずつ青を濃くしている。
真剣に叱るような表情のタクトが、視線を逸らせて肩の力を抜いた。
「一人で本土へ行こうって決めた時より、今の方が全然いい。」
その時の妥協や諦めを思い出して、タクトがちょっと視線を落とした。
そして再びスガタに向かうと、まっすぐ見つめて強気に笑った。
「同じ転校でも、あの時とは全然違う。離れるのは寂しいけど、帰って来られる。」
希望を語るような、自信に満ちた眼差し。
スガタはそれを見つめ返す。
「しかもそれをスガタが、僕の為に無理を通してくれた!」
タクトが後ろ足を一歩引いて、弾むように距離を取ると嬉しそうに笑った。

「全然違う!むしろ良かった!進学できなくなって良かった!今は本気でそう思う!」
柔らかい逆光を背負い影になる。
両手を広げて微笑んだ。

「だってスガタが手に入った!」

タクトの広げた両手の後ろに、波の穏やかな地平線がどこまでも広がっている。
タクトが右の手の平をスガタにかざした。

「手を繋いで。」

手を繋ぐ差し出し方じゃないだろ。
とスガタは思いながら。
タクトに一歩歩み寄り、自らも手をかざして、それを掴み取るように握り返した。
その手をゆっくり下ろすと、自然と二人の距離が縮まった。

「全部ここにあるよ。」

答えが全部そこにある。
全部が繋いだ手の中にある。
「わかんないよ。」
スガタは不服そうなフリをして言った。
「わかれよ。」
タクトは気にせず笑った。
繋いだ手をタクトが引く。
前に進もうと促す。
西の空に、宵の明星が輝いている。

「ねえスガタ、僕今すっごく楽しいんだよ。」
タクトが空を仰いで言う。
「ちょっと離れちゃうけど、それも勉強だって今は思える。一ヶ月前は、全部と決別しなきゃいけないような気がしてたのにさ。」
スガタは黙ってタクトを見つめた。
「おじさんが僕に言ったでしょ?僕は人に恵まれてるって、だから外に行くんだ。たくさんの人に会ってくる!」
遠足前の小学生みたいに、タクトがはしゃいでる。
「スガタの大それた夢を実現させたいから。スガタが諦めても僕が叶えられるように。」
確かにこの島に篭っていて、あんな大それたこと実現できない。
だからスガタも、もう不満そうにするのをやめた。
「諦めないよ、それにあれはただの目標だ。」
タクトが不思議そうに振り向いた。

「じゃあ夢は何?」
それでスガタはようやく、
手の平の中にあるものが何か分かった。

ああ。
確かにここにある。
もう全部手に入れた。


「タクト。」


それに憧れ、それに焦がれ、それに恋して、それに傷つき。
それを拒絶し、それを諦め、それを見守り、それを手離し。
それがスガタに訴え続けた。
それが何よりも輝いている。


「お前だよ。」


夢も未来も、ここにある。

「それ・・・・僕なんて答えたら良いの?」
真っ赤になってタクトが言った。
「じゃあもう二度と聞くなよ。」
「う・・・・。」
「言ってる方も恥ずかしいから。」
「あははは!」

スガタも可笑しくて笑った。
それでタクトは満足そうに、スガタに微笑んだ。

「ほら、大丈夫でしょう?」

タクトは暮れて行く海岸を背景に、首を傾いでスガタを覗く。

「ああ、もう大丈夫。行ってこい、待ってるから。」

その言葉を聞くと、晴れ晴れとして。
タクトが一番星を見上げた。

瞬くそれは眩しくて。

今だそれに焦がれてる。

今でもそれに憧れる。

スガタは瞳を細めた。




きらきら輝くそれを見つめて。


きらきら輝くそれに見とれて。




---fin---

スターゲイザー/タウバーンのない世界