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スターゲイザー/タウバーンのない世界

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かえらなくていいの?






1組一行はタクトに連れられ町の端へ来ていた。
その辺りは住宅のある場所からほど遠く、田畑と空き地が点々とあるだけだ。
人が住まうような場所ではない。
「あれだよ〜僕ん家。」
気付くとガラクタに囲まれ鬱蒼とした一体の中に、今にも崩れ落ちそうな木造の平屋があることに気付いた。
そしてそこからスガタが現れた。
「似合わねえ・・・。」
誰かがつぶやく。

女子3人、男子4人の総勢7名は、その家の中を見て愕然とした。
玄関から覗くだけでその家の全てが一望できる。
玄関を入るとすぐに年代物のキッチン。裸電球。
どっかから拾って来たようなダイニングテーブルの上に教材。
三人分のペットボトルがすでに開けられていて、床にはテーブルに起ききれなかった1リットルボトルが数本。買い物袋に入ったまま。
冷蔵庫も食器棚も、全て昭和の時代から使っているような風貌であり。同時に家庭を感じない小ささだった。
開けっ放しのふすまの向こう、扇風機だけがかろうじて真新しさがあるのだが、畳の色はすっかり褪せて、所々不自然に沈んでいる。
格子状の曇りガラスの引き戸は、テレビでしか見たことがない産物だ。
それすらも開け放たれて裏庭が見え、鬱蒼としたその向こうにさらに林があり、木々の合間からキラキラと光るの海が見えるのが開放的だった。
その家の中にかけられた、見覚えのある有名私立校の制服は、あまりに不釣合いに見えた。

「・・・・・・・・・。」
「あれ?みんなどうしたの?」
「ボロすぎて引いてるんだよ。」
スガタの言葉に一同がハッとする。
「いや!一人暮らしだと思わなくって。」
焦ってルリが言った。
中学は同じだったが、家庭事情のことなんてまったく知らなかったのだ。
「春までじいちゃんと住んでたんだけど、今は一人なんだ。」
しまった!とルリは思った。
全員が唯一の身よりである、祖父を亡くしたんだと悟った。

「家狭いし床腐ってるから、悪いけど庭から回ってもらっていい?」
タクトが明るく言うので、皆は気を取り直して「たくましいな〜タクト〜。」とか言いながら玄関から出る。
「ちょっと何人かこれ出すの手伝って〜。」
呼び止められて男子二人が、ダイニングの中の家具を出すのを手伝わされた。
家の脇を歩くと外付けの洗濯機が二台あって。どちらもオンボロだがどうやら片方は機能しているらしい。
同じ場所に洗濯竿があり、同級生が思った通りタクト個人のものしか干されていない。

「見てみて。」とワコが、洗濯物の間からみんなを招いた。
言われるままに洗濯機の中を覗き込むと、仔猫が3匹眠っていた。
「やぁ〜ん!」「かわいい〜〜!」と口々。
狭い洗濯機の中にはキレイなタオルが敷かれていて、はしごの様に垂れ下がったタオルがボロボロなのを見ると、コレでよじ上って外に出られることが知れた。
隣の洗濯機に飛び乗って、段々に降りられる様にガラクタが置かれている。
最終到着地点の側に、壊れた茶碗が餌箱代わりに置かれているのを見ると、猫が住み着いていることは明らかだった。
それらを視線で追っているうちに庭に出た。
家の中から見るよりずっと広く開放的。

「うわ!すげえこれ全部タクトが育ててるの!?」
鬱蒼として見えたのは、全てタクトが庭で育てている野菜だった。
筒抜けの家で、キッチンからタクトが「そうだよ〜。」と答える。
トマトや茄子、シソ、オクラ、家の屋根まで延びたゴーヤ。おそらくごちゃごちゃと雑草にように生えているのはハーブ類だろう。
野菜だけではない。見覚えのある蔦は朝顔。その向こうには向日葵。
大部分が花びらを、落としているのはチューリップ。
草花の間に点々と、空きの鉢植えとかスコップとか、小学校の時の工作らしい変なロボットの焼き物とか。
中には三つ揃いの物がいくつかあり、幼なじみのワコとスガタの小学校時代の作品だと予想がついた。
そして不釣合いにも家の反対側には野バラが、お手製の不格好なアーチに見事に咲き乱れている。よく見ると葡萄らしき蔦もある。
そのアーチの下で、先ほどの仔猫達の母親と思われる白っぽい猫がひなたぼっこしていた。

「なんだろう。不思議な空間だけど、素敵だねここ。」
いつの間にか縁側に立っていたタクトが、
「いい家でしょ。」
と笑った。
「さ、みんなタオル持って来たぁ?今日一日で床の張り替えしてもらうから頑張ってもらうよ!」
一同は一瞬間を置いて声を揃えた。

『床の張り替え!!!?』


信じられないことに。
午前から初めて夕方になる頃には、本当に床の張り替えは完成間近だった。
男子は普段やらない力仕事に妙に火がつき、職人技を習得し。
女子は片付けやら掃除やら、買い出しや食事の用意などなど甲斐甲斐しくこなした。
ともかく汚れてくたびれたのだが、子供だけでする大工仕事は秘密基地を作るみたいにわくわくした。
それもこれもスガタが綿密に下調べしておいた、セルフリフォームの地盤があってこそなのだが。5畳半の小さな畳の部屋は、簡単にフローリングに張り替えられた。
タクトは大きな部分は友人に任せ、すきま風の入る所や、雨漏りする所なんかを手慣れた様子で修復していた。
女子がカレーライスを作りはじめると、まるで林間学校のムード。
今日一日でカップルになってる者もいた。

この家は日没が長い。
林の向こうに夕日がキラキラと沈み、木々が格子のシルエットになる。
虫達が鳴き始めるとノスタルジックだった。
少年少女は誰ともなく無言になり、ぼんやりと日が沈むのを眺めていた。

『♪〜この風の向こうに〜たしかな輝きが〜あるはずさ〜♪』

一同が青春の一コマに浸るなか、不釣合いなデジタル音が響いた。
「あ、僕のケータイだ。」
「タクトくん・・・着うたスタードライバーなんだ・・・。」

「もしもーし、あ、じーちゃん?」

その声に、縁側に集まった一同は振り返った。
「うん!元気だよ!あー、和室の畳板張りにしちゃった。」
「タクトくん今『じーちゃん』って言った?!」
「言ったね、おじいちゃんからなんじゃない?」
ワコは平然と答える。
「え?タクトのじーちゃん、生きてるの?」
「生きてるよ。」
スガタがこれも平然と答える。
『生きてんのかよ!』
全員でつっこんで、心の中でほっとした。
ワコとスガタを残して、それぞれ帰る道々で、「楽しかったー。」とか「筋肉痛やべえ!」とか「あいつすげーなあ。」とか言い合って。
同級生の後ろ姿が小さくなって行く。

「二人もほんとありがとー!これで今年の台風はなんとかしのげそう!」
「いや、西側に壁作った方がいいと思うぞ。」
「そうだよ、あと台風の時は家に来なよ!」
「僕の家でもいいし。」
ホコリまみれの顔で笑う。
「暗くなって来たね。」
ワコは勝手知ったるようにタクトの机からキャンドルを持ち出し、三つ灯した。
それはワコの神社で大量に出る、ロウのカスから作り直したキャンドル。
「明日は日曜か〜。」
久しぶりに我が家が賑やかで、とても楽しかったので、暗くなってゆく島の端を尻目に、タクトは「帰らなくていいの?」が聞けないでいる。

いつしか暗闇の中、小さな灯りが優しく揺らめいていた。
思っていることは三人同じ。
もう少し、一緒にいよう。