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慈愛への旅路【CC大阪82 新刊サンプル】

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 大学からの帰り、池袋で少し寄り道をすることにした。新宿の臨也さんの部屋とそう変わらないような高級マンションに足を踏み入れ、部屋番号を思い出しながらインターホンを鳴らす。フロントの扉を開けてもらってからまた部屋の前で来訪を告げると、すぐに中からドアが開いた。

「帝人くん、ちょっと久しぶりかな、どうしたの?あ、とりあえず入ってよ、セルティもいるしさ」

 この部屋の主である新羅さんは、自宅にも関わらず相変わらず白衣にメガネという出で立ちで、もっと言えば3年前とほとんど変わらない外見で僕を出迎えてくれた。ここに来るといつも時間の流れを忘れる。自分がまるでまた高校生にでも戻ったかのような気になってしまう。セルティさんはともかく、この人まで見た目が変わらないっていうのはある意味すごい。実際ほんとうに年を取っていないんじゃないかって錯覚するほどだけど、この人は確か臨也さんと同窓生だったはずなので、今26かそこらだろう。年の話に言及すると話がややこしくなりそうなので止めておくことにする。部屋の中は無駄なものがなくすっきりと整理されていて、ふたりの、というよりはセルティさんかな、几帳面な性格が窺えた。

「セルティ、帝人くんが来てくれたよ」
『帝人?久しぶりだな、どうした。学校は終わったのか。もう大学が始まってだいぶ経つが、うまくやれているのか?』

 奥から出てきたセルティさんは、いつもと変わらない真っ黒のライダースーツ姿で、けれどヘルメットはかぶっていなかった。自宅にいるわけだから当然といえば当然か。首の部分から沁み出る黒い影が、霧のように揺らいで空気に溶けている。信頼してもらえている、懐にいれてもらっているんだというのが伝わってきて、それだけでなんとなくほっとした。池袋にも慣れて、また僕の周囲を平凡な日常が支配するようになっても、こうしてセルティさんの姿を見ればちゃんと非日常と繋がっているということを再確認できる。セルティさんには失礼かもしれないけど、これは僕の中でひとつの指標でもあった。
 矢継ぎ早に質問をPDAに入力するセルティさんを見て、「そんなにいっぺんに応えられないよ」と新羅さんが笑う。セルティさんがはっと気づいたように慌ててすまない、と打って示した。表情がわからなくても、照れていることが伝わってくる。新羅さんが「セルティは意外とわかりやすい」っていうのはこういうことかな。そのやりとりの微笑ましさに思わず僕まで笑ってしまった。

「でも、本当に珍しいね。大学に入ってからは忙しそうだったし、初めてじゃない?」
「あ、はい、今日も大学からの帰りで…。お二人にちょっと相談したいことがあって来たんです」

 肩を落とす僕にふたりは顔を見合わせ、ソファに促してくれた。正面に新羅さんが腰掛け、その間にセルティさんがお茶をいれてくれていた。

「それで、何かな?僕らで力になれることなら、喜んで話を聞こう」
「ありがとうございます。実はその、臨也さんの事で…」
「臨也の?それなら今はもう僕らより君のほうがよくわかってるんじゃないのかい」
「ええと、そういうことじゃないんです」

 僕はここ最近ずっと見る夢の話と、一緒に暮らすようになってからの臨也さんの変化を簡単に説明した。お茶を出してくれたセルティさんもそのまま新羅さんの隣に座って話を聞いてくれる。話が終わると素早くPDAに文字を打ち込んで僕に見せた。

『毎晩臨也の夢を見るなんて…、悪夢以外の何者でもないな。早急に新羅に精神安定剤と、よく眠れるように睡眠薬を手配してもらおう。あと眠れるようになるまでここに住ん…』
「…セルティ、君の気持ちは分かるけど、帝人くんは臨也とつきあっているんだよ?臨也の夢を見ることが悪夢ってことはないだろう。相談したいのはおそらくもっと別のことだよ」

 一緒に文字を見た新羅さんが苦笑まじりにたしなめると、セルティさんもはっと気がついたのか、すぐにまた『すまない』と打って僕に示した。軽くかぶりを振る。こういうところ、変わってないなあ。セルティさんは外見は格好よくみえるけど、実際中身はとても可愛い人で、世話好きで人情味溢れていて、実は誰よりも人間らしいと思う。僕が臨也さんと付き合うことを最後まで心配してたのもセルティさんだった。

「ふむ…、なるほど。たしかに夢っていうのは古くから願いや予兆の具現であるとか言われることもあるね。特にそんなに立て続けに同じ夢ばかりを見るなんて、ちょっと普通とは思えないな。かといって、過去の臨也が出てくるのなら予知夢ということも考えにくいし」
「ですよね…」
「僕も夢占いや夢分析について明るいわけじゃないからはっきりとしたことは言えない。だけど、ひとつ考えられるとすれば…、過去の臨也が未来の、つまり今の君に助けを求めてる…とかね」

 飽くまで例えばの話だよ、という新羅さんの言葉も耳に入らず、唐突に夢の内容が頭の中で再現される。透明な壁の向こうで臨也さんは必死に僕に何かを伝えようとしてた。臨也さんが誰かに助けを求めるなんて、らしくないって気もする。でも、何かを伝えたがっていると考えればわからないこともない。何かの暗示である可能性もある。『今』の僕がそれを知ることに意味があるなら、同じように『今』の臨也さんの異変にもそれが関係してるってことなんだろうか。とはいえ、過去ならそれを確認する方法もないけれど。そこまで自己完結して息を吐くと、意外にもそれを覆す一言が投げかけられた。

「…過去の臨也を知る方法。ないこともないよ」
「え!?」
『新羅!?まさか帝人を実験台にするつもりか!?よせ、あれはまだ未完成だろう!そうでなくともあんな信憑性のないモノ、使わせるわけにはいかない!』
「実験台ってわけじゃないさ。それに未完成なのは検証できてないからってだけだよ。帝人くんが望むなら、効果も試せて薬は完成。まさに一石二鳥…だろう?」
『そうだとしても、安全だという保証がない以上、使うことは許さないぞ!帝人に何かあったらどうするつもりだ!』
「でもこの方法じゃなきゃ帝人くんの求める答えは手に入らない。少なくとも現時点ではね。帝人くんに答えをあげられるのは僕でもセルティでもない、過去の臨也だけだ。やるかやらないか、それはは帝人くんが決めることなんだよ、セルティ」

 急にすごい剣幕で新羅さんに掴みかかったセルティさんを、いつもの飄々とした態度で新羅さんがたしなめている。PDAを打つ速度も早すぎて目で追えない僕に、新羅さんがセルティさんの肩越しに目配せしてきた。口を挟めってこと?

「あ、あの。どういう意味ですか?何の話を…」
「ああ、僕が作ったタイムトラベルの薬の話だよ」
『新羅!』
「タイム…トラベル?」

 ようやく解放されたとばかりに新羅さんが答えてくるが、今度は眉間に皺を寄せるのは僕の方。いくら非日常を好む僕でも、空想世界にのめり込んでいるわけじゃない。僕が求めているのは飽くまで日常の中に現れる非日常。現実とファンタジーの世界の区別くらいはしてるつもりだ。いきなりタイムトラベルだなんて言われてもその言葉自体が眉唾もので、信じる信じない以前の問題だった。