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days of heaven

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 返事がない。見上げると男の子はもうジェームズを見ていなかった。まるで誰もいないかのように目を閉じている。血の気のない顔に黒い髪がかかっていた。
 変なやつ。
「ジェームズ、どうした?」
 シリウスがザクザクと雪を踏み分けて近づいて来た。
「誰かいる」
 上、上とジェームズは指差した。
「誰だ、あいつ」
「知らない。これくれるってさ」
 赤い小さな袋を差し出すとシリウスは中を見た。ころんとした丸い粒が4個入っている。手のひらに出してみると茶色い。
「なんだ、これ」
「さあ」
 2人は顔を見合わせて首をかしげた。
 おい、とシリウスが男の子に声をかけても知らん顔だ。目を開けもしないがワンテンポ遅れて口を開いた。
「薬草。絶対寝込まない」
 そう言うと、ジェームズとシリウスがその後どんなに声をかけてもウンともスンとも言わなくなった。普段なら木に登っているだろうシリウスも今はそんな気にもならないのか肩をすくめるだけだ。
「ほっとこうぜ」
 さっさとホグワーツに向けて歩き出した。ジェームズもこれ以上他人にかまう気はない。最後に一度木を見上げ「じゃあな」と言って背を向けた。思ったとおり返事はなく、この後どうするのだろうと不思議だった。そして、いつからいたんだろう。指先が赤く、顔色が良くなかったことを思えば随分前からいたのは間違いない。雪の上に足跡もなかった。何をしていたんだ。そもそも誰だ。
 寒い、寒いと言いながらシリウスが雪を蹴散らして歩いている。
「シリウス、下級生にあんなのいたか?」
「リーマスにココアをいれてもらおう」
「なんであんな木の上にいるんだろうな」
「とびっきり熱いのがいい」
「この粒、飲んでも大丈夫だと思うか?」
 まったく別のことを話している2人だが互いの言いたいことはわかっている。
「シリウス、リーマスのココアを飲もう。今なら舌を火傷してもいい気分だ」
「薬草だって言ってたろ。それにあいつ、下級生じゃない」
「知ってるのか?」
「思い出した。あいつ、同学年だぜ。あのルシウスと時々立ち話をしてるスリザリンのやつだ。けったくそ悪い」
 シリウスの口の悪さはジェームズを上回る。リーマスが時々諌めているが効き目はない。
 しかし、あのルシウスと同類だとするとジェームズも顔をしかめざるを得ない。最上級生のルシウス・マルフォイについてはシリウスとまったく同じ意見だ。曰く、『けったくそ悪い』。
 神経質そうな細面に陰険なグレーの目。誰も彼も見下すような目つきをしていた。金髪はクリーム色のようで綺麗に櫛がいれられているがパサついており、声は低くいつも高慢さを滲ませていた。顎を上げて話す姿が相手を不愉快にさせる。
 そして2人が我慢ならないと思うのが純血を誇り、家格が高いことを背景にした下級生への陰湿な嫌がらせだ。正々堂々とやるのならこちらも正々堂々と抗議してやるが、目つき、口調、表情などを使い、人の弱点をついてくる巧妙さは本人以外の人間に嫌がらせと気づかせない。声を荒げるわけでも、乱暴するわけでもないやり方は教師の目さえ欺き、薄々はおかしいと思われながらも特に注意人物と認識されてはいないようだった。
「ろくなやつじゃないな」とジェームスは小さい子供のような、先ほどの少年を思い出して言った。違和感がするのは無気力そうだったせいか、気が弱そうな雰囲気だったせいか。
「ルシウスのような純血第一主義者がいる限り、スリザリンは良くならない」
「でもルシウスは来年卒業だろう?」
「そのとりまきがいる。馬鹿なやつがどんなときでもいなくならないのはなんでなんだろうな。血がなんだっていうんだ。金色の血でも流れてるっていうのか? 馬鹿馬鹿しい」
 シリウスは雪を思いっきり蹴っ飛ばした。
「さっきの子も純血か?」
「あれは違う。あんなの見たことないからな」
 シリウスが『由緒正しい』と皮肉るブラック家は格式高く、純血の名家として魔法界に認知されている。にっくきマルフォイ家より家格は上だ。
 家庭内事情はどうであれ、その名家の御曹司であるシリウスは否応なく純血社交界にデビューさせられていた。もっともその社交界から、現在では逃げ回っているようだが。そのシリウスが見たことがないと言うからには純血ではないのだろう。
「でもあのルシウスが度々口をきいてるってことは相当気に入られているんだな。まったくもってろくなやつじゃない」
 シリウスは吐き捨てるように言った。まさにルシウスのようなずる賢い高慢な男がシリウスは大嫌いだった。
「そのろくなやつじゃないのがくれたこの『薬草』はどうする? 絶対寝込まないって言ってたのがひっかかるけど」
「捨てろ捨てろ。そんな怪しげな薬、腹をくだすに決まってる」
「でも2人揃って寝込むわけにはいかない。わかるだろ?」
「寝込むとも決まってない」
「寝込むって。僕はすでに背中がゾクゾクしてるんだ。シリウスだって似たようなもんだろう?」
 シリウスがチッと盛大に舌打ちしたのは反論できないためだろう。顔色が悪い。
「こうしないか?」
 ポケットに入れた赤い袋を触りながらジェームズは提案した。
「僕が薬草を飲む。治ったらラッキーだし、治らなくても他力本願だからな、仕方ない。2人とも寝込んだ場合は高熱かかえてリーマスの相手をしよう。それくらいたいしたことないだろう?」
「どっちにしても俺が寝込むことは決定なんだな」
「奇跡的に熱が出なければ問題ない」
「それは無理だ。俺だってさっきから身体の震えが止まらないんだから」
 仕方ないな、と肩をすくめたジェームズは考えてみれば誰ともわからない男の子から渡された本当かどうかも不明な『薬草』を口に放り込み、足元の雪を水代わりにして飲み込んだ。
「腹、くだすなよ」
「さあ。どうなることやら。汚物まみれで帰るのも悪くない」
「俺が嫌だ」
「マクゴナガルは気にするだろうな。生徒がクソまみれで帰ってきたら」
「俺たちが寝込むことも承知で極寒の雪の中に放り出す教師だぜ? 熱に糞がプラスされたからって気にするような玉かよ」 
 それもそうだ、とジェームズは答えて、来週行われる魔法史テストの山をかけあった。
 睡眠時間と豪語してはばからない魔法史の授業をシリウスはこれっぽちも聞いていない。ノートもまっ白で、きまぐれにしかノートを取らないジェームズよりひどい。それでもテスト前にサラッと教科書を読み要点を掴むため、テストではだいたい真ん中より上に位置している。魔法史が足をひっぱっても、総合順位は10位以下に落ちたことはない。頭の出来が良く加えて要領もいいが先生との相性は最悪だ。
 話をしている間にも冬の冷たい北風で2人の身体は冷え切り、雪水を吸った靴の中で足は凍えきっていた。シリウスが何度か派手にくしゃみをした。
 ようやく2人が学校の正門にたどりついたのは4時を過ぎた頃で、玄関でリーマスとピーターが心配そうな顔をして立っていた。
「あいつらもヒマだな」
 シリウスは駆けてくるピーターを見ながら憎まれ口をたたいた。眉を寄せているだろうリーマスは体をすっぽり覆えるくらいの毛布を手にしている。
「ジェームズ、もう1つ思い出した」
「何だよ」
作品名:days of heaven 作家名:かける