二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

days of heaven

INDEX|17ページ/19ページ|

次のページ前のページ
 

 ジェームズが見下ろすのがわかったが、スネイプは太陽から目を離さなかった。身体が震えたのに気づいたのか、ジェームズが手を強く握った。緊張していた。
「どうして僕を好きだと言ったの?」
 前に向き直ったジェームズは微動だにせず、痛いほどの沈黙があたりを包み込んでいく。2人は昇っていく太陽を見ていた。繋いだ手が温かい。それだけが支えだ。
「誤解しないで最後まで聞いてくれるかい?」
 静かなジェームズの声にスネイプは頷いた。知りたい反面、聞くのは怖い。でもジェームズのことなら良いことも悪いことも知っていたかった。どんなことを聞いても、うつむくことはせずまっすぐ前を見ていようと思った。
「僕は4年生までセブルスのことを知らなかったんだよ。不思議だよね、寮が違うってだけで同じ学年なのにさ。今僕らがこうやって同じ朝日を見てるのはいろんな必然が組み合わさった結果なんだろうなぁ」
 感慨深げに言うジェームズはうっすらと微笑んでいた。
 ときおり木の葉に積もった雪を巻き上げるほどの風が吹くが寒さを感じる余裕はない。ジェームズの言葉に耳を傾けるだけだ。
「僕らは知り合うのが遅くてこうなるまでに遠回りしたけど、僕は別々の寮で良かったって思っているんだ」
 その理由を問いたかったが、スネイプは我慢した。
「あれは何月だったかな、大雪が降ったときだったから11月か12月かな。毎度のごとく、僕とシリウスはマクゴナガルに怒られるようなことをしでかして、この湖までふっ飛ばされたんだ。びしょ濡れでさ。すっごく寒い日だったよ。風邪ひくなってシリウスと話していたら、セブルスがあの大きな木の上にいてさ、薬をくれたんだ。覚えてる?」
 スネイプは黙っていた。全く覚えていない。誰も自分に興味を持っていなかったが、自分だって誰にも興味を持っていなかった。世界は真っ暗だったし、絶えずどこかが痛かった。
「あの日からずっと見ていたよ。最初は可哀想だなと思った。ひどい話、勝手に同情していたんだ。セブルスはルシウスとしか話をしていなかったし、いつも一人ぼっちだった」
 ジェームズの声は穏やかで、優しく耳に届く。
「僕はルシウスが嫌いで、口をきくなと言いたかった。でもそんなことを言ったところで、セブルスの立場が余計悪くなることはわかっていたから何も言えなかった。僕はグリフィンドールだし、いつもセブルスの傍にいることはできないからね」
「ルシウスは評判が悪かったけど僕は嫌いじゃないよ」
 反論はあっただろうが、ジェームズは肩をすくめただけだった。
 かばうようなことを言ってしまったのは、ルシウスがいたことによって確かに救われた部分があったからだ。皆から無視はされたが、むやみに叩かれたり、足をひっかけられたりすることはなくなった。それにルシウスが話すのは他愛のないことばかりで、鼻をグズつかせた時には『腹を出して寝るからだ』とあの顔で言った。
「僕は楽しく過ごしていたけど、なんでかな、セブルスのことを考えると哀しくなるんだ。僕だっておセンチな年頃なのさ。特に夜は駄目だったな、課題をやっていてもセブルスは何をしてるのかなと思うといても立ってもいられない気分になって、翌朝、必ず朝食の席でセブルスを探すんだ。セブルスはさ、顔色が良くなくて、朝食も少ししか食べてなくてヒヤヒヤしたな。同じ寮だったらマフィンを口に突っ込んでやるのにって思った」
 本当にやっていそうで、スネイプはふふっと笑った。
「最初はそんな感じだったよ。一人ぼっちだったり、ルシウスにかまわれたりするのが気にくわなくて見てた。そうするとさ、いろんなことに気づくんだ。ブラウニーだけはすぐ食べちゃうこととか、食事の後、食堂の椅子をみんなの分までテーブルの中に押し込んでることとか、水浸しになってた手洗い場の床をモップで拭いていたこととか。校内は魔法がかかってるから、時間がくれば勝手に綺麗になるだろう? それを知っていながら椅子を直したり、掃除したりするセブルスが眩しかったよ。汚すだけ汚して、あとは知らんぷりって奴らも多かったからね。僕は日に日に興味がわいて、日記にセブルスのことばかり書いたな。まるで、セブルスの観察日誌みたいだった」
 ジェームズの視線を感じ始めたのは4年生の春だ。その数ヶ月前に出会い、見られていたとは知らなかった。覚えておきたいようなこともなく、今も記憶はぼんやりしている。
「寮が違うとなかなか姿も見られなくてがっかりした。とはいえ、同じ寮だったらいつでも会いたいときに会いに行けるから、考えるより先に行動してしまう僕は訳もわからず突っ走ってただろうな。寮が違って良かった。のぼせた頭を冷やすには十分な距離だから」
 スリザリン生に僕はびっくりするほど嫌われているからね、近づきもできなかったさ、とジェームズは肩を竦めた。
「僕は見つめているうちにセブルスがとても傷ついていて、人生を諦めていることに気づいた。だから随分と考えたよ。どうしたら目を輝かせて笑ってくれるだろう、僕は何ができるだろうってね。セブルスのために何かしたくてたまらなかった。誰でもない『僕が』したかったんだ」
 力強い声でジェームズは言った。
「自分のしたことで誰かが笑ってくれるなんて素敵だと思わないかい? 僕はみんなを楽しませることが好きだけど、それはみんなが楽しんでくれると僕も楽しいからさ。僕はセブルスに対しても同じだと思ってた。でもそれは違った。僕にだけ笑って欲しかったんだ。今でもそうさ」
 心が狭いんだよ、と言って笑ったジェームズの声は楽しそうで、自分の心をさらけ出すことに抵抗は感じていないようだった。
「僕はなるべく何も決めないことにしていた。僕はセブルスに考えて欲しかったんだ。ふくろう部屋に行くか行かないか、オレンジかブラウニーか、変身学のテスト勉強をするかしないか、僕と過ごすか過ごさないかということも含めて全部ね。たぶん力で言うことを聞かすことはできたんだと思う。セブルスは強要されることに慣れているみたいだったから。でもそんなことはしたくなかった。何より僕がセブルスのことを好きだからといってセブルスが僕を好きになる義務はないってずっと思っていた」
 スネイプは驚いてジェームズを見上げた。優しい蒼い目が見下ろしていた。
「セブルスの心はセブルスのものさ。誰かがどうこうできるものでもないだろう? でも好きになってもらうよう努力するのは僕の勝手さ・・・って言ってもたいして努力してないんだ。僕がしたいことをしただけ。セブルスが笑ってくれるように」
 まぁちょっとはカッコつけたけどね、とジェームズは軽く片目をつぶってみせた。
 ジェームズ、と呼びかけた声はみっともないほど掠れていた。ジェームの独占欲が嬉しかった。
「うん」
「僕を好きになってくれて、ありがとう」
 たくさんの中から僕を見つけて、こんなに大きな心で見守っていてくれてありがとう。
 暗闇ばかりの人生に光をくれた。心に感情をくれた。人を信じる気持ちをくれた。
作品名:days of heaven 作家名:かける