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days of heaven

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 僕には伝える術がない。『ありがとう』以上に感謝しているのに。でも、だからといって感激に黙っていては伝わらない。一言でも言葉にすることがどんなに大切なことなのかジェームズが身をもって教えてくれた。
「嬉しい。本当にありがとう」
 僕は決めたよ。明るい世界に導き自由にしてくれたジェームズの前ではどんなときでも笑っていよう。それがジェームズの願いなら。でもジェームズには内緒だ。これは僕が僕に誓ったことだから
「どういたしまして。セブルスもありがとう、僕を好きになってくれて」
 スネイプは意識して笑顔をつくって言った。
「どういたしまして」
 少しぎこちなかったが気持ちは伝わったと思う。今は照れくさいけどちょっと泣きそうで、笑うには努力が必要だっただけ。
 昇りきった朝日がまぶしくてスネイプは目を細めたかったが、目尻にたまった涙が流れ落ちそうでそれを必死に我慢した。

「ところで、今日は何の日だー」とジェームズは繋いだ手を振り回して、いらずらっぽく言った。突然カラリとした調子で言われて、スネイプは面食らった。
「え、うん。あー、何だろう。日曜日」
「それは単なる曜日だろう? もっと特別な日なんだけど」
 ほら、一年に1回あるだろ? とジェームズは楽しそうだ。
「ごめん、わかんない」
「もっとちゃんと考えて」
「ほんとに思いつかないんだ。だってクリスマスは終わったし、年も明けたし、12夜も過ぎたでしょ」
「ヒント。マダム・ホイップのー、空飛ぶー、ふわふわ?」
「バースデイ」
「そ、バースデイ」
「ケーキはもう食べたくないってこと?」
「ちっがーう。特別な日って言っただろ?」
「え、あっ! ジェームズ、誕生日なの?!」
「それ本気で言ってる? 今日はセブルスの誕生日だろ? 1月9日」
 少々呆れたような口調のジェームズと目を見張ったスネイプは見つめ合う。
「・・・・・・」
「あれ、違った? いや、違ってないよね? なんで黙るの」
「・・・忘れてた」
「えぇー」
「何歳になるんだっけ」
「ちょっと、ちょっと、スネイプさん。ボケたじいさんみたいなこと言うなよ。これから僕らは百年一緒にいる予定なんだよ? 16歳でこれじゃ、60歳になった頃には僕らの出会いからずっと説明しなきゃいけないんじゃないか?」
 それには1日あっても足りないよ、とジェームズは軽く言って、スネイプを抱き寄せた。
 ジェームズの肩に顎をのせると体の力が抜ける。勝手にリラックスするらしい自分の身体は見習いたいほど正直だ。触れ合っている胸元がほんのり暖かい。ジェームズは横髪を耳にかけるようにスネイプの髪を撫でていて、ときおり耳に当たる指を意識した。気持ちよくて瞳を閉じるとジェームズの匂いが体を包む。
「ばかだな」
 耳元で聞こえた声は優しく笑っていた。吐息だけが揺れる。スネイプが一番好きな笑い方だった。
「自分が生まれた日を忘れるなんて」
 ジェームズがぎゅっと抱きしめると、腕の中の身体は柔らかくしなった。はぁ、と小さなため息が耳をなぶる。可愛いな、愛しいなと気持ちが優しくなる。
 腕の力を緩めると、そっと離れたスネイプは視線を合わせようとしない。耳たぶが赤い。
 かたくなに湖だけを見て、照れていることを隠している。
 無駄なのに。
 ジェームズは口元を緩めながら、コートのポケットをゴソゴソと探った。それからスネイプの手を取り、小さな小さな箱を握らせた。
「なに?」
 手の平の白い小さな箱は真っ赤なリボンで結ばれていて、まるで贈り物のようだった。
「プレゼントみたいだろう?」
 得意気なジェームズに軽くうなずく。
「そう、プレゼントなんだよ」
「え?」
「やっぱり。なんでそんなに驚くんだよ。誕生日なんて年に1度しかないんだ、生まれたんだぞ、どうだって、もっと偉そうにしらいいのに」
 スネイプは白い小箱を手の中でコロコロと左右に転がした。
 誕生日にプレゼント。・・・クリスマスにプレゼント。なんでもない日にも気持ちが届く。
「あけてみてよ」
 蒼い目がまっすぐに自分を見ていて、スネイプはふいに、あぁ、好きだなと思う。心がだんだん大きくなって、身体からふわふわと飛んで行ってしまうのではないかと思った。
 小さなリボンをほどき、箱を開けると飾りひとつついていない銀の鎖が白い綿に包まれて入っていた。
「これ」
 困惑しつつジェームズを見ると、困ったように眉間にシワを寄せたが、それがワザとだってことはわかっている。
「駄目? こういうの嫌いって知ってるけどして欲しいんだ」
「なんで? 嫌い?」
「シリウスがジャラジャラつけてるの、嫌そうに見てるだろう?」
「魔術師みたいだなって見てるだけだよ」
「確かにな。強そうだけど悪そうなんだよな」
 でもあいつにも弱点くらいあるんだぜ、とジェームズは人の悪そうな顔で笑ったが、たぶんジェームズも弱点は握られてるんだろうなぁとスネイプは思う。あったらの話だけど。
「人のこと言えないよ。ダンブルドアの髭をみつあみにするなんて、どうやったらできるわけ」
 それは秘密、と言いながらジェームズはスネイプの赤いマフラーを取り、自分の首にかける。それからダッフルコートのボタンを2つ外した。
「ねぇ、ネックレスをかして」
 箱ごと素直に差し出すと「今だけでもいいから」と言ってスネイプの首の後ろでホックを留めた。
 両肩を掴み、できる限り腕を伸ばして右から左から正面から、銀の鎖が光るスネイプの首元を眺める。
「よく似合う。やっぱり俺の見立ては完璧だ」
「よく言うよ」
 憎まれ口をたたいたスネイプにジェームズは高らかに笑いかけると、ぎゅっとスネイプを抱きしめた。
「本当に良く似合ってる。このまま押し倒したいくらい」
「今日、おかしいよ」
 呆れた口調とは裏腹にスネイプの手はジェームズの背中にまわり、そろそろと背中を撫でていた。
「おかしくなっているのは間違いない」
 きっぱりと断言したジェームズは自分より少し背の低いスネイプの耳元に「好きだよ」と熱く囁いた。何度言っても恥ずかしがるスネイプは、やっぱり今も恥ずかしがって、腕の中でモゾリと動く。それでも少しだけ恥ずかしさをこらえることを覚えたらしく「知ってる」と小さな声が聞こえた。
「うん、覚えていて、ずっと。僕がセブルスを大好きだってこと」
 どうしてこんなに素直に正直に潔く心をさらけだせるんだろう。こういうとき、スネイプはかなわないと思う。気持ちが負けている。
 こんなに素敵な人が僕を好きと言う。人生最大のプレゼントだ。自分にはもったいないほど上等だ。でも誰にもあげない。譲らない。
 スネイプは恥ずかしいと心が訴えるのを無視して、ジェームズの耳に2、3度そっと鼻を擦り付けた。それだけできっとわかってくれる。優秀な恋人はすぐに理解する。自分が120%頑張って答えたことを。
 思った通り、ジェームズは喉の奥でくつくつと笑った。ジェームズの身体が緩やかに震えてスネイプに伝わる。
「小鳥みたいだな」
 優しく髪を撫でる指に目を閉じた。耳元で囁く男の声が優しく心を愛撫する。少しづつ心が身体が軽くなっていく。
「生まれてきてくれて嬉しいよ」
作品名:days of heaven 作家名:かける