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玉木 たまえ
玉木 たまえ
novelistID. 21386
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夏は暑いですから

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「お、タカヤ起きた! お前もやる?」
 そう言って榛名が掲げて見せたものは、手のひらに収まるくらいの小さなボトルだった。プラスチックの容器を通して、中の液体が青く揺れて見える。この時期はちょくちょくお世話になる、虫刺され薬だった。
「蚊にでも食われたんですか」
 阿部の問いに、榛名は目を細くして、実に楽しそうな様子で笑った。榛名は笑うと釣り目がちの目じりがきゅっとあがって、猫だか狐だかのように見える。
「タカヤ、腕出せ」
「は? 俺はどこも痒くないんですけど」
「いーから!」
 早くしろよ、ほらほら、と瞳を輝かせる榛名に、阿部は腰が引けたが、最後には言う通りにした。暑くて逆らう気力が萎えている。
 右腕を榛名に向かって突き出すと、嬉しげに右手で掴み、それから榛名は阿部の手首からひじにかけてのあたりに虫刺され薬を塗りつけた。
「……なんか冷たいんすけど」
「おー、クールって書いてあるやつだからな。きもちーだろ?」
「……まあ」
 液体が塗布された部分がひんやりとしている。本来の使い方とはほど遠いが、ほんの少し、心持ち程度に、涼しさを感じられた気がする。
「で、これのどこがそんなに面白いんですか」
「面白えのは、こっから」
 そう言うなり、榛名は阿部の右腕をぐいと扇風機の前まで引っ張った。風量「強」に設定された風が吹き付ける。
「なっ、つ、つめてえ!」
 思わず阿部が叫び声を上げると、榛名はげらげらと腹をかかえて笑い出した。強い風にさらされて、薬を塗られた部分が先ほどの非ではないほど冷たく感じられる。
「な! なんか知らねーけど、笑えるだろ」
「笑えねーよ! ちょっと、マジ寒いって! 離せよ!」
 散々暴れてようやく解放された阿部は、だらだらと汗をかきながら扇風機から離れた。一人で何をしていたかと思えば、こんな馬鹿なことをしていたのか、この人は。
 呆れる阿部をよそに、榛名は扇風機の風を独占しながらのんきな声を上げた。
「タカヤ、こっち来ねーの? そこ暑いだろ」
 扇風機のファンに向かってしゃべるので、声が変な風に震えている。それが面白かったのか、こんどはあー、だのわー、だの、俺の名前は榛名元希です、だのと扇風機に話しかけている。その姿はまるきり小学生だった。
「なー、こっち来いって」
「……やです」
「でも、お前超汗かいてんじゃん」
 誰のせいですか、と阿部は言いたかった。暑いのに寒くて冷たくて、やっぱり暑くて汗だくで、理不尽としかいいようがない。
 榛名はしばらく阿部を横目で見ていたが、不意に、にっと笑うと腰を上げて近づいてきた。
「俺が涼しくしてやる」
 あんまり嬉しそうに笑うので、阿部は思わず見惚れてしまっていた。榛名の笑顔というものは、おかしなくらい阿部の心に直接届いてしまう。
 だから、この時も反応が遅れた。我に返った時、阿部は床に押し倒されており、榛名の大きくて熱い右手が阿部の両手を拘束していた。顔も体も近すぎて、熱い。すぐそばに迫った体から、触れてもいないのに体温が伝播してくる。
 榛名が本気で力を入れている訳ではないのは手首に感じる圧迫感から分かった。榛名は遊びたいのだ。この年上の男がこうしてふざけて絡んでくるのはそう珍しくもないことで、阿部は、またかよ、と思っただけだった。
 榛名の左腕が動き、半袖のシャツの袖からのぞいた阿部の二の腕を冷たい感覚が滑った。こりもせずに、榛名は先ほどと同じことを繰り返そうとしている。
「それ、つまんねえんですけど」
 うんざりした調子も隠そうとせず阿部がそう言っても、榛名の手は止まらなかった。
「オイ、いい加減にしてくだ……」
 続きの言葉は短い叫びに変わった。榛名が、阿部の腕に息を吹きかけたからだ。薬を塗られた部分に息がかかり、瞬間感じた冷たさに体がびくりと跳ねる。
「な? 涼しいだろ」
 榛名はそう笑って、息を吹きかけるけれども、阿部は涼しさを感じるどころではない。榛名の熱い体から吐き出された、榛名の熱い息。榛名の口内で湿り気を含んで吐き出された息。それが触れて、熱くて冷たくて、どうかしてしまいそうだ。
「タカヤ。首んとこ、すっげー汗かいてる」
 べろりと、暖かな舌が阿部の首筋を舐め上げた。ざらつく感触には覚えがある。その記憶は、阿部にとってはセックスに直結していて、目の前がさあっと色づくように思われた。
 つい先ほどまではいつものおふざけの延長だったというのに、途端に周りの空気が変わったように感じられて、阿部は気持ちがついていかなくて混乱する。
 昼の健全な日の光を遮るように、榛名が覆い被さっていた。自分の上に榛名の影が落ちているのだ、と考えると、体がおかしな風になってしまうのを阿部は感じた。榛名の影に体を舐められている。
 ほとんどセックスをはじめよう、という体勢で、榛名は場違いに無邪気な笑顔を浮かべていた。阿部をおかしくしておいて、榛名には色の気配はこれっぽちもないというのが性質が悪い。まるで子どもが新しいおもちゃを与えられて、あれもこれもと夢中で試したがっている時の顔だった。左手が動き、阿部の首筋に薬が塗られる。
「な、タカヤ。涼しい?」
「……うっせえ、人で遊んでんじゃねえよ」
 阿部は目に力をこめて榛名を睨んだ。こんな馬鹿馬鹿しい遊びには付き合っていられない。とにかくこの体勢から逃れようと、榛名のわき腹あたりを狙って足を振り上げたが、その足も難なく掴まれてしまう。
「んー、まだ涼しくなんねえか」
 それならとばかりに榛名が次に狙ったのが、たった今掴んだ阿部の足の付け根の部分だった。下着の裾が見えるあたりまでハーフパンツを捲り上げてから、内腿のあたりに薬を塗りつける。
「ばっ……!」
 バカ、やめろ、と言うはずだった阿部の口は、次の瞬間大きく息を呑んだ。榛名が阿部の足を担ぐようにして持ち上げて、ほとんど阿部の股間に顔をうずめる体勢になったからだ。はあっと吐かれた息が太腿の敏感な部分を撫であげる。思わずびくりと体を震わせた拍子に、股間を相手の顔に押し付ける形になって阿部は動揺した。丁度性器のあたりに当たった榛名の額を通して、相手の笑いの振動が伝わってくる。
 両手の拘束がいつの間にかとかれていることに気がついた阿部は、榛名の髪をひっつかんだ。
「いてーって!何すんだよ!」
「あんたがアホなことするからだろ!」
「アホじゃねーよ!涼しくしてやってんだろ!」
「あんたのは俺で遊びたいだけでしょうが!」
 そこまで叫んだところで、阿部は自分の股間に向かって怒鳴り合うという状況の間抜けさに脱力した。榛名といると、どうも締まらない。相手のパワーに引きずられるようにして、馬鹿なことばかりしてしまっている気がする。
「だって、タカヤ遊んでくんねえし」
「そりゃ遊びに来たわけじゃないですから」
 そっけなくそう答えると、榛名は少しふてくされた顔をした。
「べんきょーはタカヤがいなくてもできっけど、タカヤと遊ぶのはタカヤがいる時じゃないとダメじゃん。だったらそっちしたいって思って当然だろ」
「なら最初から素直に遊びに来いって言ってください」
「そー言ったら来ねえんだろ」
作品名:夏は暑いですから 作家名:玉木 たまえ