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UNITE

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 目玉焼きが出来るまで、オタコンはネットでニュースを見ることにした。ここのところ話題になるニュースは、戦争経済が暴落したことによって巻き起こっている不況に関するものばかりだ。あの日から数週間が経ち、社会の混乱は静かな波紋ではあるが徐々に世界に広がり始めていた。仕方のないことだろう。この国をずっと陰で操ってきた糸がぷっつりと切れてしまったのだから。
その糸を切ることに自分たちは加担したけれど、それが結果としてよい方向に転んでいるのかそれとも悪い方に向かっているのか、オタコンにはわからない。誰かにとっての喜びが他の大勢の危機になりえるということをオタコンは九年前に思い知っている。今回のことだってグリーンカラー達にとっては恨むべき出来事のはずだ。事実はいつも他者によって批評される。この事件の意味はきっと歴史になって初めてきちんと評価されるのだ。
だからこそ、今を生きている人間として、自分たちはひとつひとつ地道に問題に当たっていくしかないのだろう。自分に出来ることを自分が出来るやり方でやっていくしかないのだろう。
 トップニュースをざっと読み終わり、オタコンは次に事件欄を開ける。スネークのことが小さな記事にでもなっていないか、それを探すためだ。
 あのタンカー事件でスネークは一度『死んで』いる。社会的には彼は存在しない人間だ。だから埋葬は自分にさせてくれとオタオンはスネークに頼んだのだ。
だがこれもスネークに拒否されてしまった。誰も知らない存在、「ジョン・ドゥ」として最期を迎えたいというのが彼の望んだ死に方だった。僕は弔わせても貰えないのか、とオタコンが半ば詰るように言ってもスネークは小さくすまないと呟くだけだった。そう言った彼の目は本当に申し訳なさそうで、それでいて誰の意見も寄せ付けない頑固さが滲んでいた。オタコンには二の句が継げられなかった。
『君はわかってない、君は僕に君を忘れさせるためにそう言ったのかもしれないけど、これは逆効果だ。こんなことじゃ僕は君を忘れられないじゃないか。』
胸の中で叫んだ言葉。それをオタコンはただ噛み締めるのみだった。スネークはもう既に自分が何を言っても聞くような状態じゃないことがわかっていたからだ。
 でも、せめて彼がどうなったかを確かめたい。たった一文でもいい。それが憶測にすぎなくてもいい。最悪別人のことだって構わないのだ。気持ちの決着をつけるために、ピリオドを迎えるためにそれが必要だった。スネークが与えてくれないなら、自分自身で最後の一撃を作り出すより他にない。
 オタコンはほんの小さな記事まで丹念に調べた。一般紙から地方紙のサイトまで隈なく見て回る。眼鏡の奥の目を細めて、見落としが無いかどうか何度も何度も同じ場所を読み返した。スネークが最期に選ぶであろう場所には凡そ見当がついている。
 しかし、いくら探してもその場所に関する記事が見つかることはなかった。五回も念入りに読み返したページを閉じながら、深く長い溜め息を吐く。
 本当はわかっている。スネークはただの名無しの自殺者だ。そんなものに興味を持つ者はいない。だから、紙面と時間を割くはずもない。伝えるべきニュースは他に山ほどあるのだ。
 それでも、とどめを与えられなかった感情が身体の中でのた打ち回る。オタコンは眼鏡を外し、眉間を強く指で押さえた。
「スネーク、君は本当に」
ひどい奴だ、そう続けようとしたその時、カツカツと金属の響く音が聞こえ、オタコンは言葉を飲み込んだ。
「できたよ、ハル兄さん」
オタコンはサニーの灰色の瞳に気取られてしまわないようにさりげなく目尻を擦り、声のした方へ振り返った。

「すごい、綺麗に焼けたじゃないか」
サニーが持ってきた皿の上にはふたつの黄色い太陽が乗っている。それを見てオタコンが感嘆の声を上げると彼女は嬉しそうにはにかんで皿とフォークを何もない机の上にセッティングする。
「どうぞ」
小さなシェフに促されるままベンチに座り、注がれる熱い視線に苦笑しながら白身を切り分ける。ひとくちを口に運び終えると間髪を入れずに、美味しい? と聞いてくる。その不安げな表情の方に向き直り、オタコンは目尻を下げて言った。
「うん、うまいよ、よくできてる」
さっきまで曇っていた顔がぱあっと明るく輝く。
お世辞でなく、実際にサニーの目玉焼きはどんどんうまくなっていた。昨日よりも今日、今日よりも明日。最初の頃は黄身が無残に潰れていたり端っこが焦げていたりして一皿食べ終えるのに苦労したものだった。スネークはいつも何かと理由をつけて逃げていたっけ。他愛のない追想にオタコンは小さく息だけで笑い、同時にもうスネークはサニーの料理を、たとえどんなに上手くなったとしても、食べることはないのだという至極当たり前のことを実感してひどく胸が締め付けられる思いがした。
 そんなオタコンの心情を読み取ったのだろうか、サニーはベンチに座るオタコンにすっと寄ると小さな腕をうんと伸ばしてその肩に腕を回してきた。驚いて落としたフォークが無機質な金属音を立てて机の上に転がる。
「サニー?」
オタコンは少しだけ身じろいで、肩に顔を埋める彼女をそっと横目で確認する。表情は窺い知れないがそこに思いつめた雰囲気を感じて、できる限り優しくその細い身体に腕を回した。
「ハル兄さん、あのね」
彼女の美しい銀色の髪がふわりとオタコンの首筋を撫ぜる。その名前通りの暖かな体温が、触れ合う身体から伝わってくる。
「なんだい」
「私……ハル兄さんと、けっ、結婚するっ」
初めて聞いたかもしれないぐらい大きな声でサニーは決然と言い放った。
耳元で予想外に叫ばれたこととその内容、二つに同時にびっくりしてオタコンは目を文字通り丸くする。それから一拍間をおいて、今度は目を細め、寝る子に言い聞かせるような囁き声でサニーの名前を呼ぶ。背中の手がぎゅっと服を掴んだ。
「……ありがとう。でも、ダメだよ」
続けてそう言うと、サニーは弾かれたように顔を上げる。
「なんでっ! 私、ハル兄さんとずっと一緒にいる、ハル兄さんが」
そこで彼女は一旦言いよどみ少し迷うようなそぶりを見せたが、やがて決然と続ける。
「……し、死ぬまでそばにいるの」
サニーの大きな瞳には見る間に涙が溜まっていくが、それでも彼女は熱烈なプロポーズをやめない。
「それって、け、結婚するってことでしょう? メリルとジョニーみたいに私もハル兄さんと結婚して、ずっとそばにいる! 私は、ハル兄さんの前からいなくなったり……っ」
彼女にしては珍しく早口で喋ったせいか、そこで咳き込んでしまう。オタコンはサニーの背中をさすってやりながらもう一度、ありがとう、と言った。
「サニーの気持ちはとても嬉しいよ。本当に。でも君は外の世界をまだ知らない。外の世界には君を必要とする人がいるんだ。そして、君もきっとその人のことを必要だと思うはずだ」
僕がそうだったように、と心の中でオタコンは続けた。自分の内側の世界に閉じこもり自分の夢のためだけにメタルギアを作っていた自分に、転機をもたらしたのは誰あろうスネークだった。
 とうとう決壊してサニーの頬にぽろぽろと零れ落ちる涙をそっと親指で拭ってやる。
作品名:UNITE 作家名:キザキ