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For Letter Words

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 ロシアからイギリスに宛てられた手紙も、とうとう六通目を数えた。六通目が届いたのは、イギリスでスノードロップの花が咲き終わる頃になっていたが、前の手紙から六通目までの間、結局公務に忙殺されてロシアへ足を運べなかったことが、小さな棘のように胸に刺さっている。代わりに三日と開けず手紙を書き送ったが、ロシアからは云とも寸とも返って来なかった。
 だからロシアからの久しぶりの手紙を、イギリスは半ば恐れて受け取った。ロシアが一体、この三ヶ月、延々送り続けたイギリスの手紙を、どう受け取っているのか、何と書いて送ってきたのか、想像もつかない。
 毎日せっせとロシアへ宛てた手紙を書くイギリスを、先月に訪ねてきたフランスは呆れたように眺めていた。

「俺が勧めたとは言え、お前さんがロシア相手にそこまでするなんてねぇ」
「うるせぇ、今やらなきゃいつやんだ」
「まだ寝てもいないのに?」
言われて、かっと頬が熱くなる。
「黙れクソ髭。寝てねーから尚更なんだよ。俺とあいつはそんな関係じゃねえ!」
「あれまァ! エロ眉毛が何か寝言言ってるよ」
無言で青銅のペーパーウェイトを投げつけると、フランスはそれを片手で掴んで投げ返してきた。
「もう、乱暴だな、お前は」
「仕事終わったんなら帰れよ。邪魔だ、邪魔」
 そう言って追い払う手振りを見せると、フランスは何事かを言いかけた様子のまま口を噤んで、帰っていった。

 意を決して六通目の手紙を取り出す。親愛なるイギリス君、と書き出された手紙には、この三ヶ月の絶え間ない手紙攻撃に対して、揶揄いながらもどこか擽ったそうに礼が述べられていた。その一文を読んで、イギリスは漸くほっと胸をなで下ろす。
 鬱陶しがられている可能性も、大いにあったのだ。否、まだ油断はできない。注意深く文面と筆跡を追っていく。
 ロシアは冬の間、領内のあちこちで勃発していた小さな暴動を鎮圧するのに駆けずり回っていたと、幾らか疲れたような筆跡で記していた。転送して貰って読む、イギリス君の手紙が唯一の楽しみだったとあり、イギリスはロシア帝国内の情勢がこの冬、殆ど入ってきていないことに気づいて、愕然とした。
 鎮圧が終わったので、やっと返事が書けると喜ぶロシアに、まるで意図的に帝国内の情勢から目を逸らそうとしているのではないか、とさえ感じて、イギリスは頭を振った。
 国としての長い経験と、目で見れば、今正にロシア帝国は、爛熟期を終えようとしているようにも思える。その先は、と思いを馳せて、イギリスはロシアの手紙からはっと目を上げた。縁起でもない。ぶるりと首を振る。
 だが一度巣喰った疑念と不安は、容易にイギリスの脳裏を去ることはなかった。
作品名:For Letter Words 作家名:東一口