ふざけんなぁ!! 4
来良の制服と、漆黒の髪、そして平らで肉付きの薄い胸元が、静雄の愛しい帝人とダブって見えて。
余計にイラッと来た。
吸っていた煙草をアスファルトに放り捨て、靴底で踏みにじる。
そして、傍にあった止まれの標識を右手でへし折り、のっしのっしと那須島の方へと向かう。
「なぁ、先生。あんた、スッゲー勝手な言い分だな。てめぇそれでも教師かよ?」
標識を軽々振り上げると、心得たもので、トムが少女の手だけを引っつかみ、すたこらさっさと逃げていく。
後に取り残された那須島は、恐怖に身が竦み、その場に縫い付けられたように動けなくなっていた。
「純真無垢な少女の気持ちを、踏みにじったばかりでなく、身体まで売らせようなんて、ああ? しかも、てめぇが作ったテレクラ代の穴埋めに、自分に恋してくれた女を宛がおうなんて。一体何様のつもりだ? 神か? この人でなしが、あああああ?!」
少女を喰いモンにするような屑は、本当に許せねぇ。
静雄も手加減一切抜きで、この馬鹿をフルスイングでふっとばした。
★☆★☆★
「全く、来良にはロクな教師がいねぇんじゃねーか?」
二週間前は、七人がかりで帝人を取り囲んでくれやがり、今度は売春の斡旋ときた。
泣き崩れる少女に、「あんたを大事にしてくれる、別な男を捜しな」と、トムと二人がかりで宥めて家に帰した後、舐め腐った馬鹿教師は、そのまま粟楠会の事務所に宅配してやった。
粟楠会の幹部に「赤林」という男がいるのだが、彼はとても女子供を大事にし、薬と売春を一切行わない、昔気質の任侠ヤクザだ。
彼は、露西亜寿司に蟹を卸すまっとうな仕事も行っており、実は常連のトムや静雄とも、会えば挨拶する程度に顔見知りだった。
正義のヒーローを気取る気はなかったが、帝人と同じ来良学園の女子生徒だと思うと、ほっておけず。
このままでは、未来ある少女が、この馬鹿に食い物にされるのは、目に見えていて。
トムと相談の結果、彼らは露西亜寿司の店長経由で、赤林を頼る事にしたのだ。
「事情は判りました。教え子に手をつけた挙句、売春を強要するような奴は、教師の屑です。それに露西亜寿司さんの紹介とあっちゃあ、一肌脱がねぇ訳にはいきませんな。おいちゃんに全部任せてください。こいつは借金が完済になるまで、マグロ漁船に放り込んでおきますわ」
十日で一割つく暴利な金利な上、住み込みの給料がいくらか知らないけれど、一体何年で返せることやら。
まあ、海の上なら今後、少女に悪さをすることもできまい。
二人が安心して、粟楠会の事務所を出た、正にその時だった。
「………うわぁぁぁぁぁんあんあん………はなせぇぇぇ………、げほっ、ごほっ………、いやぁぁぁぁぁ………、まさおみぃぃぃぃぃぃ………」
道を挟んだ向こう側、臨也の腕の中。
毛布に包まれた帝人が泣き喚きつつ、物凄い勢いで暴れており、今にもタクシーの後部座席に放り込まれそうになっていた。
作品名:ふざけんなぁ!! 4 作家名:みかる