ふざけんなぁ!! 4
17.はっぴぃえんどは何時ですか(涙)?
不況の影響もあって、世間は今、お家クッキングが大流行らしい。
帝人が東京に出てきて、一番愛用しているショッピングセンターでは、溜めたポイントをレジにて換金ではなく、別所にしつらえてあるサービスセンターで、色んな品物と交換してくれる。
特にこの店は景品の品揃えも多く、引っ越した日に、私物を全てを失わざるえなかった帝人にとって、何を貰ってもとても嬉しく、選ぶのも楽しい所であった。
でも、今日は♪♪
文房具でも、お鍋でも、フライパンでも、万能ハサミでも、包丁研ぎでもなく。
「えへへへへ♪ セルティさん、私やりましたぁぁぁ♪♪」
帝人は買い物用マイバックを肩にかけ、嬉しげにショッピングセンターの外で待っていてくれた、ネコミミライダーに大きく手を振った。
そしてビニール袋に箱ごと入れてもらった戦利品を、幸せに見せびらかす。
『帝人、何だそれは?』
「日本が誇るB級フード……、『タイヤキ』が、ガスコンロで簡単に作れちゃうものです♪♪」
彼女はここ三ヶ月でこつこつ溜めたポイント八百点を利用して、今日、念願の『タイヤキメーカー』を手に入れたのだ。
それは小さなフライパンサイズで、一度に二匹のタイヤキを、挟み込み、ガスコンロの火で炙り、焼いて作る、そんなささやかなものである。
普通に買っても、消費税込みで2100円程度の代物だが、現在、あばら骨が七本も折れていて、バイトもできない状況な上、ダラーズの掲示板にこそっと置いてあるアフォリ以外、収入のメドが全く無い彼女である。
とあるコンビニに置いてある、お買い得105円のポテトチップス1袋ですら、散々悩んで購入するぐらい財政が厳しい今、正に清水の舞台から飛び降りたぐらい、ドキドキ胸が躍る贅沢だった。
しかも今日は、岸谷家に入院させてもらってから初めてのお出かけで、一週間ぶりの外出で。
この買い物を無事に終えた時、人ゴミに酔ったり、発熱も吐き気も全く無ければ、無事静雄の家に帰れる約束なので、帝人的に嬉しさも二倍である。
「先生~♪ ただ今帰りましたぁぁぁ♪♪」
セルティと二人、うきうきと食材を手分けしてマンションに持ち帰る。
すると。
「やぁ、お帰り帝人ちゃん♪♪ でもいけないんだぁ♪ インフルエンザにかかってるって、学校に届け出て休んでいる娘がさぁ、ふらふら外出していいと思ってんの?」
今日も呼んでもいないのに、黒いファーコートを身に纏った新宿の強姦魔が一匹、お昼ご飯を一緒に食べる気満々で、笑顔で食卓に座って待っていて。
『帰れぇぇぇぇ!!』
セルティの黒い大鎌が、真昼間から空を舞った。
★☆★☆★
帝人が床からあがり、新羅にお礼の気持ちとして、彼の食事をせっせと作るようになって三日が経過していたけれど、臨也は理由を何かとつけてはやってきて、結構帝人の手料理にありついている。
何処で情報を得ているかは知らないけれど、静雄と全く鉢合わせないよう一応気を配っていてくれてるから、帝人は今日も彼の分の食事を準備した。
本日の昼食は、ウザい臨也の強い希望で、『半熟ふわっとろオムライス』と、『暖かいコーンクリームスープ』、それと帝人が勝手に追加した、『温野菜のソーセージ入りチーズグラタン』となった。
普通のサラダを出したって、野菜嫌いの彼が、素直に食べる筈無くて。
折角作った物を残されるのは悔しく、また勿体無いと思う貧乏性な帝人なりに、ここ数日で学んだ工夫の成果だったが、本日彼はやっと全部完食してくれた。
(………この人の味覚って、ホント、中学生のノリだぁ………)
ちょっとっだけだけど、臨也と食事バトルに勝った、内緒な達成感が嬉しい。
心の中で祝杯をあげつつ、浮かれ気分で洗うお皿を抱え、シンクへと運ぶ。
「みっかどちゃぁぁぁぁん、俺、夜はビーフシチューとお手製の胡桃パン、それから牛ひれのステーキね。材料は冷蔵庫の中に入ってるから、俺偉い♪♪」
『貴様、今日は夕方まで居座る気か!!』
「臨也、君仕事しなよ、もう」
「俺、大怪我してるし、休業中だもん♪」
これみよがしに頭の包帯を指差し、臨也はごろごろと居間のソファで寛いでいる。
物凄い嫌がらせだ。
【運び屋セルティ】の大口顧客でなければ、とっくに彼女の影で簀巻きにされ、お外に放り出されているのだろうが、自分の強い立場をよく理解している男は、やりたい放題である。
勿論、ここに居候させて貰っている帝人には、どんなに臨也が嫌いでも、彼を無視し、この場の空気を悪くする権限は無い。
今回の、帝人の入院治療費も全額臨也持ちだし、レイプ未遂のお詫びにと、最新型ノートパソコンを一台、箱にリボンをくくりつけて寄越してきもしたが、そんな高いものを貰う理由もない上、例え受け取ったとしても、静雄にバレれば鉄屑になるだけだ。
勿体無いし、機械だって可哀想だから、その場で直ぐに返品させた。
そんな彼女の行動を、臨也は【偽善者】とあざ笑う。
「ねぇ帝人ちゃん、君、何時まで一般人を気取ってるつもり? 君の居るべき場所はこんな所じゃないでしょ。何時になったら、ネットの、無限の可能性を秘めた世界に戻ってくるのさ?」
「んー……、一年後?」
「アホか」
そんな事を言われたって、帝人の今一番欲しいスペックを持つ、ディスクトップ型パソコンは三十万もする。
例え夏休みを丸々潰し、一ヵ月半、正臣がバイトしているマックで、朝から夜まで働いたとしても、全然手が届かない代物である。
「ねぇ、太郎さぁぁぁん、ここを退院したらさ、私のトコにバイトに来てよ。時間給二千円あげるからさ♪ きゃはっ♪」
クッションを抱え、ゴロゴロ転がりつつ、甘楽モードで甘えた声を出す男は、マジでうざかった。
いくつですかあんたは?
遠巻きに見てる、セルティと新羅が、己の腕にできた鳥肌を摩っている。
帝人も溜息混じりに、システムキッチンの奥に篭り、タイヤキ用の甘くないバージョンの生地を練り始めた。
「静雄さんがいいって言ったら、何時でも伺いますよ。頑張って許可貰ってくださいね」
「太郎さんのいけずぅぅぅぅ!!」
臨也がきぃきぃがなりだしたが、知るか。
帝人の退院が、ほぼ確定になった今、残された時間は僅かしかないのだ。
タネは、ここ数日の間、溜まってしまった岸谷家の冷蔵庫の残り物を使用するつもりだ。
カレーの残りはひき肉と片栗粉を足し、ドライカレーもどきにした。
エビチリやチンジャオロースー等の中華料理は、そのまま使えるからとても楽だし、胡麻和え等の和食の残りだっていけるだろう。
ひき肉の残りで肉まんのアンを作ってもいいし、とろけるチーズとピーマンもあったから、ピザ風にしてもいい。
ああ、茄子マーボーを作って、ピリ辛な甘味噌アンにしても、美味しいだろう。
兎に角、手当たり次第、タイヤキにして冷凍しておけば、新羅さんのちょっとしたおやつや夜食に食べてもらえるし、コンビニおにぎりより随分とマシな筈だ。
一週間のお礼が、こんなささやかな事しか考え付かない自分が情けなくも思ったが、やらないより全然いい。
作品名:ふざけんなぁ!! 4 作家名:みかる