二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ツバサ

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 


「…それで、だ。」
「ああ…それで?」

城下町郊外の森に入って30分程、シードの先導の末たどり着いた場所は、地元の人間すら知らないような小さな洞窟だった。

シードは幼い頃からこの森を庭のように駆け回っていたというから、きっと彼だけの秘密の場所なのだろう。
馬を降りると入り口の木につなぎ、二人は洞窟へ足を踏み入れた。
シードは城で用意していた羊の肉や毛布などを抱え、先に進む。
それに松明を持ったクルガンが後に続いた。

数十メートル進んだところで、シードはクルガンを制し、一人奥へ進む。
そして優しい声で暗闇に向かって呼びかけた。

「よお。元気にしてたか?」

クルガンは顔をしかめ、目をこらした。
奥に、何かがいる。
人間ではなく、獣のような巨大な何か。

「腹減ったろう。メシ持ってきたぞ。それと…寝床な。これでゆっくり寝れるってもんよ。」

羊の肉をその近くに置くと、シードは慣れた手つきで藁を敷き、その上に毛布をかぶせた。
今までぴくりとも動かなかったその人間よりふたまわり程大きいと思われる影が、その時初めて動く。

「これは…」
羊の肉をついばもうとし、松明に照らされたその正体を目にしてクルガンは思わず息を呑む。

金色の眼光。
鋭いくちばしのついた鷲の頭と、たくましい黄金色のライオンの体。
その背には純白の大きな羽根が堂々とそびえている。

「グリフォン……?」

話に聞いたり、書物では目にしていたが、実際に目の当たりにするのは初めてだった。
だいたい、ルルノイエ近辺でこんな怪物が出るなどとは聞いたことがない。

「へへ、めずらしいだろ。会議さぼって散歩していたときに拾ったんだ。怪我してたから、ここに連れてきて手当てしてな…」
得意げに胸を張り、シードはそのグリフォンに体を預けた。
そのまま顔をその柔らかそうな羽毛に埋める。

「おい、危険だ…」
「平気平気。こいつ、俺のこと解かるから。」

おそらくシードには気を許しているのであろう、そのグリフォンはつ、と一度だけシードの方を見ると、再び羊の肉をついばみはじめる。

シードの動物好きは、今に始まったことではない。
城下町で猫や犬を拾ってきては軍団長であるソロン・ジーによく小言を食らっていたし、一度は宿舎内で飼っていたハムスターを大増殖させてしまい、大騒ぎになったこともある。(その後のハムスター達の行方はよく覚えていない。)

自分の乗る馬を軍内の誰よりも可愛がっているし、実際一日に何度も愛馬を自ら散歩に連れて行く武将など、シードくらいのものだろう。
戦が終わった後は、どんなに疲れていても真っ先に馬に新鮮な水と餌を与え、自らがその体を洗ってやる。
今まで何度も馬の世話係がその仕事を変わろうとしたが、頑として譲ろうとしなかった。

そのせいか、どんな馬でもシードによくなつくし、よく言うことを聞く。
無茶な戦いが続くと、たいていはまず馬が尻込みし出すのだが、シードが乗ると一変として最前線を恐れることなく走る。
こういう従わせかたもあるのだ、ということをクルガンはシードに出遭って初めて知った。

しばらくグリフォンの体の温かさを楽しんでいたらしいシードは、体を離すと持ってきた袋から網を取り出し、グリフォンに向かってそれを掲げて見せた。
「よっし。ここいらは虫が多いからな。これでカヤを作ってやるぜ」




「それで…」


しばし無言でそれを見上げていたクルガンが、蚊帳を作る作業に没頭しているシードの背後から声をかける。
「あ?」
「これの、どこが、俺に似ていると?」
「え?似てるだろ、しかめっ面なとこがさ。こいつの名前、思わずクルガンってつけちまッ…」

「…ほう。」





その日、シードは心から思った。
もう、二度と、動物にクルガンの名前はつけまい。






作品名:ツバサ 作家名:すずむし