no title
昔から、――それがいつ頃からなのかは覚えてないが、他人に弱いところを見せるのは大嫌いだった。
他人に指摘されたり、思わぬことがあったりするとすぐに動揺して、オロオロした姿を周りに晒し、ひどい時には怒り出す・泣き出す・・・という場面を見ては、恥ずかしい奴と軽蔑の眼差しを向け、ああはなるまいと強く思ったものだ。
自分があんな風に・・・なんて、考えるだけでも悪寒がした。
だからいつでも、自分は余裕を持って行動してきたと思う。
いつだって――たとえギリギリの場面でも、心のどこかでは冷静だったと思う。
そしてこれからも、自分が冷静じゃなくなることなんてありえない、と。
確信にも似た思いを持っていた。
けれど、例外はいつだって傍に潜んでいるもので。
――その現実を身をもって知るなんて、思いもよらなかったけれど。
【それは始まりにも、終わりにも似ていて 2】
さぁ、どうしようか。
ククールは頭をフル回転させて考えていた。
俺はエイトが好きらしい。
けれど、それを言葉のままに伝えてしまってもよいものかどうなのか。
――仮に、だ。
もしそれを告げたとき、彼は驚くだろうか。・・・驚くだろう、当たり前だ。
そしてその事実は彼にとって迷惑だろうか。・・・考えるまでも、ないこと。
どうすればいい?
どう答えればいい?
どうすれば、うまく切り抜けられる?
そこまで考えて、はたと気付く。
つい先程までは冷静だった―――冷静だと、思っていたけれど。
今の自分ときたら、端から見たら顔を覆いたくなる程の動揺ぶりで。
唯一、その動揺が顔にはまだ出ていないのがせめてもの救いだった。
らしくない、と思いつつも。
それでも格好をつける程の余裕なんて、今はどこにもない。
「・・・情けねぇ」
「うん?」
少し俯いて一人ごちた言葉は、どうやら彼に届いてしまったらしい。
なに、と聞き返してくるその表情は先程よりも困惑と心配の表情が増していて、なんだかひどく罪悪感を覚えてしまう。
辺りは相変わらず、静かで。
ただ、先程から少し強めの風が吹いており、木々の葉のかすれるさやさやという穏やかな音が耳に心地よい。
雲間からは月がちらりと顔をのぞかせ、二人の顔と足元の影をやわらかく照らしていた。
ふぅ、と小さく息を吐き、ククールは顔を上げた。
その反動で、肩に少しかかっていた髪がさらりとすべりおちる。
彼の銀色の髪は月明かりを反射して、光を持ったかのようで。
目を真っ直ぐに見据えて、息を小さくすいこんで。
ゆっくりと、言葉をはきだした。
「なんでもないよ、エイト」
綺麗に笑えたと思う。
上出来、なんて自分で言うのもどうかとは思うが、本当のことだから仕方がない。
「え?」
「ちょっと、ふざけてね。お前を、――驚かそうと、思って。深い意味とかなくてさ」
心配してもらったみたいで悪いけど、と笑って言うと、エイトはふぅん、と一言呟いた。その意味有り気な反応が気になりエイトを見やると、ぱちりと視線があって。
――ちょっと、睨まれた、気がする。
なんだか気まずくなって視線をはずすと、エイトが小さく笑いをもらした。
「嘘はよくないよ、ククール」
「・・・は?」
今度はククールが困惑の表情を浮かべる番だった。
だって、と彼は続ける。
「その笑い方、いつも女の人に向けてるのと一緒じゃない」
ね?と確認を取るように、念を押されるように、もう一度問いかけられて。
困惑は、絶句に変わった。
なにを・・・言ってるんだ、この、目の前の人は。
この笑い方が、なにと一緒だって?
どんなときと一緒で、だから、どうだって?
なんで、――嘘だって?
あんぐりと口を開けているククールを見て、エイトはさらに笑みを深めて。
あってるでしょう?と聞き返してくる表情は、悪戯に成功した子供のようだった。
彼の月明かりに照らされた表情は、とても綺麗で。
その瞬間。頭の片隅で、なにかがぱちん、とはじける音がした。
「――って、ククール!」
重ねて言い訳をさせて頂けるのなら、それも無意識だった、と言い切るしかない。
気付いたときにはもう、エイトは現在の位置・・・つまり、自分の腕の中にいたのだ。
だから決して自分の意思じゃないんだ、エイト。
――なんて言えたらどんなにいいだろうと、くだらないことを考える。
「だから、どうしたって――」
「好きなんだ」
呆れを含んだ彼の言葉を遮るように言った言葉は、まさに勢いで。
言ってしまってから自分の発言を反芻しハッとしたが、それは当然のごとく遅くて。遅すぎて。
「・・・・・・・・え?」
神様、と祈るように目を閉じた。
これほど真剣に祈りを捧げるのは、おそらくはじめてだと思う。
これまで貴方のことをないがしろにしていたことは、心から謝るから。
だから。
――神様、この状況を、なんとかしてください。
他人に指摘されたり、思わぬことがあったりするとすぐに動揺して、オロオロした姿を周りに晒し、ひどい時には怒り出す・泣き出す・・・という場面を見ては、恥ずかしい奴と軽蔑の眼差しを向け、ああはなるまいと強く思ったものだ。
自分があんな風に・・・なんて、考えるだけでも悪寒がした。
だからいつでも、自分は余裕を持って行動してきたと思う。
いつだって――たとえギリギリの場面でも、心のどこかでは冷静だったと思う。
そしてこれからも、自分が冷静じゃなくなることなんてありえない、と。
確信にも似た思いを持っていた。
けれど、例外はいつだって傍に潜んでいるもので。
――その現実を身をもって知るなんて、思いもよらなかったけれど。
【それは始まりにも、終わりにも似ていて 2】
さぁ、どうしようか。
ククールは頭をフル回転させて考えていた。
俺はエイトが好きらしい。
けれど、それを言葉のままに伝えてしまってもよいものかどうなのか。
――仮に、だ。
もしそれを告げたとき、彼は驚くだろうか。・・・驚くだろう、当たり前だ。
そしてその事実は彼にとって迷惑だろうか。・・・考えるまでも、ないこと。
どうすればいい?
どう答えればいい?
どうすれば、うまく切り抜けられる?
そこまで考えて、はたと気付く。
つい先程までは冷静だった―――冷静だと、思っていたけれど。
今の自分ときたら、端から見たら顔を覆いたくなる程の動揺ぶりで。
唯一、その動揺が顔にはまだ出ていないのがせめてもの救いだった。
らしくない、と思いつつも。
それでも格好をつける程の余裕なんて、今はどこにもない。
「・・・情けねぇ」
「うん?」
少し俯いて一人ごちた言葉は、どうやら彼に届いてしまったらしい。
なに、と聞き返してくるその表情は先程よりも困惑と心配の表情が増していて、なんだかひどく罪悪感を覚えてしまう。
辺りは相変わらず、静かで。
ただ、先程から少し強めの風が吹いており、木々の葉のかすれるさやさやという穏やかな音が耳に心地よい。
雲間からは月がちらりと顔をのぞかせ、二人の顔と足元の影をやわらかく照らしていた。
ふぅ、と小さく息を吐き、ククールは顔を上げた。
その反動で、肩に少しかかっていた髪がさらりとすべりおちる。
彼の銀色の髪は月明かりを反射して、光を持ったかのようで。
目を真っ直ぐに見据えて、息を小さくすいこんで。
ゆっくりと、言葉をはきだした。
「なんでもないよ、エイト」
綺麗に笑えたと思う。
上出来、なんて自分で言うのもどうかとは思うが、本当のことだから仕方がない。
「え?」
「ちょっと、ふざけてね。お前を、――驚かそうと、思って。深い意味とかなくてさ」
心配してもらったみたいで悪いけど、と笑って言うと、エイトはふぅん、と一言呟いた。その意味有り気な反応が気になりエイトを見やると、ぱちりと視線があって。
――ちょっと、睨まれた、気がする。
なんだか気まずくなって視線をはずすと、エイトが小さく笑いをもらした。
「嘘はよくないよ、ククール」
「・・・は?」
今度はククールが困惑の表情を浮かべる番だった。
だって、と彼は続ける。
「その笑い方、いつも女の人に向けてるのと一緒じゃない」
ね?と確認を取るように、念を押されるように、もう一度問いかけられて。
困惑は、絶句に変わった。
なにを・・・言ってるんだ、この、目の前の人は。
この笑い方が、なにと一緒だって?
どんなときと一緒で、だから、どうだって?
なんで、――嘘だって?
あんぐりと口を開けているククールを見て、エイトはさらに笑みを深めて。
あってるでしょう?と聞き返してくる表情は、悪戯に成功した子供のようだった。
彼の月明かりに照らされた表情は、とても綺麗で。
その瞬間。頭の片隅で、なにかがぱちん、とはじける音がした。
「――って、ククール!」
重ねて言い訳をさせて頂けるのなら、それも無意識だった、と言い切るしかない。
気付いたときにはもう、エイトは現在の位置・・・つまり、自分の腕の中にいたのだ。
だから決して自分の意思じゃないんだ、エイト。
――なんて言えたらどんなにいいだろうと、くだらないことを考える。
「だから、どうしたって――」
「好きなんだ」
呆れを含んだ彼の言葉を遮るように言った言葉は、まさに勢いで。
言ってしまってから自分の発言を反芻しハッとしたが、それは当然のごとく遅くて。遅すぎて。
「・・・・・・・・え?」
神様、と祈るように目を閉じた。
これほど真剣に祈りを捧げるのは、おそらくはじめてだと思う。
これまで貴方のことをないがしろにしていたことは、心から謝るから。
だから。
――神様、この状況を、なんとかしてください。