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【こんな想い知らなければ、僕は】



あの日から、二人の間に変わったことはない。
挨拶も、喋り方も、笑い合ったりすることすら、なんら変わったところはなかった。

――傍目から見れば。


【こんな想い知らなければ、僕は】


どうにも彼の笑顔が苦手になった。
それがククールにとって、あの晩からの一番大きい変化だった。
以前まではエイトが誰かと笑っているとき、その顔を見るのがとても好きで。
たとえ恋愛感情とか、そういうのは抜きにしても彼の屈託のない笑顔は好きだったのだ。
けれど今はと言えば。

彼の笑顔を見るたびに、あの夜の月に照らされた彼の困ったような、優しい微笑を思い出してやりきれなくなる。ひどく情けなくなる。
一緒に笑い合うときすら、目を逸らし気味な始末で。
そしてなにより彼が、ミーティア姫に微笑みを向けているのを見るたび、ちりちりとした胸の痛みを覚えるのだ。
そして思ってしまう。
――どうして彼に笑いかけられるのが自分ではないのか、と。

・・・それは醜い感情なのだろう。
どろどろとした、――とてもとても、醜い。
いくらそんなことを思っても所詮無駄だし、そんな醜い感情を抱くたびにますます自分から彼は離れていくのだから、と何度も自分に言い聞かせてみても駄目だった。

くだらない、と思う。
きっとこれは一時の感情で、この旅が終わる頃には全て元通りになるのだろうとも思う。けれどその思いを打ち砕く声は、常にどこかからしていて。
あきらめられるはずがない、忘れるはずがない、――忘れられるはずがない、と。
どうしようもない堂々巡りで、つくづく嫌になる。

「――ちょっと、ククールってば!」

「え?」

強く腕を握られて、思考の海から現実へ戻る。
途端に辺りのがやがやと賑やかな声が耳に入ってきて、ククールは顔をしかめた。
ぐるりとまわりを見渡すと、いくつものテーブルの上にはさまざまな料理と酒が並べられていて。その各テーブルにはわらわらと人々がひしめきあい、あるものは楽しそうに談笑し、あるものは顔を真っ赤にして騒ぎ立てている。
なるほど、どうやらここは酒場らしい。
けれどいつの間にこんなところに来たのかと思い出せずしばし考えていると、また強く腕をつかまれた。
――今度は先程の3割増ほどの強さで。

「痛っ!――なにすんだよ、」

あまりの強さに振り向くと、犯人は綺麗な眉をつりあげてククールをキッと睨んだ。

「なによ、そっちがぼーっとしてるからいけないんでしょ!」

私がいるっていうのに、と目の前の女性は可愛らしい唇をとがらせている。
その女性を見てようやく、ククールは自分がなぜここにいるかを思い出した。

レベルアップのためとモンスターを倒して経験値を稼いでいたのだが、日が暮れてきたので街にもどり、宿屋に入ったはいいが今夜の部屋割りはエイトと一緒になってしまったのだ。
部屋に二人きりというのもさすがに気まずいので適当に理由をつけて宿を出て、しばらくふらふらと歩いていたところをこの目の前の女性につかまったというわけで。

まだ文句をぐちぐちと言っている女性をちらと見る。
小さな顔に、ほっそりとした身体。
大きな瞳は真っ黒で、鼻すじもぴんととおっている。
どこからどう見ても美人、だ。
しかも自分好みの。

・・・けれど。

「ねぇ、ククールってば。なにを考えてるの?」

女性が肩によりかかりながら、甘ったるい声で聞いてくる。
キツイ香水の匂いがつんと鼻をついた。
いつもなら女の子らしい香りだと微笑ましくも思うのだが、今はこのわざとらしい香りがひどく煩わしい。

・・・なぜ?

頭に浮かんでくる答えを振り払いながら女性の肩を抱いた。
いつもの微笑を浮かべて安っぽい台詞を口にする。

「もちろん、君のことだよ」

「えー、ほんとにぃ?」

口調は疑ってかかってきているが、まんざらでもなさそうで。
頬をうっすら桃色に染めて腕をからめてくる。
期待を持って見つめてくる大きな瞳にまたにっこりと笑って耳元で囁いた。

「愛してるよ」

今度こそ女性は顔を真っ赤にして、少し俯いてしまった。
――ほら、愛してるだの好きだの、こんなに簡単に出てくるのに。こんなに簡単な言葉なのに。
なぜ彼の前だけでは、あんなにも重くなってしまうのか。

なんの違いが、どんな違いがあるっていうんだ。
こんな感情に。

馬鹿らしい。
馬鹿らしい。
・・・馬鹿らしい。

・・・けれど、それでも。

「ごめん、俺行くわ」

がたんと椅子を立ち、紙幣を何枚か置いて立ち上がる。
背後から困惑した声と、ついでヒステリックな叫び声が聞こえたような気もしたが
振り返らなかった。
バタンと大きな音を立ててドアを開けて外に出た途端、ひゅうと風が吹いた。
酒場の熱気で火照った身体には心地よく、同時に頭の中まで冷やされていくようだ。
ふぅ、と溜め息をひとつついて空を見上げると、満月がぽっかりと浮かんでいて。
あの日もこんなだったっけ、とふと考える。
先程の女性の黒い瞳が、エイトのそれに少し似ている、とくすりと笑う。

「もう全面降伏、かな」

いくらくだらない、と頭では考えてみたところで自分の本心は変えられない。
今更だけれど、やっぱり好きなのだ。
たとえ格好悪くても、情けなくても。
それは間違いなく、どうしようもなく揺るぎようのない真実で。
それでもどうしたらいいかなんて少しも分からない。
自分はあの日からちっとも成長してないんだと自嘲するようにまたわらって。

こんな想い知らなければ、と心から思った。
作品名:no title 作家名:トモ