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【それは少し、勝手すぎやしませんか?】



好きで好きで好きでとにかく好きで、それでもその想いはけして叶わなくて。
忘れようと思っても、ちっとも忘れることなんてできなくて。
かといって離れることもできないんです。

・・・一体、俺にどうしろと仰るんですか、神様。


【それは少し、勝手すぎやしませんか? 1】


「聞いてるかーゼシカちゃんー」

「だーかーらー、さっきからちゃんと聞いてるでしょ!」

だんっ、とテーブルを叩いたはずみで、グラスになみなみと注がれた酒が少しこぼれた。あらいけない、と拭くものを探す間にも酔っ払いの愚痴は止まらなくて。

「あーもうほんとに好きなんだけどさ、どうしたらいいか、」

グラスを片手に飲んでは愚痴、飲んでは愚痴を繰り返している男は、いつもは後ろでひとつにくくっている銀髪を今日はおろしている。
俯いたり首を振ったりするたびにさらりとした銀髪がさらりと揺れて。
酔った頬はほんのり赤くて、どこか色気さえ漂わせている。
世の女性はこんな外見に騙されるのかしら、とゼシカはちらりとその男を睨んで、溜め息半分に返事を返した。

「それはもう5回は聞いたわ。――あ、すみません、台拭きくださーい!」

傍を通りかかった店の人から台拭きを受け取り、テーブルの酒を拭き取る。
同時になぜこんな酔っ払いに付き合っているのか、と自分自身に疑問をもってしまう。

――こんなはずじゃなかったのに。

それもこれも全部この酔っ払いがいけないんだわ、と心の中でひとりごちてグラスの酒を口に含んだ。


ここのところ、街に入ると毎夜毎夜どこかへふらふらと出かけて行く姿を見て、また酒場か飽きないわねあの馬鹿は、なんて醒めた目で見たものの。
仲間の帰りが遅いといつも気に病むエイトを心配して、連れ戻すべく酒場に乗り込んだのだ。
どうせいつもと同じ、悪い意味で見慣れた光景に会うのだろうと思っていた。
発見から、一発叩いて張り倒して、宿に連れ戻るシミュレーションまでしていたのだ、本気で。

しかしそこで見た光景は、いつもと違っていて。

まず、彼は一人でテーブルに座っていた。
――いつもなら女性が一人二人、いや三人はたむろしているのに、今日は一人もいない
そして女性のかわりに、テーブルには酒の空き瓶やグラスがごろりと何本も転がり、彼の顔は少し赤かった。
本来、彼はとても酒に強く、まともに酔ったところなど一度も見たことがない。
ましてや酔っているとしても、顔には絶対に出したことがない――と、本人は言っていた。
だからここまでひどく酔うのには、それ相応の理由があるのだろう。

――こっぴどく女の子に振られでもしたのかしら。
なんにせよくだらないことでしょうね、と思いつつ近くに寄ると彼は気配を感じたのか、顔を上げてゼシカを見ると片手を上げてにこりと微笑んだ。

「よう、ゼシカちゃんー」

酒臭い。
しかも相当に酔っているようで、微妙に呂律がまわっていない。
かかわりたくないと瞬時に思ったが、ここであっさり帰ると、わざわざこんな所まで来た自分の徒労が水の泡になってしまう。そう自らに言い聞かせて、仕方なく酔っ払いに声をかけた。

「なに飲んだくれてるのよ、ククール」

「フラれたんだよ」

主語もなにもなく、即答。
フラれたよ、うん、と同意を求めるでもなく彼はもう一度言って、グラスを傾ける。
あぁ、やっぱりね。そんなことだろうと思った。
自分の想像通りだったことにいっそう呆れ果て、付き合ってらんないわね、とゼシカは
ククールの腕をつかんだ。

「帰るわよ」

けれど彼はつかまれた腕を見て、なんで、と不思議そうに言い、残された片手でまた酒をあおった。
――なんで、ですって?

「あんたの帰りがいっつもいっつも遅いせいで、エイトが心配するからよ!」

ただでさえ人一倍悩みを抱え込むエイトに、くだらない悩みを増やすんじゃないわよ、と。
いっそう強くぐいと腕を引くと、思わぬ力で振り払われた。
予想外の力に驚いて彼の顔を見れば、彼は放っておいてくれ、とぽつりと呟き煩わしそうに頭を振っている。
なげやりなその態度にぷちん、とゼシカの中でなにかが切れる音がした。

「あんたねぇ・・・」

「頼むよ、ゼシカ」

――思いっきり殴ってやろうとしたのだ。本気で。
実際、手のひらに力を入れてぎゅっと握り締めた。
気合はモンスターとの戦闘時並・・・いや、それ以上にあった。
けれど。
頼むから、と繰り返し俯いてそう言った彼の声が、あまりにちいさくて。
銀髪の間からのぞく表情が、ひどく苦しげな微笑で。

なんだかとても痛い、と思った。

それからしばらくの間なにも言えなくなってしまって、ただ時折さらさらと揺れる
銀髪を見ているしかなくて。

・・・本気、だったのかしら。
なんの根拠もないけれど、確信のようにそう思った。
だってこんな顔、見たことがない。真剣で。余裕がなくて。
うなだれて、何かに耐えているようで。いつも見ている彼とは正反対で。
それはみっともない姿なのかもしれない。だけど。
綺麗ね、と素直に思った。
いつもの格好つけているより、余裕ぶって見せるより、ずっと。
素敵だと思った。
人並みな考えだけれど、恋をすると男の人もうんと綺麗になるのね、と実感してしまう。
「ゼシカ・・・」

「えっ? ――あ、なに?」

名前を呼ばれ、ハッと我に帰る。
先程の驚きと感動もあり、声が優しくなる自分が少しおかしい。
どうしたの、と声をかけると、ククールは先程とは違う、晴れやかな笑顔で言った。

「お酒、切れたみたいなんだけど」

「・・・は?」

また、ゼシカの動きが止まって。
・・・冒頭に戻る。
作品名:no title 作家名:トモ