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キス3題

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「あのさ、帝人君、今日見たことだけど」
 別にあの子は彼女ってわけじゃなくてさ、などと帰る道々臨也が説明しだしたので、帝人は驚いた。別にあの女性との関係など詳しく知りたくはない。けれど恋人ではないと明確に臨也の口からきけて、心のどこかでホッとしている自分にも気がついた。そして、それにちょっと気持ちがささくれた。あの女性が恋人でないからといって、帝人に望みが生まれたわけではない。この片思いは不毛で見込みがないままだ。それなのにやっぱり臨也の一挙一動に気持ちを振り回されている自分に苛々した。
「彼女でもない人とキスしちゃうなんて、さすが神様ですね」
 言いながら自分でもこれはまずいと頭を抱えてしまうような台詞だ。やつあたりに近い。ところが、思いがけず臨也はぱっと表情を明るくした。
「帝人君、それって妬いてる?」
 妬いてるよね、と問われ、顔が羞恥で赤くなるのが分かった。ここで嫉妬しているという解釈になるということはつまり、
「帝人君てさ、俺の事好き、だよね?」
 (ばれてた!)


 帝人は思わずその場から遁走したくなった。いや、ここは否定してごまかさなければという考えが浮かんで踏みとどまったものの、上手い言い訳が思いつかずに口ごもる。
(もう駄目だ)
 間があいてしまった。ここから何を言っても嘘にしか聞こえないだろう。案の定臨也はにやにやとこちらを見つめてはふうん、そうかあ、やっぱりねーなどと言っている。
「ち、ちがいます」
 からかいたおされるのはごめんだったので、なんとか抵抗を試みる。
(なんでばれたんだろう、いつから知ってたんだろう)
 そういう疑問が顔に出ていたようで、人の悪い笑みを浮かべた男に見抜かれる。
「いつから気づいてたんだって思ってる?まあ気づくよね、随分熱い視線くれるなあ、とか前から思ってたんだよ。決定的だったのは今日道で目があったときだけど。帝人君、すごくショック受けてたでしょ、アレ」
 まあ帝人君にはちょっと刺激が強かったかなーなどと楽しげに言われ、腹が立った。アレというのが例のキスシーンをさす事は明白だ。興奮のせいで涙腺がじわりと緩む。


 それにちょっと焦ったのは臨也だ。
(やば、からかいすぎたかな)
 でも涙目可愛い!などと考えているあたり救えないのだが、実は臨也も帝人のことが好きだった。帝人から好かれていると確信できて、浮かれはしゃいで余計に口がまわってしまうくらいには大好きだった。今日新羅の家に行ったのだって予定した行動ではなく、帝人がいたから、連れていた信者の少女とは適当に言いくるめて別れ、追いかけたのだ。俺の事好きだよね?と聞いた時点ではまだ確信というには至っていなかったので、実は恐る恐るだったりする。その言葉で帝人が赤面してくれたからこそ(やった!これは俺の事絶対に好き!両想いktkr!)になって余裕が生まれた次第だ。その後のからかうような台詞は別に帝人を苦しめようという意図があったのではなく、ただ恋愛においてアドバンテージをとるのが好きなだけである。仮令両想いであったとしても『君が俺を好きなんだよ』と相手に思わせたいタイプなのだ。
「キスくらい、別に、何とも。それに彼女相手ってわけでもないし」
 恥ずかしいのか、臨也と目を合わせるのを避けて、でも強がってみせる帝人が可愛くて笑う。
「へえ、そう?好きな人が遊んでもいいんだ。じゃあ帝人君にもしてあげよっか?」
「!」
 顔をよせて囁けば、本気で嫌そうな顔をされる。あ、やりすぎたかな、そろそろ俺も好きだよって言わないと逆に嫌われるかも、などと図りだしたところで、帝人の目がすっと座った。
(え)
「わかりました。しましょう、キス」
「えっ、いいの?マジで?」
 キス自体は歓迎だが、突然変わった帝人の態度には不穏なものを感じる臨也だ。無意識に距離を取ろうとして、それより早く帝人に胸ぐらを掴まれる。
「貴方が神様なんかじゃないってことを教えてあげます」


(さいあくだ、この人)
 本当に最悪だ、一緒にいる相手が自分を好きだと分かって、まず面白がるなんて、と帝人の頭に血が上った。そして怒りが羞恥心やときめきを上回ると腹が据わったのだった。
 胸ぐらを掴んで勢いひきよせ、臨也の口に自分の唇を重ねる。ぶつけたと言った方が正しいかもしれない。それは一瞬だけれど、確かに触れて。

「臨也さん、今何か見えました?」
「えっ?」
「キスしてたときです」
 珍しくあっけにとられた表情を晒す臨也に、少しだけ気が晴れる。

「何、見えたって…?何も見るひまとかなかったけど…?」

 君以外には、と言う誰かの神様に、帝人は笑う。やっぱり臨也は神でもなんでもないただの根性悪な情報屋だ。少なくとも帝人にとっては。こんなのは意趣返しにならないことはわかっているけれど。
(神から人間に引きずりおろしてやった気分だ!)
 にこにこする帝人に、臨也は不可解な視線をよこす。それに、尚更気分がいい。臨也ばかり余裕なのは面白くない。
「なんで笑ってるのかな……、なんか腹立つんだけど」
 臨也の声が低くなった。怒らせたかと首をすくめた次の瞬間、掠めるように口づけ返されて目を見開く。けれどすぐに離れた唇が「で、君には何か見えたの、今俺以外のものが」と拗ねたように言うので、また笑ってしまう。
(そうか、そういう答えでもいいのかな)
あの詩に対する回答として、今度新羅に提示してみようと思った。

『口づけの三年先が見えるか?』と尋ねられたなら、今は目の前の想い人しか見えないと。見えるの意味が違うけれど、意地悪なユーモアに対する返答にはそれくらいで充分だ。そこに、神の介在する余地はない。口づけの間にあるのは人間同士の情熱だけだ。

 返事をしない帝人に焦れた臨也がもう一度その唇を奪うまで、あと数秒。
 そこに遊びでない熱を感じて、両想いなのだと帝人が理解するまでは数分。


 我に返った帝人が、とんでもなく恥ずかしいことをしてしまったと頭を抱えるのは、さらに少し先の話だ。

 




作品名:キス3題 作家名:蜜虫