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THW小説② ~Full Moon Vacances~

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「・・・ちょっと!!隊長!!どーいうことですか!?」
本部に帰ると,いきなりそんな叫び声が俺の耳に飛び込んできた。
何事か,と声のしている階段の先へと目を向ける。
どうやら,隊長の部屋の前に,人だかりができているようだ。
しかし,隊長の部屋のドアはぴっちりと閉められている。
「・・・何だ?どうしたんだ?」
そっちが気になりつつも,インカムを棚に戻しながらつぶやく。
「あ!碧風さん,お帰りなさい!」
ふっと振り返ると,青い髪の青年が,ニコニコ笑いながら俺の方へ近づいてくる。
「ああ,ジンさん,ただいま。」
俺は,向き合って,ペコンと頭を下げて挨拶した。
「やだな,かたっくるしい。私の方が年下なんですよ?」
ちょっと困った顔をして,彼は俺に微笑みかけた。
・・・そうは言っても,攻特隊ナンバーズで古株の彼だ。
ただのヒラの俺とは格が違う。
だが,人当りの良い,それでいてひょうひょうとした性格の彼には,親しみを覚えていた。
「・・・で?あの騒ぎは何?」
依然として人だかりができている方へ目線をやりつつ聞く。
「あれですか?隊長が部屋に引きこもっちゃったんですよ。」
「・・・なに?」
「私は,鴉の作戦があったので,一足先に帰ってきてたんだけど。・・・そしたら,ちょっとしてから隊長が戻ってきて。」
「・・・ほう。」
「『ムカツク。』と一言,言い残して,あとはあの通りですよ。」
ヤレヤレ・・・と肩をすくめながら,彼は人だかりを眺めた。

・・・なんだそりゃ。子供か。

半ば呆れながら様子を伺うが,幹部たちの慌てっぷりは尋常ではない。
生真面目な副隊長なんて,ドアを叩きながら半狂乱だ。

「・・・ほっときゃ,いーよ。」
今更,自分1人があの中に加わっても,どうしようもない。
「ですね―。」
なんて,ジンさんがのんびり同意するから,少し驚いた。
「・・・ジンさん,幹部だろ?何かやらないとマズいんじゃないか?」
「副隊長が落ち着いたら,会議なりなんなりやるでしょ。隊長のワガママなんて,今に始まったことじゃないし。」
と,ニヤリと笑う。
流石,なんでもご存知のようだ。
過去にも,こういうことがあったのかもしれない。
「ジンさん,頼もしいな。」
「やだな,褒めたって何も出ないですよ?」
バシバシと俺の背中を叩きながら,カラカラと笑う。

「隊長―――――!!!いい加減にしてくださいよぉ――――!!!」
ジンさんとののほほんとしたやり取りの中,せっぱつまった副隊長の叫びが聞こえてきた。
「うーん。あの調子じゃ,会議は当分後かな。私,ちょっと書類まとめてきますね。」
「ご苦労様。後で,コーヒーもってくよ。」
「ありがとうございます♪」
そう言って,ジンさんは手をヒラヒラと振りながら,事務室へと向かっていった。


・・・しかし,こりゃ。
改めて事態を把握するために,思考をめぐらす。
攻特隊は,「統率が取れている」と言っても過言ではない部隊だ。
それは,自分が入隊して,何回か作戦をやって,実感していることでもある。
だが,どんな部隊でも,トップが揺らぐと崩れていくものだ。
「・・・え?隊長交代?」
「解散じゃないの?」
「うそうそ,ほんと?何があったの?」
ひそひそと,部屋の隅で少女達が不安げにささやいている。
推測が推測を呼び,噂はまことしやかに広がっていく。
・・・今がまさに,部隊の崩れかけなのかもしれない。

・・・こうなった原因は,なんとなく思い当たる。
いつもと違い,上手くいかなかった作戦。
そして,ふてくされたような撤退命令。
「・・・だからってなぁ・・・」
何か,他にあるのかもしれない。
だが,いくら考えようが,推測の域は越えないし,あの様子じゃ幹部からの正式発表はまだ先だろう。
「直接,聞いてみっかな。」
ジンさんへのコーヒーを手早く淹れながら,俺は隊長――ザビに直接会いに行くことを,こっそり決めた。


その日の深夜。
鴉の作戦部隊出動と,幹部の会議が同時に行われているようで,本部内は人がまばらだった。
俺もまた,どうやってサビと会ったものか・・と考えながら,本部内をうろつく。
ピタ・・・と,隊長の部屋の前で足を止める。
流石に,もう他に誰もいない。
部屋のドアは相変わらずぴったりと閉じられたままだ。
そして,ドアの前には,隊長への食事が,そのまま置かれている。
・・・飯も食ってないとは。もったいない。
俺は,露骨に眉をひそめた。
食べ物を粗末にする奴は,あまり好きではない。
このご時世,食糧がいかに大事かなんて,わかっているだろうに・・・

コンコン
試しに,ノックしてみる。
もちろん,返事はない。
もう一度,今度は強めにガンガンと叩く。
「・・・おい,ザビ?」
・・・寝ているのだろうか。
・・・部隊をこんな状態にして?

・・・いや,多分違うな・・・
部屋の中を一度,確かめてみる必要がある。
が,ドアを壊したら,間違いなく騒ぎになるだろう。
それは避けたかった。
「さて,どうすっか・・・」
ここは最上階だ。
上は屋上。
「・・・よし。」
とりあえず,屋上にのぼる。
覗き見なんて趣味じゃないが,そうも言ってられない。
シュッと風を身体にまとわせて,こっそりと窓の側にはりつく。
・・・疾風の能力者で良かったな・・・
能力なんてクソクラエだと思っているが,ゲンキンなもので,こんな時だけ感謝をする。
そっ・・・と窓から部屋の中を伺うと・・・
部屋には,誰も居なかった。
「・・・やっぱりな。」
しっかりと部屋の中を確認してから,そのままスタンと地面に降りる。
「隊長が行方不明です」なんて知れたら,また一気に部隊は大混乱だろう。
それは,好まれる状態じゃない。
「しょうがねぇ・・・」
俺は,誰にも何も言わず,そのまま辺りを捜索することにした。

・・・屋上からこちらを見下ろして,クスリと笑う,青い髪の青年には気が付かずに。