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THW小説② ~Full Moon Vacances~

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本部の建物を少し離れると,ただただ瓦礫の山だ。
ザビが行きそうな所なんて,まるでアテもなかったが,そうそう離れてはいないだろう。
部隊をほっといて,本当に雲隠れしてしまうとは思えなかった。

ザクッザクッザクッ・・・
瓦礫を踏み越えて,辺りを見回すが,ザビどころか,人の気配が全くない。
「ふぅ・・・。」
ふっと足を止めて,夜空を見上げる。
今日は,綺麗な満月だ。
「・・・!」
その満月の隅に,小さな影が見える。

・・・居た。

瓦礫が高く積みあがった上に,小さな人影。
直観的にザビだと思ったが,確認するために,気配を消して近づく。
瓦礫の下に身体を張りつかせ,上をそっとうかがった。

・・・やっぱり,ザビだ。
足を瓦礫の外に投げ出して,プラプラさせながら,月を見上げている。
ここからの角度だと,眼帯に隠れていて,その表情はわからない。

・・・さて,どうしたもんかな。
ここまで来たものの,実際に声をかけようとするのはためらわれる。
だからと言って,何もしないわけにもいかない。

そんなことをグルグル考えていると。
「・・・!!」
突然,突き刺さるような殺気を感じた。
「攻特隊隊長,覚悟っ!!」
ザビの背中に向かって,一直線に向かっていく影。
だが,ザビは満月を眺めたまま,微動だにしない。
・・・マズイっ!!
咄嗟に身体に風をまとわせ加速し,敵とザビの間に割り込む。
敵の喉元へと刀を閃かせた瞬間。

バチバチバチッ!!

・・・目の前の敵は,真っ黒焦げになって,瓦礫の下へと落ちて行った。

刀を収め,振り返る。
手だけをこちらへ向けたザビが,居た。


「よぉ。」
何とも間抜けな挨拶を投げかけてくる。
「・・・なんだよ,気づいてたのか。」
「当たり前だ。」
こちらを向いて,不敵にニヤリと笑う。
「お前に守られるほど,俺はヤワじゃないさ。」
「・・・そりゃどーも,失礼しました,隊長。」
俺は嫌味たっぷりに言い,ザビと少し離れた場所に腰を下ろした。

しばらく,無言で満月を眺める。
辺りは,しんと静まりかえり,空気はキンと透き通っている。

・・・いい夜だ。
場違いな感想が,心によぎった。

「・・・近江に言われて来たのか?」
先に,ザビが口を開く。
「いんや。俺の単独だ。」
「・・・そうか。」
「てか,副隊長が気がついたら,こんなモンじゃねぇだろう。全部隊引き連れてくるぞ。」
「そりゃ,そうだなー」
カラカラと楽しそうに,ザビは笑う。
「お前・・・笑いごとじゃねぇぞ,ほんとに。副隊長のあの乱れようったら。いつもクールな人がああなると,流石にビビるぞ。」
「そりゃ,悪かった。」
言葉とは裏腹に,大して悪びれた様子もない。
「おいおい,それだけじゃねぇぞ。親衛隊なんて,この世の終わりみたいな顔してるし,トップ交代だの解散だの,変な噂は飛び交うし。」
「ふーん。」
まるで,他人事のような生返事だ。
「・・・組織のトップが崩れれば,どうなるかなんて,わからないお前じゃないだろう?」
半ば呆れながらザビを見やるが・・・
相変わらず,満月を見上げたままだ。
まぁ,俺ごときに説教なんざ受けたくないのは,わかる。
だが,何か糸口が・・・
ザビが,こんな行動に走った理由の糸口がほしかった。