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花村見舞い観察記

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十分後。
「スイマセンでした…」
「いや、俺も迂闊だったっつぅか…」
めずらしく殊勝な千枝と、まだ気持ち悪さが残る陽介。
つまり、この2人にしてはめずらしく、室内には重い沈黙が続いていた。
「ね…ほんとに大丈夫?」
大丈夫じゃねぇっつの。普段なら反射的に出る文句も言う気力が起きず、代わりにさまよわせた視線が手付かずの薬と水、それとゼリー飲料の残骸を見つけた。
「あー、薬…」
飲む前に里中が来たんだっけ、と小さく呟く。
「でも胃袋ん中、全部吐いちまったな…」
「う……重ね重ねゴメン」
すっかり反省モードに入っている千枝がうなだれる。さすがにフォロー入れるべきか…と思った陽介だが、次の瞬間千枝はパッと顔を上げた。
「じゃさ、何か食べるモノあたしが――」
「って…!」
『里中』+『食べ物』+『あたしが』のコンボは嫌な予感しかしない。物体Xのトラウマはしっかり陽介の脳に刻まれているのだ。
「――買ってくるよ。そーいうゼリーでいい?」
「え?ぉおう、いいけど…」
予想外の危機回避。思わずうろたえたのを遠慮と勘違いしたのか、千枝は「まぁあたしのせいだから」と苦笑いしてみせた。
「じゃあ調達してくんね」
おう、と返事をする陽介を残して、千枝は部屋を出ていった。




とん、とん。軽い足音が聞こえた。最初、千枝が戻ってきたのかと思ったが、それにしては早すぎる。稲羽にコンビニはないから、あぁいうのはジュネスまで行かなきゃ無かったと思うけど。
つらつら考えてる間に、カチャリと部屋のドアが開いた。
「おっ邪魔しまーす」



《 case3:久慈川りせの場合 》


「え、りせちー?なんで?」
なんでって、お見舞いにきたんだってば。りせはクスクス笑って言った。
「いちおう咳止めと熱冷ましの薬持ってきたよ、すぐ効くやつ」
「お、さすが」
休業中とはいえ芸能人。風邪なんてのは死活問題だったんだろうし、詳しいはずだ。
「助かる…わ…」
ん、芸能人?
「………………」
そこまで考えて陽介は気づいた。
―――つか何この状況。
アイドルが見舞いで部屋に来てくれるって。え、オイシすぎじゃね俺?つかどんなアレよ?
仲間になってから結構経つが、それはそれ。だって、あの『りせちー』だし。カワイイのにも変わりないし。
で、今の状況は部屋に2人きりなわけで。うわ。うーわ。
「どしたの?」
「、や、なんも?」
微妙に声が上擦ったのを隠そうと他の話題を探して…ぁ、あったあった話題。額の上に貼りっぱなしの物体を思い出す。
「悪いりせ、そこの冷えピタとって」
うん、とりせは素直に手をのばし、冷えピタの箱を…逆さに振った。
「空っぽだよ、これ」
「へ?」
しまった。ぬるくなった端から次々に張り替えまくったせいで、あっという間に底をついたらしい。
現金なもので、無いとわかった途端に頭がガンガンと主張し始める。あぁもう、いってぇ。無意識に額に手をあてても当然痛みが引くわけもなく、うぁー…と低く呻く。
「……ん〜」
その様子を見て、りせは何かを考えるように顎に人差し指をあてた。しばらくそうしていたと思ったら、しょーがないなぁ、と立ち上がる。しょーがないって、何が。
「花村先輩、使っていいタオルある?あと冷凍庫に氷と…洗面器も借りるね」
「…はぃ?」
タオル?氷?…熱で回転の鈍くなった頭が解答を導きだすには、しばらく時間がかかった。
「……え、マジで?」
それはもしやアレですか。額に濡れタオルってやつですか。
バカみたいに口を開けていると、りせはとびきり可愛い悪戯っ子の笑みを浮かべた。
「『りせちー』のオデコタオルは貴重なんだから」




水音。
ちゃぷん―――、というのはきっと、タオルを水に浸した音。
それより小さな波音は、細い指が水面をかきまぜた…音、だろう。
枕元で、耳元に近いところで聞こえるのに、横になっているせいでちょうど視界から外れていて――――見えない分、音や気配で妙に想像力が働いてしまうのはどうにも止めようがなかった。
無駄に踊る心臓を自覚しつつ大人しく待っていると、最後に、ジャアッとタオルを絞る音。
「のせるね」
ふっと目の前に影が落ち、りせの手と白い布が視界の上半分を覆う。
反射的に目を細めた。
―――額に、一瞬怯むほどの冷たい感触。それはすぐに心地よさに変わって広がっていく。
「あ〜、コレいいわ」
「先輩、その反応オジサンみたい」
「ひでえ」
おかげで笑う余裕も出てきたらしい。あんがとな、と軽い口調で言うと、どぅいたしまして、と同じノリで返ってきた。
「ていうか…そんなにソレよかったなら、ワタシ家から氷枕持ってこよっか?」
「氷枕?」
そりゃまた古風な。
「うん、おばあちゃんに言えば出してくれると思う。…あと食欲ないでしょ?ついでに食べやすいお豆腐持ってきたげるね」
「さんきゅ……って待て。今豆腐っつった?」
「言った」
「…あの、俺豆腐苦手なの知ってるよね?」
「うん。ほら風邪のときって味覚変わるから、食べれるようになるかな〜って」
「いや風邪で好き嫌いが治るって聞いたことな…」
「じゃ、行ってきま〜す☆」
「待ってりせち………!!」
バタン。

作品名:花村見舞い観察記 作家名:えるい