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花村見舞い観察記

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完二と直斗が去ってから、しばらく時間が経ち、再びノック音がした。
「花村君、入っていい?」



《 case6:天城雪子の場合 》


くぐもった返事が聞こえて雪子はドアを開け……そのまま目を丸くした。
それはそうだろう、ベッドの上にあるのは布団が丸まった団子だったんだから。

さっきまでの掛け布団+冬用の布団と毛布まで引っぱりだして、陽介は頭まで布団に潜りこんでいた。
雪子の気配にもぞもぞと、布団ダンゴから頭だけを出す。
「よーぉ、天城…」
「ぶっ」
そこで雪子のスイッチが入った。
「くくくくっ…ふふふっ」
病人の部屋に来といて、
「かっ……亀みたい」
言うに事欠いてこの娘は。
「しゃあねーだろぉ、寒いんだから」
後輩2人が帰ってから、急にゾクゾクときた。布団を3枚重ねても足りず、体を丸めて暖をとっていたわけだが。
「さっ………さむけ、ふふっ、するの?それ…ぷくくくく…また熱、上がるよ。よく寝て……あはははっ」
笑うか心配するかどっちかにしてくれマセンか。



「来るの遅くなっちゃったけど、」
5分後、ようやく爆笑スイッチが切れた雪子が話し出した。さっきまで家の手伝いしてて、と続ける。
「風邪に効くものいろいろ持ってきたから。生姜とか」
言われて視線が雪子の手にいく。鞄と一緒に持っていた手提げ袋………から、はみ出してるソレはなんだ。
「え?長ネギ」
長ネギ。長ネギ………一瞬、ネギの不吉な使い方が頭をかすめたのは何故だ。―――ほら、聞いたことねえ?風邪んときネギを……に刺すと効くとか。つか座薬的使用法?
「天城、そのネギさ…」
「うん。おネギって風邪によく効くから」
「…あ〜、あ〜…風邪にな」
食ったら効くよな、うん、食ったら。
「大丈夫、さすがに丸ごと一本は入れないから」
「…い、入れ……?」
「でもうまく刺さるかわからないのよね」
「さ―――!?」
今何と言いました!?ささるとか
「こう、ねじ込むようにすれば上手くいくらしいけど」
ぐりっ、と身振りまで加えて話す雪子。思わず顔面から血の気がひく。
「……あれ、花村くんおネギ嫌いだった?入れちゃだめ?お――――」
「わーわーわぁぁー!!ストップ天城!!それ以上は女子高生が言っちゃいけねぇ!!!!」
だが制止も虚しく、雪子はアッサリ続きを口にしてしまった。

「――――お粥に。入れるの嫌?」

「わぁー!………………へ?お粥?」
「そう。………花村君、何考えてたの?」
ものすごい冷ややかな目で見られた。
「え、いやだって……………さ、刺す…ってのは?」
「これだけど?」
と雪子が取り出したのは竹の串。「これにおネギを刺して、火であぶろうと思って」
「……………………」
………ソウイウコトデスカ。
(びっ…ビックリしました天城サン!何考えてたかって言えないけどな天城サン!!)
幸い雪子はすぐに興味を失ったらしく、「じゃ、台所に行ってるね」と身をひるがえした。
それに生返事をして陽介はベッドに脱力。疲れた。もう台所とか勝手にして…


……台所。長ネギ。火であぶる?お粥……………

ガバッ!!
「待て天城っ!!」
叫ぶと、廊下の向こうから雪子が引き返してきた。
「何?」
「台所ってなんだ。お粥ってなんだ」
「お粥知らないの?」
「そうじゃねえ!!」
嫌な予感レベルじゃない。確実にこいつはヤる。
「雪子ーぉ、野菜の袋そっち持ってったっしょー?」
訂正。確実にこいつ[ら]はヤる。
「包丁持って歩くと危ないよ、千枝」
「じゃあ花村はいつも危ないわけだ、ははっ」
いや、たしかに武器で包丁使ってた時期もありましたけどね?……ってそうじゃねぇ今問題なのは「…まさかりせちーもいるんじゃねぇだろな?」
「え、なんでわかったのセンパーイ」
りせもひょこっと顔を出す。チクショウお約束!!
「花村先輩にお豆腐おいしく食べてもらおうと思って」
「肉ガムの挽回すっからさ」
「板さんに元気になるメニュー聞いてきたから」

何コレなんの死亡フラグ!?

唖然とする陽介の前で、3人娘は声をそろえた。
『病人はおとなしく寝ててね☆』




………寝てられっか!



「うんわ、しかもお前らだけなの!?ブレーキ役いねぇの!?」
「あ、花村寝てろっつったじゃーん」
「何だよこの空パックの山!中に何入ってたワケ!?」
「ねー、お豆腐何味がいい?」
「豆腐とのWパンチ!?しかも何味って、」
「こっちお野菜入れちゃうね」
「天城ネギ燃えてる!!」

作品名:花村見舞い観察記 作家名:えるい