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向いてない男 上

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 は組の演習開始地点は、見晴らしのいい崖の上であった。
 そこに立つだけで、青葉茂る木々の向こうに忍術学園の建物群が並んでいるのを見下ろすことができる。
 その学園の隅に狼煙が上がれば、それが実習開始の合図だ。

「狼煙はまだだね」
「ああ。おい、どうする?」
「そうだなぁ……」

 考えをめぐらせるの伊作に対して、留三郎の心はすでに戦場にあり、視線は学園を見下ろしたまま動かない。
 六年は組の二人が組んで事に当たるときは、伊作が作戦立案、留三郎が実行の主力、と、おおよその役割が決まっている。別に誰に強制されたわけでもない。五年以上の時を経て完成した、二人の黄金律である。
 二人とも、それぞれ、忍として完璧ではない。伊作が優しすぎる心根や、散漫しがちな注意力という欠点を抱えているのと同様に、留三郎にも欠点はある。
 まず、潮江文次郎に「脊髄に脳みそがある」と揶揄される思考。反射力・即応力は随一なのだが、その反面、今回の実習のように、現在目の前にいない相手との思考の読み合いは苦手分野だ。
 また、彼の思考能力は運動神経に直結している。体を動かしながら考えを進める癖があるため、どうしても思考に行動が先んじるのだ。結果、場当たり的な対応をしがちになり、周到な策には踊らされることになる。
 だが、頭の回転が遅いわけではなく、むしろ、早い方で、柔軟性もある。その上、なにをするにも器用で、武術にも長けているから荒事も得意だ。ただ、現場で力を発揮するタイプなのである。
 欠点だらけの忍たまが二人の六年は組。
 しかし、お互いの長所短所をすり合わせ、役目を果たしたのなら、完璧以上になれることを、経験上、悟っていた。
 それだけに、二人の間にある信頼は岩より硬い。
 伊作は留三郎へ自分の身命ごと作戦を任せることになんら不安を感じないし、留三郎も自身を駒として伊作の思考の盤上へ載せることに疑義を感じない。水一滴もらさないその結束力は、他の組の追随を許さない。
 チームワークのは組、と謳われる名は、伊達ではないのだ。
 伊作は懐から、木札を取り出した。

「とりあえず、この札は預けるよ。僕は仙蔵に狙われているから」
「本当に来るか、あいつ」
「残念だけど、”仙蔵”だから」

 これが他の誰かなら、留三郎が言うように、動揺を誘うための虚言である可能性を疑うところだが、仙蔵はそんな小手先の細工を弄する必要がない。そういう実力の持ち主である。
 そして、立花仙蔵という少年は、こういうケレン味の強いことが大好きなのだ。実習中だろうが、なんだろうが、遊ぶと決めたのなら、命がけで遊ぶ。それはとりもなおさず、精神的な余裕の表れなのだから、本当にかなわない、と、伊作などは肩をすくめたくなるのだ。

「本当に、よろしく頼むよ。これに僕の成績もかかってるんだから」
「おう」

 伊作の手から、留三郎の手へ木札が渡ろうとした、そのとき。
 伊作の目が、泳いだ。
 それは、ほんの一瞬だけの変化だった。次の瞬間にはもう、伊作は普段のにこやかさに立ち戻っていた。
 だが。
 たとえ一瞬でも、それを留三郎が見落とすはずがなかった。

作品名:向いてない男 上 作家名:花流