向いてない男 中
いまだ続く留三郎の猛攻をさばきながら、仙蔵は現況について舌打ちした。
全く統制の取れていない、乱闘である。
文次郎と小平太は、森を破壊せん勢いで暴れまわっているし、伊作と長次は半分馴れ合い試合、仙蔵と留三郎も勝手に刃を交えている。
仙蔵が最も嫌う状況だ。
仙蔵の頭の中には、すでにこの裏々山の地図が広げられている。一年生のころから慣れ親しんだ学園の裏庭だから、大体の地形は把握している。
現状打開の一手は、すぐに決まった。
せっかく六年生が一ヶ所に集まっているのだから、焙烙火矢で一気にかたをつける。
しかし、場所が悪い。開けすぎていて、焙烙火矢の威力が拡散してしまう。
だが、この近くには切り通しがあるからそこへ誘導すればいい。
仙蔵は戦闘の合間に、文次郎だけ分かるように、そっと己の懐を指差した。そこには、仙蔵の伝家の宝刀、焙烙火矢が数個入っている。
小平太との激しい攻防の中でも、文次郎はそれに気づいた。そして、目線で頷いて返す。
これで、仙蔵の意図は伝わった。
は組ほどの密接ではないが、い組も連携には自信がある。
すぐに、密やかに、しかし確実に戦場の移動が始まる。そのさりげなさは、もはやプロの域であった。
総合力では他の組に頭一つ以上抜きん出ている、い組である。
しかし、仙蔵も、文次郎も、気づかなかった。
戦場が移動する最中に、は組の二人がそっと目線を交わしたのを。
そして、そのとき、留三郎の目が生き生きと輝き、反対に伊作の目が暗く沈んだのを。
い組の二人だけではない、ろ組の二人も、監督の教師たちも、気づかないことであった。