向いてない男 下
その問いに、伊作が口ごもる。
その表情には、苦渋が滲んでいた。
「何も恥じることはないだろう。忍としては、当然のことだ」
「うん……そうだ。その通りだ」
どちらの意味とも取れる返答をして、伊作は考え込んだ。
少しの間、迷うように視線をさまよわせていたが、事実だけを説明することにしたらしい。教科書を読んでいるような淡々とした口調で話し始めた。
「仙蔵の焙烙火矢に警告すれば、視線がそちらに集まることは予想できた」
火器は仙蔵の、そして、い組の必勝戦術である。
警告すれば、ろ組は必ずそれを阻止しようとするはずであるし、また、文次郎も仙蔵の助けに回らざるを得なくなる。
そうすれば、伊作は自由に動ける時間を手に入れることができる。事実、そうだった。
「けど、焙烙火矢という理由だけじゃ、あの場の視線を仙蔵に集めきることは難しい。きっと誰かが、僕の動きに気付く。そうしたら、全部お終いだ」
なにより仙蔵当人が、伊作の動きに気付く可能性が一番懸念されたのである。
そうなってしまえば、仙蔵は多少の危険を顧みず、伊作を止めるためにも焙烙火矢を放ったはずだ。
また、伊作の霞扇の術を使うよりもさきに、焙烙火矢が投じられるようでもいけない。
「だから、留三郎には捨て駒になってもらうしかなかったんだよ」
警告を発し、自ら積極的に仙蔵に打ちかかり、注目を集めつつ、仙蔵の余裕を奪うために。
今回は、仙蔵に討ち取られた留三郎だが、そうでなくとも、霞扇の術に巻き込まれて、失格になるはずだった。それについては、留三郎も納得づくであるのだが、伊作は忸怩たる思いを消せない。
そういう作戦しか、伊作は立てられなかったのである。
「ふむ、なるほどな」
納得したのだろう、一つ頷いた仙蔵は、ちらりと伊作を流し見た。
そして、からかう様に、唇の両端をにっ、と上げる。
「実に効率的で、忍者らしい戦術じゃないか。本当のところは、貴様は私なぞより、よっぽど忍者に向いているのかも知れんぞ」
「そうかなぁ?」
ふっ、と伊作が苦笑する。
そこには悲哀と、諦観と、そしてどこかさっぱりとしたような色が漂っていた。
「僕は心底、忍者に向いてないって、実感したんだけどな」