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【こたつる】儚くも虚ろわざる想いあれ【連載中】

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そんな事をしては、血だらけになってしまうだろうにと芒と思いつつも、其の掌の温かさが不思議と心地よかった。

「姫御膳、これでお分かりになったでしょう。此れが、外に出た結果です」

「……よく、分かっています」

其処に、先程の声が彼女の背後から掛かった。
霞む視界には彼女の固く握られた掌しか見えず、ピクリとも動かない己に情けなく歯噛みする。

「どうすべきか、分かりますね?」

術が既に解けているのか、彼女が頷き、背を向ける気配が風に伝わって来た。

「禊により、全て俗世の物をお渡しします」

「よろしい」

今にも閉じそうな意識の中では、彼等の云う事の理解が及ばなかったが、漠然と其れが彼女の案じていた永訣の事ではないかと感じた。
いけない、と血で曇る視界を必死にこじ開けながら彼女の背に手を伸ばす。
瞬間、眩む様な光に包まれたかと思えば彼女は氏子と呼ばれた彼の腕の中で眠っていた。

彼は立ち上がると、血に伏せる風魔を一瞥して軽く頭を下げた。

「姫がご迷惑をかけました。しかし、御心配なく。彼女は先の事を全て忘れました故、哀しむ事など無いでしょう」


―宵闇の方は、栗はお好きですか?
―ほら、一緒に食べると美味しいでしょう!
―えへー、ちょっと失敗しちゃったです。


「っ……!!」

「貴方に代わり、彼女は我らが大事として、きっと御守りします」

ギン、と射殺せそうな程の風魔の視線を受け流し、彼は一礼して其のまま立ち去って行った。
風魔は土を掴みながら、初めて其の夜、獣の様に声を出して叫び続けた。
顔を濡らしたのは、雨か涙か。

顔も体も泥だらけにしながら一晩明けた時、其処には心を消した一人の忍が立っていたと云う。