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【こたつる】儚くも虚ろわざる想いあれ【連載中】

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それが、どれだけ怖ろしい事か、分かっていないのだろう。

瞬く間に滝に着けば、彼女はありがとうございます、と腰を折って礼を言う。
忍に対して礼など、かすがの常識では考えられず、慣れない其れを別に、とぶっきらぼうに返した。
相も変わらず、鶴はニコリと微笑むと、まだ冷たいであろう水際に足をつけて滝へと歩んで行った。

何を願う気かは知らぬが、わざわざ危険を犯してまでこんな処に御苦労な物だ。

「馬鹿な奴め」

「お前もな~かすが」

背後からかかる声にギクリとし、振り向けばやはり岩の上で佐助が寝転んでいた。

「何用だ…」

「あのねー、此処は武田の領地なんだから其れはないっしょ。かすがこそ、さっさと退散しないで何してるの? そんなに俺様に会いたかった?」

「そんな訳があるか! 用が無いなら去れ!」

「だーめ。不審者見過ごして、旦那に何かあったら困るし」

「過保護め。いつか竹箒が折れたと言って泣き叫ぶがいいわ」

「ちょ! 俺様、何だと思ってるの!? 言うけど俺、真田の家政婦じゃないからね!?」

抗弁は強気だが、実は自身でも似た様なものだと思っているのは秘密である。

ぎゃあぎゃあと騒ぐ彼から目を離し、鶴の方を振り向けば既に滝の目の前に辿り着いて、膝を折っていた。
静かに目を閉じて両手を合わせる姿は、何処か主の様な光を感じさせ、神聖なものに感じる。
闇をまとう忍だからこそ分かる、澄んだ空気が彼女の周りには漂っていた。

「なあ、かすが。あの子、誰?」

「………知らん」

「何その、明らかに嘘くさい言い方!?」

「巫女と云っていた」

「見りゃ分かるし!」

一々に煩い奴め。気になるなら、己の手で調べれば良かろう。
…己の、手で?

それは妄想であったに違いないが、一瞬、かすがの脳内では鶴を触りまくる佐助の図が出来あがっていた。

「最低だ! 見損なったぞ!!」

「な、何が!?」

「お前こそが誰より破廉恥ではないか!!」

「かすが、さっきから何言ってんの!?」

「くたばれ!」

「かすが様、佐助様」

言い合う最中、凛とした声が会話を遮った。
ハッとして振り向けば、やはり淡く微笑んだ彼女が少し離れた水面の上から見つめていた。

しかし、それに素早く反応したのは佐助である。
瞬時に姿が黒羽に包まれたかと思いきや、次の瞬間には鶴の喉元に苦無を充てていた。

「俺様、名前を言った覚えは無いんだけどなあ~」

彼女が武器を持たぬ事は、彼も歩く音で気付いているだろうが、苦無を取り出すとはよっぽど警戒してるのやもしれない。

一方、彼女の方は、先程かすがが現われたら腰を抜かしたと云うのに、何故か今はやたら落ち着いて微笑んだままである。

「はい、わたしも知りませんでした」

「……?」

「かすが様」

苦無を充てられてる動揺も無く、今度はかすがに振り向けばやはり花開く様に微笑んだ。

「お空を運んで頂き、ありがとうございました!」

「…構わん」

「…それでは、お暇します」

「おいおい、あんたにはまだ聞きたい事、が…」

と、不自然に言葉が途切れる佐助にかすがは眉を寄せた。
佐助自身も驚いているのか、目を見開いたまま彼女を見つめている。

「御縁ありましたら」

最後に一言だけ呟いて、頭を下げた彼女を小さな光の粒が取り囲み一瞬のうちに姿を消してしまった。

何が起きたか分からず唖然とするかすがに、同じく拍子抜けした様な顔の佐助が何だったんだ、と呟いていた。